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第三章 王都攻防編
貴族の戦い①
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ある日、カトリーナは庭園を整え朝のお茶を楽しんでいた。
花を愛でながら、甘い香りの紅茶を楽しむことはとても贅沢なことだった。もちろん服装は作業着のままだったのでダシャはやや眉をひそめてはいるが。
カトリーナは一口、また一口と紅茶を楽しみながらもどこか気もそぞろだ。
どうしてかというと、ここにいるはずの人間。バルトがいないからだった。
「バルト様、大丈夫かなぁ」
「きっと大丈夫ですよ。あの方は強いですから」
「そうよね。ちゃんと、明日会えるわよね」
そう。
バルトは一週間の遠征に出かけている最中だったのだ。
まだまだ前任の事務仕事が終わらないバルトだったが、毎年定期的に行っている討伐遠征にはでかけなければならなかった。
カトリーナは、そんなバルトの身を案じていた。
「ダシャはこれからどうするの?」
「私ですか? 私はいつも通り屋敷のメイドの管理と……あ、そういえば、今日は仕入れを担当している商会に顔を出す用事があります」
「商会の方と?」
「はい。執事長に頼まれたのですが、商品の仕入れ先が変わったからものを見てほしいんだそうですよ」
「そんなこともあるのね。じゃあ、午前中は――」
「リリがおります」
「わかったわ」
用事があるのならと早々にお茶を終えたカトリーナはダシャと別れ自室へと戻った。
ようやくここで暮らす地盤が整ってきたカトリーナは、午前中、読み物をしていることが多くなった。
子爵家時代には知りも知らなかった高位貴族が、今では守ってあげなければならない立場にある。
プリ―ニオの勧めもあり、貴族社会についてもっぱら勉強の毎日だ。
カトリーナが自室に入ると、そこには既にリリが待っていた。
相変わらず、やや鋭い視線がカトリーナを貫く。
「お帰りなさいませ。ご用命があった書籍はこちらに用意しておきました」
「ありがとう、リリ」
そう言いながら、カトリーナはリリにそっとお菓子を手渡した。
すると、リリはちょっぴり顔を赤くしてそれを静かに受け取る。
「こんなものでご機嫌取りなんて通用しませんから」
「はいはい、わかってるわ。ララにも買ってあげたから、あなたにもないとおかしいでしょう?」
それきり黙ってしまうリリだったが、このやり取りはしばらく続いていた。
基本的には午前中はリリ、午後はララがカトリーナの監視につくことが多かった。すると、どうしても下町に遊びにいくのはララが多くなってしまう。
そこでおみやげを買うことが多かったが、リリだけにあげないのはかわいそうだと思ったのだ。
そこで、文字通り餌付けとばかりにお菓子をこうして渡すことにしていた。
思ったよりも効果がありそうだと、内心カトリーナはほくそ笑んでいた。
そうしてしばらく読み物に熱中していると、部屋をノックする音が響いた。
振り返ると、そこにはセヴェリーノが立っている。
「あら? 今日はプリ―ニオは?」
「執事長は所用で出かけております。それよりも、奥様にはこれを」
「あら、なにかしら」
セヴェリーノが恭しく渡してくるものは封蝋で閉じてある手紙だ。彼女はその封蝋をみて思わず顔をしかめた。
なぜなら、それは王家を示す封蝋であり、王家に連なるものか王城からの連絡でしか使われない。
カトリーナはすばやくその手紙を取り出すと、中身をみて思わず止めた。
「奥様、中身にはなんと」
「バルト様が遠征中に事故にあったらしいの。すぐに王城に来てほしいと書いてあるわ」
カトリーナの淡々とした言葉に、リリもセヴェリーノもおもわず声を挙げた。
「そんな! ご主人様が!?」
「では、奥様。すぐに向かわなければ――」
が、そんなセヴェリーノの言葉をカトリーナは遮った。
「それよりも、プリ―ニオはどこにいったの? いつ戻ってくる?」
「執事長は今日は夜まで戻ってくることはありません」
「そう……」
そういってカトリーナはじっと壁を見つめて思案する。
張り詰めた部屋の空気が肌に刺さる。
ちょうど居心地の悪さを感じ始めたころ、カトリーナは顔をあげてセヴェリーノに指示を出した。
「なら、セヴェリーノ。私は王城に向かうわ。その代わり、数人護衛を付けてちょだい。セヴェリーノは取引している商会に急いでむかって。ダシャがいるからすぐにこのことを伝えなさい。リリは、この屋敷でプリ―ニオの帰りを待ちなさい。いいわね」
「はい、奥様」
「では、私はすぐに商会に向かいます」
「お願い。馬車の準備ができたら声をかけて。身支度を整えてくるわ」
そういって弾かれたようにその場から動き出した三人。
準備を整えている最中、カトリーナの胸の内はざわめいていた。
バルトの事故がどの程度だったのか。
今、バルトは無事なのか。
妻が呼ばれるほどの大ごとなのだから、もしかしたら。
などなど。ほとんどがバルトのことで埋まっていた。
だが、ここは異世界。
前世ではない。
カトリーナは知らなければならなかったのだ。
夫が事故にあったからと普通は王城に呼ばれるわけではないことを。
なぜ、今日ばかりプリ―ニオやダシャのような慣れ親しんだ人間がいないかを。
彼女は気づかなければならなかったのだ。
花を愛でながら、甘い香りの紅茶を楽しむことはとても贅沢なことだった。もちろん服装は作業着のままだったのでダシャはやや眉をひそめてはいるが。
カトリーナは一口、また一口と紅茶を楽しみながらもどこか気もそぞろだ。
どうしてかというと、ここにいるはずの人間。バルトがいないからだった。
「バルト様、大丈夫かなぁ」
「きっと大丈夫ですよ。あの方は強いですから」
「そうよね。ちゃんと、明日会えるわよね」
そう。
バルトは一週間の遠征に出かけている最中だったのだ。
まだまだ前任の事務仕事が終わらないバルトだったが、毎年定期的に行っている討伐遠征にはでかけなければならなかった。
カトリーナは、そんなバルトの身を案じていた。
「ダシャはこれからどうするの?」
「私ですか? 私はいつも通り屋敷のメイドの管理と……あ、そういえば、今日は仕入れを担当している商会に顔を出す用事があります」
「商会の方と?」
「はい。執事長に頼まれたのですが、商品の仕入れ先が変わったからものを見てほしいんだそうですよ」
「そんなこともあるのね。じゃあ、午前中は――」
「リリがおります」
「わかったわ」
用事があるのならと早々にお茶を終えたカトリーナはダシャと別れ自室へと戻った。
ようやくここで暮らす地盤が整ってきたカトリーナは、午前中、読み物をしていることが多くなった。
子爵家時代には知りも知らなかった高位貴族が、今では守ってあげなければならない立場にある。
プリ―ニオの勧めもあり、貴族社会についてもっぱら勉強の毎日だ。
カトリーナが自室に入ると、そこには既にリリが待っていた。
相変わらず、やや鋭い視線がカトリーナを貫く。
「お帰りなさいませ。ご用命があった書籍はこちらに用意しておきました」
「ありがとう、リリ」
そう言いながら、カトリーナはリリにそっとお菓子を手渡した。
すると、リリはちょっぴり顔を赤くしてそれを静かに受け取る。
「こんなものでご機嫌取りなんて通用しませんから」
「はいはい、わかってるわ。ララにも買ってあげたから、あなたにもないとおかしいでしょう?」
それきり黙ってしまうリリだったが、このやり取りはしばらく続いていた。
基本的には午前中はリリ、午後はララがカトリーナの監視につくことが多かった。すると、どうしても下町に遊びにいくのはララが多くなってしまう。
そこでおみやげを買うことが多かったが、リリだけにあげないのはかわいそうだと思ったのだ。
そこで、文字通り餌付けとばかりにお菓子をこうして渡すことにしていた。
思ったよりも効果がありそうだと、内心カトリーナはほくそ笑んでいた。
そうしてしばらく読み物に熱中していると、部屋をノックする音が響いた。
振り返ると、そこにはセヴェリーノが立っている。
「あら? 今日はプリ―ニオは?」
「執事長は所用で出かけております。それよりも、奥様にはこれを」
「あら、なにかしら」
セヴェリーノが恭しく渡してくるものは封蝋で閉じてある手紙だ。彼女はその封蝋をみて思わず顔をしかめた。
なぜなら、それは王家を示す封蝋であり、王家に連なるものか王城からの連絡でしか使われない。
カトリーナはすばやくその手紙を取り出すと、中身をみて思わず止めた。
「奥様、中身にはなんと」
「バルト様が遠征中に事故にあったらしいの。すぐに王城に来てほしいと書いてあるわ」
カトリーナの淡々とした言葉に、リリもセヴェリーノもおもわず声を挙げた。
「そんな! ご主人様が!?」
「では、奥様。すぐに向かわなければ――」
が、そんなセヴェリーノの言葉をカトリーナは遮った。
「それよりも、プリ―ニオはどこにいったの? いつ戻ってくる?」
「執事長は今日は夜まで戻ってくることはありません」
「そう……」
そういってカトリーナはじっと壁を見つめて思案する。
張り詰めた部屋の空気が肌に刺さる。
ちょうど居心地の悪さを感じ始めたころ、カトリーナは顔をあげてセヴェリーノに指示を出した。
「なら、セヴェリーノ。私は王城に向かうわ。その代わり、数人護衛を付けてちょだい。セヴェリーノは取引している商会に急いでむかって。ダシャがいるからすぐにこのことを伝えなさい。リリは、この屋敷でプリ―ニオの帰りを待ちなさい。いいわね」
「はい、奥様」
「では、私はすぐに商会に向かいます」
「お願い。馬車の準備ができたら声をかけて。身支度を整えてくるわ」
そういって弾かれたようにその場から動き出した三人。
準備を整えている最中、カトリーナの胸の内はざわめいていた。
バルトの事故がどの程度だったのか。
今、バルトは無事なのか。
妻が呼ばれるほどの大ごとなのだから、もしかしたら。
などなど。ほとんどがバルトのことで埋まっていた。
だが、ここは異世界。
前世ではない。
カトリーナは知らなければならなかったのだ。
夫が事故にあったからと普通は王城に呼ばれるわけではないことを。
なぜ、今日ばかりプリ―ニオやダシャのような慣れ親しんだ人間がいないかを。
彼女は気づかなければならなかったのだ。
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