狼王の贄神子様

だいきち

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「ン……っ」
「ミツ」
「ふ……、ろ、ロクさ、ん」

 大変だ。口付けって、こんなにも忙しないものなのか。大きな手のひらに頭を撫でられながら、唇を重ねる。頭が溶けそうになるほど気持ちがいいだなんて知らなかった。
 指先が、ミツの小さな耳を愛でるようにくすぐる。もう片方の手は腰を支えるように尾の付け根に触れられて、絶妙な力加減で根本を刺激される。思わず堪えきれずに声が漏れそうになって、小さな口に舌が差し込まれた。
 厚みのある舌が、ミツの舌に絡まった。知らない口付けに思わず目を開けると、宥めるように頬に手を添えられた。無骨な指が、ミツの口端にそっと触れる。顎を固定されるように、角度を変えて深まる口付けに、ミツは恥ずかしい部分がじわりと熱を持った。

「ろ、くさん、っぼ、僕、っ」
「俺も同じだ、恥じるな」
「でも、ん、んむ、っ」

 もしかして、ロクさんは口付けが好きなのだろうか。ミツは、ぼやける思考の中そんなことを思った。唾液は、甘いんだ。そんなの知らなかった。
 尾の付け根をやわやわとされるだけで、だめだ。ミツは下着がじわじわと濡れていくのがありありとわかった。布が張り付いて、気持ち悪い。もしかしたら、それも同じなのだろうか。
 頭が回らない中、ミツの手が無意識にロクのそこに触れる。固く張り詰め布を押し上げる性器を手のひらに感じると、唇はかすかな水音を立ててゆっくりと離れた。

「……ミツ?」
「僕、し、下着が気持ち悪くて……ろ、ロクさんもかなって」
「……お前は、たまにすごく」
「へ……?」

 なんでもない。そう言ったロクの手が、ミツのボトムスの紐を緩める。そこをみられたら、きっとミツがはしたないことがバレてしまうだろう。抵抗しなくちゃいけないだろうに、それもできなかった。

「脱がせても、いいか」
「う、ウン」
「わかった。少しくっついていろ」
「え、わあ……っ」

 ミツが腰を浮かせた瞬間、ロクはあっという間にミツのボトムスを脱がしてしまった。外気に尻が晒される。当然、ミツの濡れた性器もふるりと露になった。
 誰にもみられたことのない場所が、今出ている。どうしよう。恥ずかしくて、ミツはロクの肩口へと顔を埋めた。床へとボトムスを落とされて、尻を支えるように膝に乗せられる。ロクの首にしがみついたまま動きを止めているミツを労わるように、そっと髪に口付けをされた。

「大丈夫だ、優しくする」
「ぼ、ぼぼ、僕、は、初めて、だから、っ」
「……前の恋人とは?」
「こ、こんな見た目だから、そういうふうにはみられないって……」

 尻すぼみになる言葉に、ロクはミツの傷に触れたのだと気がついた。顔を傾けるように、再び唇を重ねる。小柄なミツと触れ合うには、こうして向かい合わせの方が安心するだろうと思ったのだ。
 とくとくと忙しない、ミツの心臓の音がロクには聞こえていた。
 
「ぁ、ほ、ほんと……に?」
「本当に」
「ぼ、僕で嫌じゃない……っ」
「ミツがいい」

 コランダムの瞳が真っ直ぐにミツを映す。それだけで、ミツは胸がいっぱいになってしまった。ロクの手が、優しくミツの体を撫でる。暖かい手のひらで胸元を覆われて、そっと胸の粒を指先で挟まれた。
 薄い男の胸で、きっと見栄えだってしないだろう。それでも、ロクはミツがいいと言ったのだ。唇を触れ合わせるだけの軽い口付けをしながら、ミツは胸から伝わる性感に吐息を漏らした。
 こんな場所でも、気持ちよくなれるのかと思ったのだ。

「ぁう、う……ろ、ろく、さぁ、ん……っ」
「ロクでいい、痛くはないか」
「む、胸……い、いじっても、な、何も出ない、から……っ」
「なら、ここに触れる」
「ぁ、そ、そこは、あっ」

 ロクの声色に、かすかな抑揚が滲んだ。もしかしたら、楽しくなっているのかもしれない。無骨な指先が濡れた性器に絡まって、褒めるように先端を摩擦された。
 だめだ、これは気持ちいいのが強いやつだ。翡翠の目は涙に濡れて、情けなく腰を震わせる。ミツだって、ろくに慰めては来なかった。だから声を我慢しようにもできなかったのだ。

「ぁ、あぅ……ゃ、やだ、ろ、ロクさ、っ……」
「ロク」
「ろ、ロク……っ、僕、へ、変になっちゃう、からっ」
「みたい」

 寡黙なくせに、瞳は口よりも雄弁だった。熱を宿した眼差しを向けられるだけで、求められているんだとわかってしまう。嬉しい。ミツの体で、興奮をしてくれるのが嬉しい。
 
「す、好きって、好きって言って……ろく、そ、そしたら……が、がんばれ、る」
「……ミツ」
「だ、だって、ぼ……僕ばっか、好きなのかなって、なっちゃう」
「っ……」

 だから、欲が出た。ミツは、ロクの口から言葉で聞きたいと思ったのだ。胸が苦しくて、息がしづらい。きっと、慣れない状況に緊張しているからに違いない。
 ロクは勇気を出したミツを黙って見つめると、薄く唇を開いた。

「……ミツは頑張るな。俺がお前を好きに愛でたい」
「め、でるっ」
「愛でる。お前が好きだから、俺はお前で満たされたい」
「へぁ……」

 好きだよりも、もっとすごい言葉をもらってしまった。ミツの頭が言葉をなじませる前に、ロクの手は悪戯に性器を刺激する。手の中で、ピコンと立ち上がってしまったそれは、ロクの手によって隠されている。それでも、指の隙間からはミツの先走りが滲んでいた。

「ろ、ロク……のも」
「一人だと、恥ずかしい?」
「う、ん……」

 鼻先を擦り合わせるように甘える。ロクの声色が柔らかくなって、言葉からミツへの気持ちが滲む。愛されているのがわかる。ああ、なんて贅沢な時間なのだろう。
 ミツの小さな手が、そっとロクのボトムスをくつろげる。下着からずしりと重い性器を取り出すと、ミツの臍の下まで達するほどに長大だった。それが、小ぶりなミツの性器とくっついた。火傷しそうな熱を放って、存在感を示す。
 パツンと張り詰めた先端が果実のようにつるりとしている。これが、本当に体に収まるのかが不安だった。

「……ミツが無理することはない。俺は、こうして触れ合えるだ」
「だめです……ぼ、僕が……」
「ミツ?」
「僕が、ほ……欲しい……」

 ロクがミツのものだという証が欲しい。優しいから、きっとロクは最後までしないのだろう。でも、それじゃあミツが納得できない。身も心も、全て。全てこの体で飲み込めたら、きっとミツは、今よりももっと自分に自信が持てる。

「僕、こんな体だから、い、いっぱい諦めてきました……でも、ロクさ、ろ……ロクだけは、ロクがくれる、全部を……あ、諦めたくない……」

 こんなに小さな体で、ミツはどれほどロクを幸せにしてくれるのだろう。諦めたくないというミツの言葉に、ロクは小さく息を呑んだ。
 ミツは、己よりも男らしい。ロクは、そんなことを思った。小さくて、可愛くて、怖がりやで寂しいのも嫌い。でも、その素直をさらけ出すのはいつだって、ロクの目の前だけだった。 
 雄としての矜持が、満たされる。ミツという雌を前に、ロクの喉はぐるりと鳴った。

「ミツ、お前を……大事に喰う」
「へ……」

 ああ、これが本能からくる衝動なのだとしたら、やっぱり鬼族は随分と厄介なものだと思った。
 
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