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第二章
2 孤児院での奉仕活動
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「あっ! ミアおねーちゃんだ!」
「お姉ちゃん! ねぇ、今日は何を持ってきてくれたの? クッキー? パイ?」
「あたしりんごのタルトがいいなぁ。甘酸っぱくて大好き!」
「当たりよ、今日はリンゴのタルトなの。でも先にお勉強をがんばりましょうね?」
「……ちぇ」
焼きたてのタルトを持ったミアが侍女のサラと共に訪れたのは、王都の外れにある孤児院だった。
伯爵家の馬車を降りた途端、小さな子供たちが目をキラキラと輝かせて走り寄って来る。
教会に併設される形で設立されているこの孤児院は、疫病や事故で両親を失った者や金銭的な事情で捨てられた者など、多数の子供達が共同生活を送っている場所だ。
このような施設は大抵定員を遥かに超えて子供を受け入れていて、国からの補助があっても常に人出も資金も不足している。
ミアがこの施設について知ったのは、ちょうど彼が戦地に赴いた半年前のことだった。
彼がいなくなってしまったことが悲しくて、寂しくて、どうしようもなく不安な気持ちでいっぱいだった毎日。
しばらく何も手につかないまま過ごしていたミアはある日、コンスタンツィ家が寄付をしている孤児院の手伝いをしてみないかと母から提案されたのだ。
「孤児院のお手伝い?」
「ええ、あなたももう成人したのだから、奉仕活動を始めてもいい頃ね。外の世界を見るのもいい経験になるわ」
「外の世界……」
聞けば、今はもう他家に嫁いだ姉も、若い頃は同じようにその孤児院に通っていたという。
小さい子供達の面倒を見て、少し大きな子には簡単な読み書きや計算を教えてやる。質素な生活を送っている子供達のために、バザーを開催して生活資金を集める手伝いもするそうだ。
誰かの役に立てると聞いて、沈みがちだった気持ちが少しだけ前向きになった。
ただじっと彼を待つしか出来ないと思っていたミアだが、そんな自分を必要としてくれている人もいるのだろうか。
「どう? あなたに出来るかしら」
優しくミアに問う母に、彼女はにっこりと微笑み返した。
「お母様、私がんばるわ」
こうしてミアは奉仕活動に熱を入れるようになった。
自分自身の勉強や友人との予定もあるため、孤児院を訪問するのは週に1回か2回だ。
その代わり、孤児院を訪れる日は朝から夕方までみっちりと子供達の相手をする。
最初は見慣れぬ人がやって来たと恥ずかしがって遠巻きにしていた子供達も、経験者である姉のアドバイスによってお菓子を持参するようになると、あっという間に打ち解けてくれた。
手先の器用なサラなどは、髪を可愛く結わえて欲しいと希望する女の子達に囲まれて毎回大変そうである。
そして今日も、ミアは少し大きな子供達を食堂の一角に集めて計算を教えていた。
「さあ、次はこの問題ね。みんなゆっくり考えたら出来るはずよ」
ミアが指示を出すと、全員が一斉に渋い顔になる。
しかし、どんな仕事に就くにしても、計算は大事なのだとミアはこの孤児院で教えてもらった。
なぜなら簡単な計算すら出来ずに大人になると、将来労働者になった時に雇い主から給金を誤魔化されたりするらしいのだ。善意にだけ囲まれて育ってきたようなミアには信じられない話だが本当らしい。
奉仕をするためにここに通っているはずなのに、ミアにとっては今まで知らなかったことを教えてもらえる場にもなっている。
「お姉ちゃん! ねぇ、今日は何を持ってきてくれたの? クッキー? パイ?」
「あたしりんごのタルトがいいなぁ。甘酸っぱくて大好き!」
「当たりよ、今日はリンゴのタルトなの。でも先にお勉強をがんばりましょうね?」
「……ちぇ」
焼きたてのタルトを持ったミアが侍女のサラと共に訪れたのは、王都の外れにある孤児院だった。
伯爵家の馬車を降りた途端、小さな子供たちが目をキラキラと輝かせて走り寄って来る。
教会に併設される形で設立されているこの孤児院は、疫病や事故で両親を失った者や金銭的な事情で捨てられた者など、多数の子供達が共同生活を送っている場所だ。
このような施設は大抵定員を遥かに超えて子供を受け入れていて、国からの補助があっても常に人出も資金も不足している。
ミアがこの施設について知ったのは、ちょうど彼が戦地に赴いた半年前のことだった。
彼がいなくなってしまったことが悲しくて、寂しくて、どうしようもなく不安な気持ちでいっぱいだった毎日。
しばらく何も手につかないまま過ごしていたミアはある日、コンスタンツィ家が寄付をしている孤児院の手伝いをしてみないかと母から提案されたのだ。
「孤児院のお手伝い?」
「ええ、あなたももう成人したのだから、奉仕活動を始めてもいい頃ね。外の世界を見るのもいい経験になるわ」
「外の世界……」
聞けば、今はもう他家に嫁いだ姉も、若い頃は同じようにその孤児院に通っていたという。
小さい子供達の面倒を見て、少し大きな子には簡単な読み書きや計算を教えてやる。質素な生活を送っている子供達のために、バザーを開催して生活資金を集める手伝いもするそうだ。
誰かの役に立てると聞いて、沈みがちだった気持ちが少しだけ前向きになった。
ただじっと彼を待つしか出来ないと思っていたミアだが、そんな自分を必要としてくれている人もいるのだろうか。
「どう? あなたに出来るかしら」
優しくミアに問う母に、彼女はにっこりと微笑み返した。
「お母様、私がんばるわ」
こうしてミアは奉仕活動に熱を入れるようになった。
自分自身の勉強や友人との予定もあるため、孤児院を訪問するのは週に1回か2回だ。
その代わり、孤児院を訪れる日は朝から夕方までみっちりと子供達の相手をする。
最初は見慣れぬ人がやって来たと恥ずかしがって遠巻きにしていた子供達も、経験者である姉のアドバイスによってお菓子を持参するようになると、あっという間に打ち解けてくれた。
手先の器用なサラなどは、髪を可愛く結わえて欲しいと希望する女の子達に囲まれて毎回大変そうである。
そして今日も、ミアは少し大きな子供達を食堂の一角に集めて計算を教えていた。
「さあ、次はこの問題ね。みんなゆっくり考えたら出来るはずよ」
ミアが指示を出すと、全員が一斉に渋い顔になる。
しかし、どんな仕事に就くにしても、計算は大事なのだとミアはこの孤児院で教えてもらった。
なぜなら簡単な計算すら出来ずに大人になると、将来労働者になった時に雇い主から給金を誤魔化されたりするらしいのだ。善意にだけ囲まれて育ってきたようなミアには信じられない話だが本当らしい。
奉仕をするためにここに通っているはずなのに、ミアにとっては今まで知らなかったことを教えてもらえる場にもなっている。
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