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きいちの特権、俊君の愛情 1
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凪と一緒にお買い物に行って、見つけてしまった。
よく行くスーパーのサッカー台、凪のお気に入りのもぎるグミをちっちゃな手から受け取った時に、つい目がいったのは一枚のチラシである。
華やかな色使いで書かれていたのは、俊くんが通う大学の夏祭りのお知らせだ。
ついまじまじと見つめれば、それは三日後にやるらしい。え、僕聞いてないんですけど!
「まぁま、あっこ!」
「えー!今日高杉君いないからだっこできないよ!」
「やら!」
「マジスカ凪さん……」
これから米担いで帰ろうってのにですかい!
凪くんのおねだりによって、米がベビーカーに乗ることとなった。いやいいんですけどね、でもできれば一人で歩いてもらいたいこと山の如しなんですけど、無理ですよね元気一杯二歳児!!
凪くんを片腕に抱きつつ、ベビーカーに食材を積み込んでスーパーを後にする。普段は俊くんが抱っこしているから感じなかったけど、やっぱり一人で買い物行くのは不便だな。くそう、俊くんがおかわりなんてするからお米がなくなっちゃったんだぞう!
「おににぃたべう!」
「おにぎり?昨日凪くんはパパと力一杯たべてたじゃん。もうお米炊かないとないよ、お昼パンにしよ?」
「ちゅなまよ!」
「ちゅなまよは明日にしようよ~!」
凪くんのお口の中はすでにおにぎりになっているようだ。うむ、これは真っ直ぐ帰宅ではなくコンビニ経由ルートですな。俊くんによく似ているので、これが食べたいと心に決めた凪くんは絶対に曲げないのだ。
真夏の暑い中、凪の子供体温も相まって、さっきスーパーを出たばかりなのにすでにあつい。いつもなら近くにいる高杉くんも、今日は正親さんのお仕事の手伝いがあるそうだ。
本当は妊娠してんだからあんまり重いもの持つなだの、お外でるなと言われてるんですけどねえ。流石にお米がないと晩御飯の支度もできないわけで。
「ピロピロー!」
「それコンビニのまね?」
「うゅ」
ぐはあああ涼しい~!!ベビーカーでコンビニ入るのは気が引けるので、とりあえず外に置いておくか。おにぎり買うだけだしね。と、ちらりと店員さんを見れば、どうぞどうぞと手で促してくれた。いいバイトくんですな!
コンビニに入った途端に大人ぶりたくなっちゃうらしい。凪は僕の腕から降りるなり、真っ直ぐにおにぎりの棚へと向かっていった。あんまり触っちゃダメだよと言っているせいか、小さなおててを後ろで繋いで、お尻をぷりぷりさせている。ベビーカーから財布だけ取り出して中に入れば、さっきのバイトくんが凪のおねだりに合わせてツナマヨを取ってくれていた。
「わー!すみません!」
「ちゅなまよよ!」
「いいえいいえ。よが一個多いな~」
「なは、まだ上手く言えないんで」
こんなおにぎり一個だけですまないのう。という気持ちになりながらも、お会計をしてもらう。小さなビニールに入ったおにぎりを凪が受け取ると、ほっぺを真っ赤にしてビョンビョン跳ねていた。
「まよょ!」
「おうち帰ったらねー」
俊くんの大学の夏祭りのチラシは、コンビニの外にも貼ってあった。もう大人ごっこは終えたらしい凪を抱っこし直しながら、横目で見る。
やっぱり何も聞いてないよな。もしかしたらいってたのかな?いや、でもやっぱ違う気がする。
もしかして大学に行かない選択をしたから気を使われているのだろうか。うちの大学で祭りやるけどくる?の一言があってもいいんじゃないの。
そんな不満が顔に出て、無意識に唇が尖ってしまった。
平日の昼間、僕と変わらないくらいの若者たちが、楽しそうに話しながら駅の方へと消えていく。高校と違って、大学の授業は午前中で終わることもあるらしい。
僕の中では結構未知の世界だな大学。若い子とすれ違うたびに、キャップを目ぶかにかぶってしまうのは癖になっている。別に後ろめたいことなんて何もないんだけど、なんとなく眩しすぎるんですよねえ。
「暑いね凪くん。帰ったら僕とお風呂入ろっか?」
「いーよぅ」
「ありがたき幸せ」
凪くんお気に入りのカエルのおもちゃで遊びましょ。言質とったのでさっさとお家に帰るべし!
今日は俊くんも早く帰ってくるって言ってたな。正親さんの会社には寄らないって言ってたから、多分三時くらいにはうちに着くだろう。お昼はそうめんで良いとして、晩御飯は何にしましょうかねえと考えているうちに帰宅です。
凪くんを産んでから早風呂が板についてきたぞ。最近は走り回る凪くんを追い剥ぎするの繰り返しで、俊くんに見られた時はものすごい微妙な顔をされた。
幼児がとまるわけないだろ!と一応弁明したら、納得してくれたが。
「まよはぁー!」
「お風呂上がってからでもいっすか!」
「ヤァあああーーー!!」
「パイセンカエルくんです!!よろしくお願いします!!」
「きゃああーーーー!!」
即落ちかよお!今凪くんがハマり中のカエル先輩は偉大である。
ぷへぷへなるカエルのおもちゃに夢中になっているうちに、凪くんの頭にシャワーハットを装着する。そのままわしゃわしゃと丸洗いすれば、次は僕の番である。
ここまでくるのに息切れしている。もう若くないのかもしれないと口にすれば、おかんからケツバットされるに違いないから言わないが。
そんなことを思いながら頭を洗っていれば、凪くんによって僕のお膝にシャワーハットが被せられていた。一度ずっこけて、脛を擦りむいたときに水が当たらないようにってやってたのを覚えていたらしい。
「シャワーハットがシンデレラフィットする膝の持ち主かよお!」
「しんれれらひっと!」
「やばい、シンデレラフィットハットツボる、うひひひ」
「ちゅなまよ」
「後五分待ってつかぁさい!!」
お腹がおっきくなったら、一人でお風呂に入るのも大変だぞ。今後凪くんは俊くんと二人で入ることも増えるんだが、果たして泣かないでいられるのか。石鹸が目に入っただけで泣いちゃうセンシティブボーイ凪くん、素直で可愛い君がお兄ちゃんになる日も近いぞ。
ぷくぷくもちもちの可愛い体を抱っこしてお風呂から上がる。ベビーオイルを塗っているからか、凪のお尻は俊くんも堪能するほど滑らかだ。我ながら実にまめである。
しかし自分のスキンケアまで手が回らないのだ。和葉ちゃんにバレたらまた大量のパックを送りつけてきそうだから言わないが。
はらぺこ凪くんのご機嫌はツナマヨおにぎりに任せるとして、僕は大慌てで着替えた。髪の毛をタオルで包んだまま、おにぎりだけじゃ足りないだろう凪くんのために苺を洗う。そうめん茹でればいっかと思っていたけどそんな時間はなさそうである。
お風呂上がりから晩御飯の終わりまでは、いっつも時間との戦いなのだ。
ゴキゲンな凪を子供用の椅子に座らせて、フィルムを剥いたツナマヨおにぎりを小さいお皿に四等分に千切って乗せる。自分で作るときはちっちゃいおにぎりを作れるけど、今回はコンビニのだから致し方なし。
おっきな三角が来ると思ってた凪はぶすりとしていたけど、お腹も満たしたらご機嫌に戻るに違いない。蓋にストローがついていない、凪くんこだわりのプラスチックコップに麦茶を注いでおく。
「はーい大人なコップですよ!こぼさないようにね」
「ふおぉ……!!」
「あはは、おにぎり美味しいねえ」
僕と俊君が使っているようなコップがいいと駄々を捏ねて仕方がなかったので、凪にはクマさんの絵が書いてあるコップを買ってあげたのだ。しかし持ち手が一つなせいか、たまにこぼしちゃうんですよねえ。両手で持てるコップでも探しに行こうかと本気で思っている。
鍋に水を入れようと蓋をとったその時、ぱちゃんと不穏な音がした。
「う……」
「あーー……」
振り向けば、口の周りを麦茶まみれにしている凪がびっくりした顔で固まっていた。勢いよくコップを煽りすぎたのだろう。濡れた服を拭おうと布巾を手に近づけば、まんまるお目目がみるみるうちに涙でいっぱいになってきた。
よく行くスーパーのサッカー台、凪のお気に入りのもぎるグミをちっちゃな手から受け取った時に、つい目がいったのは一枚のチラシである。
華やかな色使いで書かれていたのは、俊くんが通う大学の夏祭りのお知らせだ。
ついまじまじと見つめれば、それは三日後にやるらしい。え、僕聞いてないんですけど!
「まぁま、あっこ!」
「えー!今日高杉君いないからだっこできないよ!」
「やら!」
「マジスカ凪さん……」
これから米担いで帰ろうってのにですかい!
凪くんのおねだりによって、米がベビーカーに乗ることとなった。いやいいんですけどね、でもできれば一人で歩いてもらいたいこと山の如しなんですけど、無理ですよね元気一杯二歳児!!
凪くんを片腕に抱きつつ、ベビーカーに食材を積み込んでスーパーを後にする。普段は俊くんが抱っこしているから感じなかったけど、やっぱり一人で買い物行くのは不便だな。くそう、俊くんがおかわりなんてするからお米がなくなっちゃったんだぞう!
「おににぃたべう!」
「おにぎり?昨日凪くんはパパと力一杯たべてたじゃん。もうお米炊かないとないよ、お昼パンにしよ?」
「ちゅなまよ!」
「ちゅなまよは明日にしようよ~!」
凪くんのお口の中はすでにおにぎりになっているようだ。うむ、これは真っ直ぐ帰宅ではなくコンビニ経由ルートですな。俊くんによく似ているので、これが食べたいと心に決めた凪くんは絶対に曲げないのだ。
真夏の暑い中、凪の子供体温も相まって、さっきスーパーを出たばかりなのにすでにあつい。いつもなら近くにいる高杉くんも、今日は正親さんのお仕事の手伝いがあるそうだ。
本当は妊娠してんだからあんまり重いもの持つなだの、お外でるなと言われてるんですけどねえ。流石にお米がないと晩御飯の支度もできないわけで。
「ピロピロー!」
「それコンビニのまね?」
「うゅ」
ぐはあああ涼しい~!!ベビーカーでコンビニ入るのは気が引けるので、とりあえず外に置いておくか。おにぎり買うだけだしね。と、ちらりと店員さんを見れば、どうぞどうぞと手で促してくれた。いいバイトくんですな!
コンビニに入った途端に大人ぶりたくなっちゃうらしい。凪は僕の腕から降りるなり、真っ直ぐにおにぎりの棚へと向かっていった。あんまり触っちゃダメだよと言っているせいか、小さなおててを後ろで繋いで、お尻をぷりぷりさせている。ベビーカーから財布だけ取り出して中に入れば、さっきのバイトくんが凪のおねだりに合わせてツナマヨを取ってくれていた。
「わー!すみません!」
「ちゅなまよよ!」
「いいえいいえ。よが一個多いな~」
「なは、まだ上手く言えないんで」
こんなおにぎり一個だけですまないのう。という気持ちになりながらも、お会計をしてもらう。小さなビニールに入ったおにぎりを凪が受け取ると、ほっぺを真っ赤にしてビョンビョン跳ねていた。
「まよょ!」
「おうち帰ったらねー」
俊くんの大学の夏祭りのチラシは、コンビニの外にも貼ってあった。もう大人ごっこは終えたらしい凪を抱っこし直しながら、横目で見る。
やっぱり何も聞いてないよな。もしかしたらいってたのかな?いや、でもやっぱ違う気がする。
もしかして大学に行かない選択をしたから気を使われているのだろうか。うちの大学で祭りやるけどくる?の一言があってもいいんじゃないの。
そんな不満が顔に出て、無意識に唇が尖ってしまった。
平日の昼間、僕と変わらないくらいの若者たちが、楽しそうに話しながら駅の方へと消えていく。高校と違って、大学の授業は午前中で終わることもあるらしい。
僕の中では結構未知の世界だな大学。若い子とすれ違うたびに、キャップを目ぶかにかぶってしまうのは癖になっている。別に後ろめたいことなんて何もないんだけど、なんとなく眩しすぎるんですよねえ。
「暑いね凪くん。帰ったら僕とお風呂入ろっか?」
「いーよぅ」
「ありがたき幸せ」
凪くんお気に入りのカエルのおもちゃで遊びましょ。言質とったのでさっさとお家に帰るべし!
今日は俊くんも早く帰ってくるって言ってたな。正親さんの会社には寄らないって言ってたから、多分三時くらいにはうちに着くだろう。お昼はそうめんで良いとして、晩御飯は何にしましょうかねえと考えているうちに帰宅です。
凪くんを産んでから早風呂が板についてきたぞ。最近は走り回る凪くんを追い剥ぎするの繰り返しで、俊くんに見られた時はものすごい微妙な顔をされた。
幼児がとまるわけないだろ!と一応弁明したら、納得してくれたが。
「まよはぁー!」
「お風呂上がってからでもいっすか!」
「ヤァあああーーー!!」
「パイセンカエルくんです!!よろしくお願いします!!」
「きゃああーーーー!!」
即落ちかよお!今凪くんがハマり中のカエル先輩は偉大である。
ぷへぷへなるカエルのおもちゃに夢中になっているうちに、凪くんの頭にシャワーハットを装着する。そのままわしゃわしゃと丸洗いすれば、次は僕の番である。
ここまでくるのに息切れしている。もう若くないのかもしれないと口にすれば、おかんからケツバットされるに違いないから言わないが。
そんなことを思いながら頭を洗っていれば、凪くんによって僕のお膝にシャワーハットが被せられていた。一度ずっこけて、脛を擦りむいたときに水が当たらないようにってやってたのを覚えていたらしい。
「シャワーハットがシンデレラフィットする膝の持ち主かよお!」
「しんれれらひっと!」
「やばい、シンデレラフィットハットツボる、うひひひ」
「ちゅなまよ」
「後五分待ってつかぁさい!!」
お腹がおっきくなったら、一人でお風呂に入るのも大変だぞ。今後凪くんは俊くんと二人で入ることも増えるんだが、果たして泣かないでいられるのか。石鹸が目に入っただけで泣いちゃうセンシティブボーイ凪くん、素直で可愛い君がお兄ちゃんになる日も近いぞ。
ぷくぷくもちもちの可愛い体を抱っこしてお風呂から上がる。ベビーオイルを塗っているからか、凪のお尻は俊くんも堪能するほど滑らかだ。我ながら実にまめである。
しかし自分のスキンケアまで手が回らないのだ。和葉ちゃんにバレたらまた大量のパックを送りつけてきそうだから言わないが。
はらぺこ凪くんのご機嫌はツナマヨおにぎりに任せるとして、僕は大慌てで着替えた。髪の毛をタオルで包んだまま、おにぎりだけじゃ足りないだろう凪くんのために苺を洗う。そうめん茹でればいっかと思っていたけどそんな時間はなさそうである。
お風呂上がりから晩御飯の終わりまでは、いっつも時間との戦いなのだ。
ゴキゲンな凪を子供用の椅子に座らせて、フィルムを剥いたツナマヨおにぎりを小さいお皿に四等分に千切って乗せる。自分で作るときはちっちゃいおにぎりを作れるけど、今回はコンビニのだから致し方なし。
おっきな三角が来ると思ってた凪はぶすりとしていたけど、お腹も満たしたらご機嫌に戻るに違いない。蓋にストローがついていない、凪くんこだわりのプラスチックコップに麦茶を注いでおく。
「はーい大人なコップですよ!こぼさないようにね」
「ふおぉ……!!」
「あはは、おにぎり美味しいねえ」
僕と俊君が使っているようなコップがいいと駄々を捏ねて仕方がなかったので、凪にはクマさんの絵が書いてあるコップを買ってあげたのだ。しかし持ち手が一つなせいか、たまにこぼしちゃうんですよねえ。両手で持てるコップでも探しに行こうかと本気で思っている。
鍋に水を入れようと蓋をとったその時、ぱちゃんと不穏な音がした。
「う……」
「あーー……」
振り向けば、口の周りを麦茶まみれにしている凪がびっくりした顔で固まっていた。勢いよくコップを煽りすぎたのだろう。濡れた服を拭おうと布巾を手に近づけば、まんまるお目目がみるみるうちに涙でいっぱいになってきた。
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