憧れの世界でもう一度

五味

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三章 新しい場所の、新しい物

久しぶりの教会

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オユキとトモエは、フローラの好意に甘えて、後を任せて宿を後にし教会へと向かう。
話を聞きに、そう決めてはいたものの、なんだかんだと今日まで間を空けてしまった。
門から見れば、奥まった位置、それこそ町全体からすれば、中央寄りの場所にあり、普段利用する宿からも、狩猟ギルドからも遠いため、ついでに足を運ぶような場所ではないことが、その原因だろうか。
トモエが樽を抱えて二人で歩けば、久しぶりに見るその場所へとたどり着く。
中は以前と変わらず清掃が行き届いており、数人が礼拝を行っているところだった。
その衣装はこれまで見慣れた物と違い、仕立ての良いもののように見える。
そのほかにも、ロザリアが来ているものに似てはいるが、仕立てが簡素な長衣を纏い、ゆったりと動く数人の人物もいる。
そんな姿をしり目に、辺りに視線を送れば、一人の女性が近づいてくる。

「本日は、どのような御用でしょうか。」
「こちらを教会に修めに参りました。
 それと、ロザリア様がお時間空いておられるようでしたら、面会が叶えばと。」
「まぁ、ありがとうございます。申し訳ございませんが、少々お待ちいただけますか。
 確認してまいります。お名前をお伺いさせて頂いても宜しいでしょうか。」
「私がトモエ、こちらがオユキです。
 ともに異邦からのものでして、こちらに来た時、ご説明を頂きました。」

そう、トモエが応えると、見慣れない意匠、それでも神に仕える者、そのためだろうと推察できる服を着た女性は、穏やかにほほ笑んで頷く。

「成程。かしこまりました。そうですね、そちらについては、祭壇に一度備えていただいても。」
「その、異邦の者ですから、作法に疎く。」
「気持ちが最も大切ではありますが、そうですね。」

そう言うと、その女性は他の女性を手招きすると、簡単に話を伝えてから、二人に断ると、奥へと進んでいく。

「お二方は、狩猟者とお見受けしますが。そちらの品は、その仕事の中で。」
「はい。河沿いの町で。」
「ああ。あの子たちと一緒に行かれた方ですね。分かりました、それでは、狩猟と木々の神の午前に供えましょう。こちらです。」

立像が並ぶ、礼拝所の奥まった場所、こちらへ来た際、ロザリアに祈りの作法を教えられた場所でもあるそこで、一つの像の前を示される。

「こちらです。像の前に敷き布がありますから、そちらへ。
 そうですね、両手でこのように捧げ持つのが、私達のやりようになりますが、大きいですからね。
 一度おいて、中の物を、神にご覧いただくように。」

樽を持つトモエと並びながら、年若い女性が隣で、仕草を交えて伝えてくれる。
トモエとオユキ、二人で、それを真似ながら、お供えを行う。
そして、狩猟の女神への聖印、それも教えてもらいながら、どうにか見よう見まねで行いきる。

「はい。これで大丈夫です。
 この度は、ありがとうございます。」
「いえ、私どもも、お忙しい中ご教示いただきありがとうございます。
 あまり多くはないので、恐縮ですが。」
「量の過多ではなく、その心遣いに。」

女性がそう言って、何かの印を切る。
それはこれまで見たロザリアの行うものとも、教えられた創造神、狩猟神へのものとも異なっていた。
一つの教会で、いろいろな信仰者がいるのだろうかと、思わず二人が疑問に思えば、それが顔に出たのだろう。
女性が、微笑みながら説明を行う。

「異邦の方はなじみが無いかもしれませんが、教会にて務めを行うものが奉じる神は様々です。
 それで、他の神を軽んじるという事などは、ありませんから。
 私が奉じておりますのは、水と癒しの神。あちらの御姿です。」
「そうなのですね。どうにも、分祀と言いましょうか、分けて祀ると、そういう印象がありまして。」
「領都のように、大きな都市であれば、そうしているところもありますが、何分小さな町ですから。
 分かれて祀り、それで神々への祈りが疎かになっては本末転倒ですもの。」

そういって苦笑いをする女性だが、そう考えるのかと、オユキとトモエも軽い驚きを覚えた。
恐らく、神全体をまず祀る、その中で特に共感する、恩恵を、習慣にあった、そんな神を己の主たる信仰とするのだろう。
ともすれば、以前の世界、二人のいた国よりも、信仰に対して大らかかもしれない。
そんな話をしていると、奥から戻ってきた女性に案内されて、ロザリアと話をするために、以前も使った応接間のようなところに案内される。
既に席について待っているロザリアに、暫く空いたことを謝罪してから、二人で並んで向かいに座ると、本題に入る前の軽い話から、始まる。

「その後、生活は如何でしょうか。」
「恙なく。その折は、いろいろと教えていただき、ありがとうございました。
 そのお礼というわけでもありませんが、先ほど納めさせていただいたものがありますので。
 皆様でどうぞ。」
「その心遣いに感謝を。私たちの子供の面倒も見ていただいているようで。」
「たまたま、ご縁がありましたから。」
「あまり、迷惑になっているようでしたら、仰ってくださいね。
 私のほうからも、注意しますから。」

そういってほほ笑むロザリアに、トモエが首を振りながら応える。

「元気のある、良い子たちですよ。
 負けん気が強かったりと、難しいところがないとは言いませんが、それでも人の話を聞き、きちんと考え動く。
 性根の良い子です。迷惑などは、とても。」
「そう仰っていただければ、幸いです。
 今いる中では、あの子たちが年長ですから、年に似合わず、責任を強く感じるところがありまして。」
「それを空回りさせないのも、年長の務めですから。
 その、そちらの意向を伺わず面倒を見ていますが。」
「それこそ、あの子たちの望む様に。
 日々の糧を得る、その助けをしていただいて、私から何かを言えることなどありません。」
「こちらでのお勤めがあったりは。」
「残念な事ではありますが、教会の子供は多いですから。」

そういうロザリアに、トモエも沈痛な表情を浮かべる。
トラノスケも言っていたが、狩猟者の死は珍しくもない。
両親ともに住両者であり、そこに子供がいれば、まぁ、そうなるのだろう。
それに、他の仕事でも町の外に出れば、いくらでも命の危機があるのだ。
そこには魔物という、明確な脅威が常に存在するのだから。

「その、お持ちした分で、足りるでしょうか。」
「ええ、十分に。多いとはいえ、子供たちも30人程。
 こちらで勤めを行っているのは、10人ですから。あの子たちに持たせていただいた分も含めれば、十分すぎるほどですよ。」
「でしたら、良かったです。子供がお腹を空かせるのは、悲しいですから。」

トモエが、そう呟けば、ロザリアはただ穏やかにほほ笑む。
二人にしても、十分に大きくなったし、孫も、ひ孫もいた。
幸い、オユキも蓄えは十分にあり、困るようなことはないだろう。
それでも、寝る前に、ふとした時に、向こうにいた係累が、健やかだろうか、そんなことはどうしても考えてしまう。
本来ならありえない、そんな延長にいるのだとしても。

「それと、シグルド君には、勝手に約束していますが。」
「はい、聞いています。あの子たちの事に関しては、改めて感謝を。
 私達では、どうしても型どおりに神の教えを伝える事しかできませんから、あの子たちが改めて神に向き合う機会を下さり、感謝しています。」

そういって、ロザリアは二人に一度頭を下げてから続ける。

「それと、望むのであれば、稽古を他の子どもたちにも施してくださるとか。」
「都合のつくときと、どうしてもそうなってしまい、心苦しくはありますが。」
「いいえ、それ以上の厚意をねだるのは、ただのあさましさでしょう。
 そちらも、感謝しています。中には、シグルドたちの話を聞いて、自分もとそういう子もいますから。」
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