憧れの世界でもう一度

五味

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二章 新しくも懐かしい日々

新しい朝

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「おはようございます。よく眠れましたか?」

オユキが目を覚ませば、すぐ隣にある顔から、そんな声がかかる。

「はい。思いのほか長く眠っていましたか。」
「そうですね、私も明け方ではなく、こうして日の昇っている時間に目を覚ますのは久しぶりです。」

そう二人で話しながら、どちらからというわけでもなく、起き上がる。

「オユキさん、足の具合はいかがですか?」

オユキは室内でもあるので、無理に強く踏むことはなく、数度捻った足へと体重をかけてみるが、違和感も痛みもない。

「問題はなさそうですね。昨日ミズキリが言っていましたが、やはり治るのが早いようです。
 場所の確認のため、一度お医者様にお伺いして、そこでまず診て頂いて今日の予定を決めましょう。」
「そうですね。それにしても、こちらの医療費はどの程度なのでしょうか。」
「分かりませんね。お伺いした時に、お尋ねしてからにしましょうか。
 こちらに来るにあたって、十分な資金は頂いていたように思いますが、そういえば、こちらの衣類ではどれくらい使いましたか?」

オユキがそう尋ねると、トモエが外してひとまとめにしていた装備から、一つの小袋を取り出す。

「食費に比べると、かなり高額ですね。やはり工業化されていないからでしょう。
 オユキさんから頂いた分すべてで、この量の衣類ですから。
 私が頂いた分は、すべて残っていますので、一度の診療くらいであれば、問題ないかと。」
「それは、今後も気を付けないといけませんね。」

そういうと、オユキもトモエも、そこまで広くはない空間であるがその中で体を伸ばし、曲げ、柔軟を行う。

「やはり、こう、体が思うように動かせるというのはうれしいですね。」

晩年は、どうしても節々が固まり、今ほど思った通りに、思った以上に体が応えてくれることはなかった。

「トモエさんは、昨日かなり負担をかけてしまいましたが、不調はありませんか?」
「体が重く感じますが、これは疲労ではなく、本当に感覚的な重量の部分ですね。」
「そうでしょうね。私も体が軽くて心許ない、そんな感覚は抜けません。」
「少なくとも、二月はかかりそうですね、違和感に慣れるまでは。
 ところで、魔術と呼ばれるものは、どのような物でしょう。
 その中には、怪我を癒すようなものは無いのですか?」
「はい。ありましたよ。ただ、私は以前のゲームでは、結局扱えませんでしたから。」

オユキは、柔軟を、オユキが思う以上に柔らかい体に驚きながら終える。
以前はゲームに使えそうだと、そんな理由からそういった技術に手を出したこともあり、体は、同年代、何もしていない相手に比べれば柔らかに動いたが、トモエほどではなかった。
今は過去に見たトモエ以上に、柔らかに体が動く。

「そのように仰っていましたね。今回はどうでしょう。
 私も興味はありますので、一度魔術ギルドでしたか、伺ってみたいと考えていますが。」
「ええ。いいですね。昨夜も言いましたが、何も私の行いをなぞる事もないでしょうから。
 この町にもあるはずですから、一度伺って、話を聞かせていただきましょうか。」

そういって、二人で連れ立ってまた一階へと向かう。
こちらの人々は、勤勉であるらしく、食堂にはすでに人がまばらとなっていた。

「おはよー。どうする?すぐご飯にする?」
「ええ、おはようございます。
 そうですね、いただけますか?」

オユキがそう答えれば、フラウはすぐにパタパタと駆けだす。
彼女にしても、二人が起きだすより早く、こうして家の仕事を手伝っているのだろう。
そうして、空いている机の一つに、二人で座ると、昨夜の夕食とは変わり、野菜のサラダ、果物らしき物、膨らんでいるパン、それにヨーグルトのようなものが並べられる。

「はい、どうぞ―。足りなかったらお肉焼くよ。燻製したものになるけど。どうする?」
「私は、大丈夫です。トモエさんは?」

オユキがそう聞けば、トモエは少し考えるそぶりを見せ、応える。

「そうですね、いただけますか?」
「はーい。」
「オユキさんも、少し私からお分けしますので。卵でもあれば、それでいいのでしょうが。」
「燻製されていれば、油も落ちているでしょうから、少しなら口にできるでしょうか。」
「調理法次第でしょうね。私も久しぶりに料理をしてみたくありますが。」
「そうですね。私もトモエさんの作ったものを、頂きたく思います。
 少し慣れてきたら、いろいろと、そうですね、いろいろと試していきましょう。
 今度は、私が覚えてみるのも面白そうですし。」

そういうと、トモエは少し苦い顔をする。
オユキの生前、ほとんど料理など作らなかったことを思い出しているのだろうか。
もしくは、たまに作った物、それこそ肉を焼くだけ、お湯を入れるだけ、それを料理と呼んだことだろうか。
そう、思い当たる節が、確かにオユキにはあったが、トモエの懸念は異なった。

「そうですね、ただ、昨日の事を思い返すと、台所の高さが不安ですね。」

言われたオユキは、それがあったかと、そう思いいたる。

「こちらの方は、私達のいた場所よりも、平均値が高そうですから。
 少し、そのあたりも考えて、設定をさせていただいたほうが良かったでしょうか。」
「構いませんよ。それで不便があったとしても、納得したのは私です。
 それに、思い入れもあったのでしょう?」

そういうと、トモエは少し恥ずかし気に、はいと頷く。

「なら、構いませんよ。
 不便を楽しむことなんて、それこそ慣れた物です。お互いに。」

そんな話をしているうちに、フラウが焼いた大振りのベーコンを持ってくる。
さて、多くの人がおいしそうだと、そう評するだろう、きれいに白い油が層を作るそれを見て、オユキは思わず身を引いてしまった。
そして、そんなオユキをフラウが咎める。

「もー。好き嫌いは駄目だよ。ちゃんと食べないと大きくなれないんだから。」

昨晩と同じ言葉に、オユキは苦笑いをするしかない。
苦手意識、それこそ晩年は脂が胃もたれをもたらしたこともあり、あまり食べていない、そんな時間が続いたことに加えて、この体は、あまり食に積極的ではないようだと、そんな実感をオユキは得てしまう。

「ええ。大丈夫ですよ。私のものを分けますから。フラウさんは、好き嫌いなく?」
「うーん。好きじゃない野菜もあるけど、でも、食べるよ。」
「それはいい事ですね。」

そう、トモエがほめると、まぁね、そういって直ぐに何処かへと移動する。
そんな姿を目で追いながら、オユキとトモエは食事に取り掛かる。
そして、生前とは逆に、オユキが食事を終えるのを、トモエが待つと、そういう結果となった。

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