憧れの世界でもう一度

五味

文字の大きさ
38 / 1,235
1章 懐かしく新しい世界

二人の今後

しおりを挟む
借りた部屋は、がらんとした室内に、木の板が置かれ、藁を敷き詰めそこにシーツを乗せた、そんな寝台が一つ置かれているきりだった。
床にそのまま寝転がるしかない、それに比べればいくらかましではあるがそれでも、前の世界と比べてしまえば、不満が出る物でもあるだろう。

オユキとトモエは、そんな寝台に二人並んで座る。

「トモエさん。今日一日、慌ただしかったですが、如何でしたか。」

オユキ自身、いくらかの疲れと眠気を覚えながら、そう口にする。

「楽しかったです。思うままに体を動かし、新しいものにあれこれと触れ、食事も、ここまで味覚は鮮やかだったかと、本当にうれしい驚きがたくさんありました。」
「私もです。いえ、食事の量については、ちょっと難しいところもありましたが。
 久しぶり、もう10年以上、20年近い、そんな思い出に満ちた場所で、こうしてまた二人で。
 こんなに、嬉しいことがあってもいいものかと。」

そういって、オユキが見上げて、トモエは視線を降ろして。
以前は並んで座れば、ここまでしなくても、目があったな、そんなことを考えながら、のんびりと話す。

「その、オユキさんは、こちらに来なかった知り合いがいて、残念ではありませんか。」
「いえ、未練を断ち切ったからこそです。私がその方々へ未練を持つのは、選択を貶めることになりますから。」
「その言い方では、持っていると、そういってるのも同じですよ。」

そういってほほ笑むトモエに、オユキも笑い返す。

「どれだけ生きても、やはりその在あたりはままならない物です。
 こうしてまた二人で、それを喜ぶのも、やはり根は同じですから。」

そういうオユキの手に、トモエが手を重ねる。

「そうですね。私もそこまで前ばかりは見れません。」

そうして、互いに肩を寄せる。生前、それこそ晩年は二人でよくこうして縁側に座り、庭を、子供や孫を見ながら、ただ何をするでもなく、ぼんやりとお茶を飲みながら過ごしたものだ。
だが、その時間にどれだけの幸福を感じていただろう。
笑いながら走る小さな孫もいれば、オユキやトモエの側で、一緒にお茶を飲みながら菓子を食べる子もいたし、本を読んでとせがむ子もいた。
オユキに一緒にゲームをやろう、そう誘う子もいた。
そんなことを思い返しながらも、オユキは先の事を話す。

「トモエさんは、これから、何かしてみたいことなどはありますか?」
「オユキさんは如何でしょう。私よりもこちらに思い入れが強いでしょう?」

トモエの言葉に、オユキは少し考えるが、答えはすぐに出てしまった。

「いえ、私はやはり、ここにもう一度と。それこそ死の間際にもそんなことを考えていたばかりで。
 それだけが目標のような、そんなこうしているだけで達成できてしまっている有様ですから。」
「もう少し、欲を持ってもいいのでは。」
「今後、何か思いつくこともあるでしょう。
 また長い時間、そうあるように努めていけば、何処かできっと何かは見つかります。
 それに、いま無理やり目標を決めるというのも、性急過ぎると、もったいないと、そう思ってしまいますから。」

オユキがそういえば、トモエはそうですか、そうほほ笑む。
そういう、トモエさんは何かありますかと、オユキが繰り返せば、トモエは少し考えてから口を開く。

「そう、ですね。よくオユキさんから話を聞いて、興味を持っている場所があります。
 叶うなら、そこに行ってみたいですね。あちらではとても目にすることができないような、そんな場所だと、そう聞こえましたから。」

オユキはそれを聞いて、うれしくなる。
当時は、話を一方的に、楽しんで聞いてくれていると、そう思ってはいたが、聞くだけで、ゲーム内の画像、公式に発表されるものも、オユキが撮影したものも、見ようとはしなかったので、不安に覚えることもあった。

「それは、どこでしょう。まずは、そこに行くことを目標にしましょうか。
 長い時間がたっているようですので、同じかは分かりませんが。」
「それはそれでよいものでしょう。その時に前との違いがあれば、それを話して楽しむこともできるっでしょう。」

そういうと、トモエは、特に興味があったのは、と10の場所を告げる。
それを聞いたオユキは、確かに、ゲームの中でもとくに有名であり、実に多くの人が訪れ、様々な画像が共有された、その場所を思い出す。
問題は、それをすべて回るのであれば、文字通りこの世界を隅から隅まで歩き回る、それとほぼ同義であること。
また、そのすべての場所には神殿が建てられており、神の膝元、そう呼ばれる場所であることだろう。

だが、そこはやはり、そう呼ばれるにふさわしい威容を備え、目を見張る自然が存在する場所でもある。

「そうですね。ロザリア様にお伺いしてみましょうか。」

オユキがトモエの挙げた場所を聞き終え、そう提案すると、トモエはわからないのだろう、僅かに首をかしげる。

「それらの場所は、全て神の側と、そうされている場所ですから。
 ロザリア様であれば、詳しいでしょう。」
「主要な神は5柱と、そう伺っていましたが。」
「ええ、こういういい方は不敬ではありますが、最高神、4大神、その下に5柱の上級神、そこから先に、無数の眷属神や下級の神、そのようになっていたはずです。
 今話に出た場所は、その上位10柱の神に所縁のある地ですから。」

オユキは、以前の世界地図、そして今の場所、始まりの町、その場所を頭に思い浮かべる。

「ここから一番近いのは、ロザリア様が功績を認められた、月の女神、常夜の庭でしょうか。」
「そうなのですね。どうも常夜といった言葉を聞くと、極地の印象がありましたが。」
「そのあたりは、ゲームだからというのもあったのでしょうね。
 それに、同じ位置かもわかりません。そういった意味で、ロザリア様にお伺いしてみましょうか。」

そういって、オユキはそのエリア、そこに訪れる難易度にも思いを馳せる。
近いとはいえ、相性さえよければ、常夜の庭は特に難しい場所ではなかったが。

「ただ、なんにしても今の私達では少し困難でしょう。
 まずは力をつけないといけませんね。」
「ええ。そうですね。」

オユキの言葉に、トモエは頷きを返す。

「訪う順番に希望はありますか?」

互いに寄りかかるようにとはいかないが、オユキは触れる肩に体重をよりかけながら、そう聞いてみる。

「いいえ。行ってしまえば、観光の希望ですからね。
 神々に、よくも興味本位でと、そう怒られなければよいのですが。」
「それこそ、敬意を持ち、真摯に訪れればよいでしょう。
 それでお叱りを受けるかは、ロザリア様に尋ねるのもよいのですが、それこそ神のみぞ知る、そうなるでしょうから。」
「そうですね。お会いした創造神様を思えば、喜んでくださるかとも思いますが。」

そうして、二人でのんびりと話しながら、オユキはいつの間にか意識を手放す。
疲れを感じて、というよりも体が眠気に負けた、そのような眠りではあったが、久しぶりに、かつてそうだったように、二人で並んで寝る、その安心感、満足感だけは、しっかりと感じていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...