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それは、砂を引きずるようにして蠢いた。ハニの眉が寄せられる。見間違いでなければ、砂の海から棘のようなものがみえたのだ。
白い、骨のような体が再びみえた。長躯は砂を泳ぐようにして、こちらへと近付いて来る。
砂を突き破るように伸ばされた鋭い針を前に、ハニの表情は強張った。
「スコルピオ!!」
その魔物を目にした瞬間、ハニはギブスが増えた理由をすぐに理解した。
数人の兵士は門へ向かうように歩みを進めている。気が付かないのも無理はない、実体を操るスコルピオの僅かな振動は、動物でしか気が付かない程度のものだ。
この場でスレイヤが気づいてよかった。ハニは石柱から飛び降りると、外套をはためかせるように勢いよく駆けた。
「っ、うわ! お前まだいたのか!?」
「スコルピオかでた! ギブスが現れる前に一帯に水を撒け! 早く!」
「はあ!? スコルピオって何!?」
喚く兵士を背後に、ハニは両手のひらピタリと合わせた。魔力に意識を集中させる。スコルピオの姿が見える位置まで来ると、ハニは手を振り抜くようにして術を放った。
ハニの体が、円を描くようにくるりとまわる。纏う魔力が水に変わり、それは地べたを覆うように砂地へ染み込んでいく。
乾いた砂地が盛り上がり、木が熱で弾けるような音をたてギブスが現れた。
木の根にも見える手で体を支えるように、あちらこちらで体を砂から引き抜く。
スコルピオから逃げているのだ。あれは報われない魂を食らって実体を作る。ギブスがここに来たということは、もう何体か喰われているということだ。
氷結は有効だ。しかし、スコルピオは実体を持たせなければ倒すことは出来ない。中途半端な幼生のままではまた同じことが起こるだろう。
ギブスを食わせる為に、スコルピオの注意をこちらに向けさせる。でなければ、実体化したスコルピオを食い止められなかった場合の被害は全て、南門側の市井へ向く。
「考えるな」
「は」
「本能でいけ」
背後から聞こえた声に、ハニが反応を示したその時。突風が砂地から出たギブスを一息に吹き飛ばした。乾いた魔物の体が、スコルピオへと飛んでいく。砂の山が崩れるように、半透明の蠍の化け物が姿を表した。それは大顎を開いてギブスを飲み込むと、一部を白骨化させるように実体を作っていく。
「スコルピオが姿を持ったら、火炎で焼き払う。今のままだと物理は通らないからな」
「南門に意識が向く!! 本気かよ!?」
「なんだそんなことか」
翡翠色の剣を持ったヘルグが、憤るハニの横へと並んだ。刀身を撫でるように持ち上げると、再び剣先をギブスへと向けられる。
「なんのために俺が来たと思っている」
じわりと光が滲み出るように、翡翠の刀身は輝き始めた。ヘルグの魔力を倍加させているのだ。境界を作るハニの水魔法は、既に乾き始めている。
駆け出したヘルグが、濡れた砂地を踏み込んだ。途端悲鳴を上げて飛びかかったギブスの体を一閃すると、再び吹き上げた突風がギブスの群れを撒き散らす。
「ほら餌だ! 食え!」
「っ、めちゃめちゃが過ぎる……!!」
「ハニ、水を散らせ! 俺が広げる!」
「あんた境界の意味をしってるのか!?」
「知っているさ! だから、お前の氷で作るんだよ!」
楽しそうに笑いながら宣う。ヘルグの言葉にようやく意味を理解した。
砂地を蹴るように駆け出したハニを前に、ヘルグが満足そうに頷く。刀身を振り抜く動きで繰り出した鎌鼬を使い、ギブスを撒き散らしながらスコルピオの注意を向けさせる。
ヘルグが囮をかってでている。ハニは腰に差した短剣に素早く青い魔石を括り付けると、上空へと勢いよく蹴り上げた。ハニの魔力を込めたそれは、空を覆う赤よりも鮮やかだ。沈みかけた太陽の光を吸収するかのように輝く。魔石目掛けて、ハニは指先を真っ直ぐに向けた。
「降りしきれ!」
ハニの指先から、魔力の弾丸が勢いよく放たれた。魔石は澄んだ音を立てて砕け散った。その瞬間、辺り一帯を囲むように雨が降り注ぐ。濡れていない砂地へと逃げるように、ギブスが動きを変えた。
スコルピオが再び砂から飛び出したその時、ヘルグの風魔法によって、ハニの放った魔法が意思を持って長駆を捕らえた。
「今だ!! 囲め!!」
「氷の壁よ!!」
あっという間に出来上がった氷の檻に、ヘルグは口端を釣り上げるように笑った。
飲み込むようにギブスを喰らい続けるスコルピオの体が、ゆっくりと色を変えていく。
真っ白な骨のような姿へと転換した蠍の化け物は、金切り声を上げるように咆哮した。
ハニの眼の前で、外套をはためかせたヘルグが風魔法を纏うように上空へと飛び上がる。
翡翠色の剣の根本から、細く赤い光の筋が刀身に絡みついた。
「っ、喰われる……!!」
「俺を見ろスコルピオ!!」
ハニの驚愕を前に、ヘルグはスコルピオの注意を引いた。
漆黒の目玉が四つ、ぎょろりとヘルグへと向けられる。大顎をきしませ、鋭く尖る白い針を素早く伸ばした。
このままだと、やられる。助けようと駆け出したハニの目の前へと、大きな音とともに巨大な石が降ってきた。砂煙が視界を奪う、たたらを踏むように足を止めたハニは、目を見開いた。
「これ、って」
金切り声と共に、ハニが作り上げた氷の檻が突き破られた。白い煙とともに、薄玻璃が舞うように散らばる。
四肢をもがれたスコルピオが、のたうちまわりながら抵抗を見せる姿を前に、ハニは眼の前に落ちてきたものがスコルピオの体の一部だとすぐに理解した。
「っ、」
体の節々から体液を噴出させ、耳障りな音を立てる。目の前にいるハニへと狙いを定めるように、スコルピオが大顎を開いた瞬間。ハニは指を一閃させ、瞬時に氷の結界を展開した。
逃げるよりも防ぐ方が、怪我は少なくて済むだろう。三重に重ねがけをした結界へと、スコルピオが襲い掛かる。その時、白く骨のような体は炎に包まれた。
白い、骨のような体が再びみえた。長躯は砂を泳ぐようにして、こちらへと近付いて来る。
砂を突き破るように伸ばされた鋭い針を前に、ハニの表情は強張った。
「スコルピオ!!」
その魔物を目にした瞬間、ハニはギブスが増えた理由をすぐに理解した。
数人の兵士は門へ向かうように歩みを進めている。気が付かないのも無理はない、実体を操るスコルピオの僅かな振動は、動物でしか気が付かない程度のものだ。
この場でスレイヤが気づいてよかった。ハニは石柱から飛び降りると、外套をはためかせるように勢いよく駆けた。
「っ、うわ! お前まだいたのか!?」
「スコルピオかでた! ギブスが現れる前に一帯に水を撒け! 早く!」
「はあ!? スコルピオって何!?」
喚く兵士を背後に、ハニは両手のひらピタリと合わせた。魔力に意識を集中させる。スコルピオの姿が見える位置まで来ると、ハニは手を振り抜くようにして術を放った。
ハニの体が、円を描くようにくるりとまわる。纏う魔力が水に変わり、それは地べたを覆うように砂地へ染み込んでいく。
乾いた砂地が盛り上がり、木が熱で弾けるような音をたてギブスが現れた。
木の根にも見える手で体を支えるように、あちらこちらで体を砂から引き抜く。
スコルピオから逃げているのだ。あれは報われない魂を食らって実体を作る。ギブスがここに来たということは、もう何体か喰われているということだ。
氷結は有効だ。しかし、スコルピオは実体を持たせなければ倒すことは出来ない。中途半端な幼生のままではまた同じことが起こるだろう。
ギブスを食わせる為に、スコルピオの注意をこちらに向けさせる。でなければ、実体化したスコルピオを食い止められなかった場合の被害は全て、南門側の市井へ向く。
「考えるな」
「は」
「本能でいけ」
背後から聞こえた声に、ハニが反応を示したその時。突風が砂地から出たギブスを一息に吹き飛ばした。乾いた魔物の体が、スコルピオへと飛んでいく。砂の山が崩れるように、半透明の蠍の化け物が姿を表した。それは大顎を開いてギブスを飲み込むと、一部を白骨化させるように実体を作っていく。
「スコルピオが姿を持ったら、火炎で焼き払う。今のままだと物理は通らないからな」
「南門に意識が向く!! 本気かよ!?」
「なんだそんなことか」
翡翠色の剣を持ったヘルグが、憤るハニの横へと並んだ。刀身を撫でるように持ち上げると、再び剣先をギブスへと向けられる。
「なんのために俺が来たと思っている」
じわりと光が滲み出るように、翡翠の刀身は輝き始めた。ヘルグの魔力を倍加させているのだ。境界を作るハニの水魔法は、既に乾き始めている。
駆け出したヘルグが、濡れた砂地を踏み込んだ。途端悲鳴を上げて飛びかかったギブスの体を一閃すると、再び吹き上げた突風がギブスの群れを撒き散らす。
「ほら餌だ! 食え!」
「っ、めちゃめちゃが過ぎる……!!」
「ハニ、水を散らせ! 俺が広げる!」
「あんた境界の意味をしってるのか!?」
「知っているさ! だから、お前の氷で作るんだよ!」
楽しそうに笑いながら宣う。ヘルグの言葉にようやく意味を理解した。
砂地を蹴るように駆け出したハニを前に、ヘルグが満足そうに頷く。刀身を振り抜く動きで繰り出した鎌鼬を使い、ギブスを撒き散らしながらスコルピオの注意を向けさせる。
ヘルグが囮をかってでている。ハニは腰に差した短剣に素早く青い魔石を括り付けると、上空へと勢いよく蹴り上げた。ハニの魔力を込めたそれは、空を覆う赤よりも鮮やかだ。沈みかけた太陽の光を吸収するかのように輝く。魔石目掛けて、ハニは指先を真っ直ぐに向けた。
「降りしきれ!」
ハニの指先から、魔力の弾丸が勢いよく放たれた。魔石は澄んだ音を立てて砕け散った。その瞬間、辺り一帯を囲むように雨が降り注ぐ。濡れていない砂地へと逃げるように、ギブスが動きを変えた。
スコルピオが再び砂から飛び出したその時、ヘルグの風魔法によって、ハニの放った魔法が意思を持って長駆を捕らえた。
「今だ!! 囲め!!」
「氷の壁よ!!」
あっという間に出来上がった氷の檻に、ヘルグは口端を釣り上げるように笑った。
飲み込むようにギブスを喰らい続けるスコルピオの体が、ゆっくりと色を変えていく。
真っ白な骨のような姿へと転換した蠍の化け物は、金切り声を上げるように咆哮した。
ハニの眼の前で、外套をはためかせたヘルグが風魔法を纏うように上空へと飛び上がる。
翡翠色の剣の根本から、細く赤い光の筋が刀身に絡みついた。
「っ、喰われる……!!」
「俺を見ろスコルピオ!!」
ハニの驚愕を前に、ヘルグはスコルピオの注意を引いた。
漆黒の目玉が四つ、ぎょろりとヘルグへと向けられる。大顎をきしませ、鋭く尖る白い針を素早く伸ばした。
このままだと、やられる。助けようと駆け出したハニの目の前へと、大きな音とともに巨大な石が降ってきた。砂煙が視界を奪う、たたらを踏むように足を止めたハニは、目を見開いた。
「これ、って」
金切り声と共に、ハニが作り上げた氷の檻が突き破られた。白い煙とともに、薄玻璃が舞うように散らばる。
四肢をもがれたスコルピオが、のたうちまわりながら抵抗を見せる姿を前に、ハニは眼の前に落ちてきたものがスコルピオの体の一部だとすぐに理解した。
「っ、」
体の節々から体液を噴出させ、耳障りな音を立てる。目の前にいるハニへと狙いを定めるように、スコルピオが大顎を開いた瞬間。ハニは指を一閃させ、瞬時に氷の結界を展開した。
逃げるよりも防ぐ方が、怪我は少なくて済むだろう。三重に重ねがけをした結界へと、スコルピオが襲い掛かる。その時、白く骨のような体は炎に包まれた。
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