憧れの世界でもう一度

五味

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1章 懐かしく新しい世界

宿へ

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「ああ、忘れていたな。
 どうする、俺と同じ場所でよければ、案内するが。
 ああ、料金はそこまで高くない。今日の報酬で2、3日は問題なく泊まれる。」

トラノスケが、そういい、金額についても補足を行う。
それを聞いたオユキは、トモエを見上げると、トモエはそれに頷きで応える。

「ええ、それではお願いします。
 それにしても、本当に物価が低いのですね。持ち込んだものに関しても、魔石以外はほとんど捨て値に近かったようですし。」

オユキはそういって、先ほどの査定を思い出す。
丸兎の肉にしても、一塊、数キロはあっただろう。
詳細な査定にも、細かい数字は見ていないが、2キロ以上の記載はあった。
だが、その肉塊の十倍近い値段が、あの小さな魔石一つについていた。

「そのあたりは、正直俺も最低限しか知らないんだ。
 前の世界で言うところの、電池に近いものらしいが、電池も向こうでは安かったしな。」
「まぁ、単純比較できるものでもないでしょう。
 そういえば、通貨の単位はゲーム時代と同じ、ペセですか?」
「ああ。代替、宿が二食付き、一泊で50くらいだな。
 魔石一つ拾ってくれば、どんなに小さいものでも、一日はとまれる。それ以外だと、かなりの労力がいるがな。」

それを聞いたトモエが、疑問の声を上げる。

「丸兎からも取れたかと思いますが、この町にはそれほど狩猟者が?」
「ああ、少ない。」

始まりの町、己の腕に自信が出てきたものは、さらなる高みを求めて、離れていく。
それが自然な流れで、必然この場に留まるものは、駆け出しか、余生に穏やかさを求めた物か。

「それに、死亡する狩猟者も少なくはない。それこそ、駆け出しの新人は月に一人くらい、グレイハウンドにやられる。さっきのように、森の浅いところでも、集団で襲ってくるからな。
 他との戦闘で疲れた、荷物が重く身動きが取れない、まぁ、何でもいい、とにかく間が悪く集団にかち合えば、新人ではどうにもならん。」

それを聞いた、トモエが眉をひそめて、疑問の声を上げる。

「ギルドで、対策は?」
「しているさ、資料もそうだし、頼めば訓練だって受けられる。」
「それなのに、ですか。」
「それでもだ。ゲームじゃない、その影響なんだろうな。
 バカは何処にでもいる、そして、前の世界より命を落としやすい。そういう事だろうな。」

そういって、トラノスケがどこか遠くを見る。
面倒見のいい彼の事だ、これまで、二ヵ月といっていたか、その短い期間でも既に経験があるのだろう。
月に一人、前の世界ではどうだろう、それぐらいの頻度で死亡事故は存在した気もするが、それは、少なくとも、このように小さな町単位ではなかっただろう。
オユキは、何処か遠くを見るトラノスケを見ながら、そんなことを考える。

「すまない。せっかくの初日に、水を差すような事を言ったな。
 さぁ、あそこだ。あそこが俺の泊まっている宿、渡り鳥の雛亭だ。」

そういって、トラノスケが指さす先には、随分と趣のある建物が存在している。
縦に並ぶ窓の数通りであれば、それは三階建ての建物なのだろう、外観は木造、開けた入口はまさにバルを思わせる。
その出入り口で、一人の娘が布を片手に、両開きの扉を拭いている。
トラノスケが慣れた様子で、その娘に近づき、声をかける。

「嬢ちゃん、精が出るな。今戻った。それと古い馴染みがいるんだが、部屋は空いてるかい。」

少し離れた場所から、トラノスケが声をかけると、娘は跳ねるように振り向き、笑顔で答える。

「お帰りなさい、トラノスケさん。ええ、空いてますよ。そちらの方々ですか?」

トラノスケの掛けた声で、誰かが分かる、その程度には細かく気配りのできる娘らしい。
オユキがそのことに感心していると、未だにトモエに横抱きにされているオユキに、パタパタと近づいてくる。

「怪我してるの?うちに泊まるより先に、診療所に行くほうがいいんじゃない?
 部屋は空いてるから、予約だけはしておくよ?」

わたわたと、忙しない様子で、それでも心配してそう声をかける姿に、オユキとトモエは好感を覚える。
孫の一人で、こうしてとにかく体当たり至上主義とでもいうのか、そういった気質の子がいた物だ、それを思い出して、二人とも目を合わせ、笑みがこぼれる。

「大丈夫ですよ。少し捻っただけです。早く治すため、こうしているだけですから。」
「そうなんですか?でも、治ってないならこの道、こっちです、此処をしばらく行くと、診療所がありますから。」
「ご丁寧にありがとうございます。今日は様子を見て、明日にでも一度お伺いさせていただきますね。」
「本当だよ。約束だからね。
 ちっちゃい子なんだから、ちゃんと面倒見てあげないとだめだよ。」

その言葉に、トモエは微笑むが、オユキにしてみれば、少し内心複雑なものが現れる。
孫娘程、そんな相手に小さい子、そう呼ばれるのか、と。

「勿論です。」

そういって、トモエが笑顔で頷くと、安心したのか、すぐに後ろに振り返って、宿とトラノスケに紹介された建物の中に駆け込んでいく。

「おかーさん。トラノスケさん帰ってきたよ。それから、お客さんも連れて来てくれたって。」

その賑やかな様子に、三人は目を合わせて、それから、そのあとに続き、建物へと入っていく。
内装は、落ち着いたもので、年季の入った木目が、室内の照明にうっすらと光を返す。
広々としたエントランスには、いくつもの丸テーブルが並べられ、そこにはスツールが添えられている。
受付らしきカウンター、奥に樽が並べられたカウンター、二階に上がるためだろう、階段も存在している。
そんな、何処か雑然とした空気も、外観通りのバルとそういった雰囲気を強くさせている。

「はいよ、お帰り、そしていらっしゃい。そっちの二人は見ない顔だね。」
「お客さんだって。トラノスケさんの馴染みらしいよ。」
「ああ、そうかい。という事は、今日からかい。
 まぁ、立ち話もなんだ、そっちの嬢ちゃんも、早く休ませてあげなきゃなんないだろ。」

こっちに来な、そう呼ばれるまま、トモエがオユキを抱えて歩き出す。

「トラノスケの旦那から聞いてるかい?
 うちは一泊、二食付き、一人一部屋で50ペセ、相部屋の場合は、食事の分、一人当たり15ペセの追加だ。
 追加注文は、その都度清算だけどね。」
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