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2章

潜入!!カズちゃんの企み

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「まま、まじで?ほんとに?うそじゃなくて?」
「そんなに確認しなくてもアタシからは逃れられなくてよ。いいじゃないの、サイズだって確認する手間が省けて。」
「悠也に見られたら笑われる気しかしない…」
「ふたりとも、安心して。アタシがしくじるはずないじゃない。」

な、なんでこんなことに。




話は数時間ほど前に遡る。るんっるんの和葉ちゃんに、葵ちゃんちに集合よー!!と呼び出された文化祭当日。凪をベビーカーにのせてのんきに向かった写真館では、葵さんが葵ちゃんになっていた。
何を言ってるかわからないでしょ。大丈夫、僕も全く理解していない。
お邪魔しまーす!と元気よく写真館にはいったのが運の尽き、そこには儚げで綺麗な女の人と、ゴリゴリマッチョをIラインのタイトドレスに詰め込んだ和葉ちゃんが仁王立ちして待っていたのだ。

「あら、獲物がもう一匹。」
「え、ちょ、ま。」
「たのむきいちくん!!恥はかきすてだと思って!!!」
「え、うそでしょまさか葵さ、わ゛ーーー!!!」

とまあこんなかんじで冒頭に戻るのである。

「まさかモデルの話だけで終わると思ったら…」
「終わるわよ。今度の新作のリップの撮影だってするんだから。ほら目を閉じなさい。」
「新作のリップ!?うっ、まぶたが気持ち悪い…」
「だって、似合うかどうかも見なきゃいけないじゃないの。んー、きいちゃんはオレンジかしら。」
「きいちゃん!?!?うお、な、何塗ってんのこれ!?」

椅子に縛り付けられ、目を瞑りなさいと言われて歯を食いしばっていたら、顔に化粧水やらなにやらをビタビタと塗られてから、下地?とかファンデーション?だかなんだかを塗られる。
ごつい手からは想像つかないくらいの優しいタッチで、かすかに香る香水もなんだかいい香りがする。

葵さん…もとい葵ちゃん?の、メイクは完了しているようで、生成りの柔らかいな色合いで、マオカラーのコットンドレスを着ていた。
テーマは深窓のお嬢様らしく、焦げ茶の長い髪をシニヨンにして後れ毛が色っぽから仕上がりだ。清楚さと禁欲的な美少女が合体しており、まじですごい。語彙力なくてすまんの。

「んー、きいちゃんはまつ毛が最初から上向なのねぇ、ビューラー要らないわこれ。マスカラ塗るから少しだけ目を開けて。」
「何そのブラシ!?こわいこわい!!ええ、なんかまつげスースーするんだけど!!何塗ってんのこれ、マスカラ!?目に刺さるぅうう!!」
「ちょっと、少しは我慢なさい!動くと上手く塗れないわ。とどめ刺されたくなければ止まりなさい。」
「ヒェッ…」

人生としてのトドメなのか男としてのトドメなのか怖すぎて聞けない。なんのデバフかカズちゃんの一言で生命の危機を感じたので、もんのすごい細目をしながら必死でまつ毛を弄られるのに耐える。怖い。女の人って毎日こんなのしてんの!?ぱねぇ…

さりさりと眉毛もブラシのようなもので整えられ、オールバックに纏めていたゴムを外されて髪の毛も垂らされる。そのままぶっとい棒のような物で髪の毛をくるくると巻かれては編み編みされ、なんだかオイルのようなものも塗られた。
最後に口紅を筆で塗られると、カズちゃんの良いわよという声で拷問のような時間が終わりを告げた。

「はい、じゃあこれに着替えてきて。」

と、おもったら何やら高そうな紙袋を渡された。なんぞ!?!?とおもって恐る恐る覗き込むと、ちらりと見えたレース。葵ちゃんみて薄々は勘付いてましたけど女装ですねほんとにありがとうございます。

「なにこれ着方わかんね…」
「いいじゃんパンツ…俺なんてワンピースだよ…」
「お、おうふ…でも似合ってるけどね。」
「嬉しくないなあ…」

パンパンと手をたたくカズちゃんに、催促されているような気がして慌てて紙袋片手に裏に引っ込む。恐る恐る取出してみると、黒のレース刺繍が上品なパフスリーブのブラウスだ。スリーブも袖口に向かって膨らんでいて、眺めのカフスが繋がっていた。昔の貴族が着るようなそれに、細身の白のホワイトデニムを合わせるようで、履いてみるとストレッチが効いてて動きやすい。前には足首が見える程度のスリットが入っていて、これだけならメンズでもいけそうだった。

「着たけど…」
「あんら!!!まぁあ!!!やっぱりアタシの目に狂いはなかったわ!!」
「きいちくん、かっこいい系の女性って感じだね!!俺もパンツがいいなぁ…。」
「駄目よ、お腹の子のためにもワンピースのほうが負担がないわ。」

カズちゃんコーディネートは僕らのことを考えて選んでくれたらしい。めちゃくちゃありがたいけど、もう少し中性的な服でも良かったのではと思う。

がらがらとカズちゃんが持ってきた鏡の前に立つ。恐る恐る自分の姿を見てみると、たしかに女の子の中に紛れてもバレなさそうだった。
緩く巻かれたり編み込まれたりした髪は片側に流されて、なんだか目元がキラキラしているのが気恥ずかしい。思わず葵さんのところに行くと、ギュッと抱きついた。

「や、やめてどきどきする!」
「僕も可愛い子抱きしめてる気がしてドキドキする…」
「百合ね。悪くないわ。」

なんだか不思議なことを抜かすカズちゃんを無視して、葵さんに見てもらっていた凪を抱き上げる。
きょとんとした顔で見つめてくるのが可愛い。
そうか、僕の場合は胸元のくるみボタンを外せば授乳できるようになっているのか。

「でも、こんな格好で学校までいくの…?ちょっと勇気いるよね…」
「あら、足はきちんと用意してるわよ。」
「あ、まさか。」

カランとカウベルの音がなって入ってきたのはやっぱり高杉くんで、何時もよりビシッと決めた三つ揃えのスーツに髪をオールバックに上げていた。
なんだよちょっとかっこいいじゃん!?僕もそっちが良かったなぁ。葵さんとふたりで羨ましげに見つめていると、眉間にしわを寄せて怪訝そうな顔で見つめてくる。
凪を抱いていることに気がついた瞬間、はっとした顔で指を挿した。

「うっそだろ!?!?!?」
「ふぁぁーーん!!!」
「おい凪が泣いただろうがぁ!」
「あ、そこはごめん…てことは、葵さん?」
「あはは…」

苦笑いでゆるゆると手を振る。わかるわあ、僕も驚いたものな。目を擦ってみても変わらないことを確認したのか、若干顔を赤らめながらため息を吐く。

「だから、番持ちのオメガと一緒にいるのはいやなんだってば…」
「あら。あんたに金払ってんのはアタシなんだから給料分は仕事なさい。」
「イエスマム!!」

軍隊かな?
知らぬ間に高杉くんもカズちゃんに調教されていたようで、びしりときれいにお辞儀をした。切り替え早いなおい、その調子で青木くんと付き合っちゃえばいいのにとからかうのは野暮だろうか。

「さて、あんたたち。文化祭は戦場よ。ちゃらついた奴等なんかに番に触られないように、しっかりと玉を握るのよ。」
「玉袋のことですか。」
「きいちくん、その意味はちょっと違うかもしれないね…」

というか戦場なんて、僕が実行委員だったときはそんな感じしなかったけどなぁ。でも、俊くんが行ってた通りに婚活パーティー的な感じになってるんだろうか。
凪を抱っこしながら、気合を入れるカズちゃんの様子を他人事のように見ていたが、絶賛当事者なんだよなぁ。

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