憧れの世界でもう一度

五味

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1章 懐かしく新しい世界

二人の今後

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借りた部屋は、がらんとした室内に、木の板が置かれ、藁を敷き詰めそこにシーツを乗せた、そんな寝台が一つ置かれているきりだった。
床にそのまま寝転がるしかない、それに比べればいくらかましではあるがそれでも、前の世界と比べてしまえば、不満が出る物でもあるだろう。

オユキとトモエは、そんな寝台に二人並んで座る。

「トモエさん。今日一日、慌ただしかったですが、如何でしたか。」

オユキ自身、いくらかの疲れと眠気を覚えながら、そう口にする。

「楽しかったです。思うままに体を動かし、新しいものにあれこれと触れ、食事も、ここまで味覚は鮮やかだったかと、本当にうれしい驚きがたくさんありました。」
「私もです。いえ、食事の量については、ちょっと難しいところもありましたが。
 久しぶり、もう10年以上、20年近い、そんな思い出に満ちた場所で、こうしてまた二人で。
 こんなに、嬉しいことがあってもいいものかと。」

そういって、オユキが見上げて、トモエは視線を降ろして。
以前は並んで座れば、ここまでしなくても、目があったな、そんなことを考えながら、のんびりと話す。

「その、オユキさんは、こちらに来なかった知り合いがいて、残念ではありませんか。」
「いえ、未練を断ち切ったからこそです。私がその方々へ未練を持つのは、選択を貶めることになりますから。」
「その言い方では、持っていると、そういってるのも同じですよ。」

そういってほほ笑むトモエに、オユキも笑い返す。

「どれだけ生きても、やはりその在あたりはままならない物です。
 こうしてまた二人で、それを喜ぶのも、やはり根は同じですから。」

そういうオユキの手に、トモエが手を重ねる。

「そうですね。私もそこまで前ばかりは見れません。」

そうして、互いに肩を寄せる。生前、それこそ晩年は二人でよくこうして縁側に座り、庭を、子供や孫を見ながら、ただ何をするでもなく、ぼんやりとお茶を飲みながら過ごしたものだ。
だが、その時間にどれだけの幸福を感じていただろう。
笑いながら走る小さな孫もいれば、オユキやトモエの側で、一緒にお茶を飲みながら菓子を食べる子もいたし、本を読んでとせがむ子もいた。
オユキに一緒にゲームをやろう、そう誘う子もいた。
そんなことを思い返しながらも、オユキは先の事を話す。

「トモエさんは、これから、何かしてみたいことなどはありますか?」
「オユキさんは如何でしょう。私よりもこちらに思い入れが強いでしょう?」

トモエの言葉に、オユキは少し考えるが、答えはすぐに出てしまった。

「いえ、私はやはり、ここにもう一度と。それこそ死の間際にもそんなことを考えていたばかりで。
 それだけが目標のような、そんなこうしているだけで達成できてしまっている有様ですから。」
「もう少し、欲を持ってもいいのでは。」
「今後、何か思いつくこともあるでしょう。
 また長い時間、そうあるように努めていけば、何処かできっと何かは見つかります。
 それに、いま無理やり目標を決めるというのも、性急過ぎると、もったいないと、そう思ってしまいますから。」

オユキがそういえば、トモエはそうですか、そうほほ笑む。
そういう、トモエさんは何かありますかと、オユキが繰り返せば、トモエは少し考えてから口を開く。

「そう、ですね。よくオユキさんから話を聞いて、興味を持っている場所があります。
 叶うなら、そこに行ってみたいですね。あちらではとても目にすることができないような、そんな場所だと、そう聞こえましたから。」

オユキはそれを聞いて、うれしくなる。
当時は、話を一方的に、楽しんで聞いてくれていると、そう思ってはいたが、聞くだけで、ゲーム内の画像、公式に発表されるものも、オユキが撮影したものも、見ようとはしなかったので、不安に覚えることもあった。

「それは、どこでしょう。まずは、そこに行くことを目標にしましょうか。
 長い時間がたっているようですので、同じかは分かりませんが。」
「それはそれでよいものでしょう。その時に前との違いがあれば、それを話して楽しむこともできるっでしょう。」

そういうと、トモエは、特に興味があったのは、と10の場所を告げる。
それを聞いたオユキは、確かに、ゲームの中でもとくに有名であり、実に多くの人が訪れ、様々な画像が共有された、その場所を思い出す。
問題は、それをすべて回るのであれば、文字通りこの世界を隅から隅まで歩き回る、それとほぼ同義であること。
また、そのすべての場所には神殿が建てられており、神の膝元、そう呼ばれる場所であることだろう。

だが、そこはやはり、そう呼ばれるにふさわしい威容を備え、目を見張る自然が存在する場所でもある。

「そうですね。ロザリア様にお伺いしてみましょうか。」

オユキがトモエの挙げた場所を聞き終え、そう提案すると、トモエはわからないのだろう、僅かに首をかしげる。

「それらの場所は、全て神の側と、そうされている場所ですから。
 ロザリア様であれば、詳しいでしょう。」
「主要な神は5柱と、そう伺っていましたが。」
「ええ、こういういい方は不敬ではありますが、最高神、4大神、その下に5柱の上級神、そこから先に、無数の眷属神や下級の神、そのようになっていたはずです。
 今話に出た場所は、その上位10柱の神に所縁のある地ですから。」

オユキは、以前の世界地図、そして今の場所、始まりの町、その場所を頭に思い浮かべる。

「ここから一番近いのは、ロザリア様が功績を認められた、月の女神、常夜の庭でしょうか。」
「そうなのですね。どうも常夜といった言葉を聞くと、極地の印象がありましたが。」
「そのあたりは、ゲームだからというのもあったのでしょうね。
 それに、同じ位置かもわかりません。そういった意味で、ロザリア様にお伺いしてみましょうか。」

そういって、オユキはそのエリア、そこに訪れる難易度にも思いを馳せる。
近いとはいえ、相性さえよければ、常夜の庭は特に難しい場所ではなかったが。

「ただ、なんにしても今の私達では少し困難でしょう。
 まずは力をつけないといけませんね。」
「ええ。そうですね。」

オユキの言葉に、トモエは頷きを返す。

「訪う順番に希望はありますか?」

互いに寄りかかるようにとはいかないが、オユキは触れる肩に体重をよりかけながら、そう聞いてみる。

「いいえ。行ってしまえば、観光の希望ですからね。
 神々に、よくも興味本位でと、そう怒られなければよいのですが。」
「それこそ、敬意を持ち、真摯に訪れればよいでしょう。
 それでお叱りを受けるかは、ロザリア様に尋ねるのもよいのですが、それこそ神のみぞ知る、そうなるでしょうから。」
「そうですね。お会いした創造神様を思えば、喜んでくださるかとも思いますが。」

そうして、二人でのんびりと話しながら、オユキはいつの間にか意識を手放す。
疲れを感じて、というよりも体が眠気に負けた、そのような眠りではあったが、久しぶりに、かつてそうだったように、二人で並んで寝る、その安心感、満足感だけは、しっかりと感じていた。
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