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2章

逆に育てられてる的な

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「お帰りバカ息子。熱出てんのに元気に徒歩で帰ってくるとはさすがは俺の息子。」
「お、おお、おおう…オカン用事あったとかね?いってたしね?」
「んなもん午前中でおわらせたわ!!しかも銀行回るからお前迎えに行くついでで終わるんだよ。」
「あああ、なるほど~、じ、じゃあ僕は安静にしてようかなぁ…」

いそいそとおかんの横を通り過ぎて、はたと気づいた。

「ていうかなんで僕が早退すること知ってたの?」
「俊くんがきいちはもう帰ってますかって電話きたんだよ。なんのことだって言ったら、熱出しだとか言うじゃんか。」
「ひょわ、っ」
「俊くんからの伝言。覚えとけよってさ?」
「うわぁあやばい絶対怒られるぅぅう!」

僕の下校はソロ活動だったという事がバレたらしい。というか律儀に電話かけてきたんだ素敵とか思ったけど、そんなのんきなことを思ってる場合じゃない。なにせ僕のスマホにその件についての電話が一回も来ていないのである。
それってつまり、怒れる俊くんが直接お説教する為に耐えているパターンだ。
とりあえず、連絡を入れる?怒っていたら怖いのでメッセージだけ飛ばすか。

お家ついたよ、僕は元気です、おやすみなさい。

そう送ると、秒で既読がついた。もう秒である。スマホ開いて見つめていたレベルだ。そして返事が来ない、わかっていたけどね!!!

「はいはい、処刑される前に英気を養え。ようするに寝ろ。」
「それ寝て起きたら執行パターンじゃ…」
「優しくしてねって甘えておけ。はいおやすみ!」
「それ吉信にしか通用しねーからぁ!」

リビングのドアが閉められると、とりあえず手洗いうがいを終えてから部屋に戻る。そうか、妊娠していると迂闊に薬も飲めないのか。それはなんだかとっても面倒で、だからこそ風邪を引かないようにと気を配られていたのだと理解した。

「なんだか僕、俊くんの期待を裏切ってばかりの駄目妊夫だなぁ…」

怒られるよりもなによりも、俊くんに呆れられて何を言ってもこいつは駄目というレッテルを貼られる方が何よりも怖い気がした。
僕なりに周りに迷惑をかけないように一人でできることはしようと思ったのに、なんだかから回ってしまっている。

妊娠してから感受性豊かになったのな、それとも俊くんに駄目なやつと思われる妄想のせいなのか、なんだか急に悲しくなってきてしまった。

ずび、と鼻を啜る。熱のせいだからと言うことにして、布団の中で丸くなることにした。
お腹がポカポカと温かくて、この子に慰められている気がした。




とん、とん、とん、規則正しく布団を叩く心地の良い振動に薄ぼんやりとした思考のまま、ゆっくりと目を開く。
なんだか頭が痛くて、寒気もする。はふりと吐息を自分の手に吹きかけると、こころなしか熱い気がした。

そうか、熱が上がっちゃったのかな。高杉くんにうつしてないといいな。ごめんね僕の赤ちゃん、早く治すから一緒に頑張ってください。

「熱、上がってきたな…」
「んん、」

ひんやりとした手が額にあてられる。それか酷く心地よくて、すり…と頭を押し付けてもっとと強請ると、小さな笑い声とともに優しく撫でられた。

「きいち、起きられるか?」
「…、しゅんくん」
「泣いたろ、目元赤いぞ。なんか怖い夢でもみたか?」
「んーん…」

こしょ、と親指で擽るように目元を撫でられる。ぼおっと見つめた俊くんが王子様みたいにきらきらしていて、僕の番はこんなにもかっこよくてなんでもできるのに、なんで僕なんか選んでくれたんだろう。それってすごく奇跡だなぁ、とか見当違いなことを思っていると、今度はその奇跡に感謝しすぎて泣けてきた。お腹には俊くんの血を引くベイビーちゃん、幸せの二乗だ。

「また泣いて…具合悪いのか?大丈夫かきいち。」
「んー‥、うう、すき…」
「なんだ、情緒めちゃくちゃだな。」

ポンポンと頭を撫でられてから、前髪を避けられてペシリと額に冷えピタを貼られる。ぐしぐし愚図る僕に途方に暮れた俊くんは、よいせと布団ごと僕を抱き上げると、そのまま肩に僕の頭をもたれさせながら膝に横抱きにした。

「お前のママは泣き虫だな。」

僕を抱きしめながら、よしよしとお腹を撫でる。まだ見ぬ我が子に告げ口するかのように巫山戯てそんな事を言う。そんな優しい横顔の俊くんをみて、いよいよ僕の涙腺は馬鹿になってしまった。

「ふぐ、っ…」
「あーあーあー‥」
「し、しゅんく…、きらっちゃ、やだぁ…」
「ああ!?」

びえっと情けない泣き方でぎゅうと抱きつくと、僕の謎の発言の真意がわからないと素っ頓狂な声を上げる。全く訳がわからないといった顔でため息を吐くと、ぽんぽんと背中を撫でながら、ちゅっと軽い口づけをしてくれた。

「…俺だって、お前に不便かけてるなとは思ってる。」
「んぇ…?」

ムスッとした顔をしてるのに、口元はもごもごと言いにくそうな感じで言ってくる。妊娠してから俊くんの色々な顔を見られるようになった。じぃ、っと見つめ返すと、すり…と鼻先を擦り合わせる。

「妊娠してっから、無理させたくねぇんだよ。わかれ。」
「うん、僕もごめんねぇ…」
「一人で帰るな、なんかあったら俺が嫌。おーけー?」
「おーけー‥」

ちゅ、と俊くんの下唇に吸い付くと、ぺろりと舌先を舐められる。そのままゆるゆると互いの唾液を交換するように口づけを繰り返すと、最後に舌を甘く吸われて唇が離れた。

「ん、…風邪感染っちゃうよぉ…」
「いーよ、薬のむから。」
「なにそれずるいぃ…」
「くくっ、」

ぐりぐりと首筋に額をこすりつけるように甘えると、面白そうに笑う。僕の番はこんなにかっこよくて素敵なのに、たまに意地悪なことを言う。
たっぷり甘やかしてもらって、お互いにごめんねってあやまって、最後に高杉くんに送ってもらったよって言ったら微妙な顔してありがとって言っとく。と大人な一面で頷いた。

僕らはまだ大人から見たらガキだろうけど、この腹の子にとっては親なのだ。まだまだできないこともおおいけど、この子にとって相応しい親になれるようにと、二人でこの子に育まれていく。そんな形があってもありなんじゃねと思った。
 


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