【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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第五章 大陸戦争編

第261話 雪の日の夜

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腐樹と化したアーシュを牢越しに眺めている男がいる。



アーシュと同じググルカ族出身、ケタルだ。



今は若き将軍として戦場を駆け回っているが、



マーハント軍副将リユウを含めたこの3人は、



前国王、つまりオスカーの父の時代、



【王の左手】だった。



同じ村から出てきた親友が、



変わり果てた姿となり、



ケタルは静かに涙を流した。













ノーストリリア城 3階 食堂





城付きの医術師モルト・ラックジャックは、



夕食の燻製肉とふかした芋の乗った皿を片手に、



開いてる席に座った。



壁際のテーブルにはワインとエールが置いてある。



モルトはエールを選んだ。



丁度、厨房からロミとフミが、



やかましく騒ぎながら料理を運んでやってきた。



ちなみに料理長のマイヤー・ラトリウムは、



オスカーの子を身ごもり、現在は産休中だ。



周りを見回す。



護国十二隊の七番隊隊長、



ウォルタン・メイチャールと、



その部下数名、



そして五番隊隊長、ノワ・リスタックと、



その部下数名が食事中だった。



反対側にはケタル将軍らもいた。



「モルトさん、ここいいですか?」



声をかけてきたのは、



弟子の医術師モリア・アーカムだ。



「なんだ、城にいたのか。



産休中だろうに。身体はいいのか?」



モリアは正面に座った。



「ええ、実家じゃ何もすることが無くて。



書類の整理に来てました」



彼女もまた、オスカーの子を身ごもっている。



「……泊まるのか?



今夜は冷える、帰った方がいい」



「今から帰る方が冷えちゃいます。



お気になさらず」



モリアは城での近況や、戦争の事、



仕事の話などをして、食堂を出ていった。



モルトも遅れて食堂を出る。









モルトが去ってから十数分後。



ケタル将軍の部下の一人が突然、



喉を抑えて苦しみだした。



「おいおい、飲み過ぎだ……



誰か水を持ってきてやれ!



……大丈夫か? 



……おい、しっかりしろ!」



その兵士を皮切りに、



隣の男達も苦しみだした。



次第に食堂中の人間が喉を抑え、



苦しみもがきだした。



「なんだ……何が起こってるんだ」



ケタル将軍は呆然としていたが、



急に激しい痛みが胸の辺りを襲う。



「うぐっ!!」



続いて上手く呼吸が出来なくなった。



ヒューヒューと喉を鳴らしながら膝をつく。



気が付くと食堂にいた全員が床に倒れていた。



「だ……だれか……」



それがケタルの最後の言葉になった。













ノーストリリア城前の広場にて、



モルトは馬車に乗り込む。



雪の混じる冷たい風が松明の炎を揺らしている。



「ユウリレリア大聖堂まで頼む」



ゆっくりと進む馬車から城を見上げる。



思えば長い事ここにいたものだ。



モルトは昔を思い出した。



オスカー様の父、ジェリー前国王の頃に、



城付きの医術師に任命され、既に10年は過ぎた。



随分と変わった……。



故郷も変わったのだろうか……。



馬車が門を出る頃、



城内が騒々しくなったが、



風の音と、石畳を進む車輪の音で、



モルトの耳には届かなかった。

















大聖堂の地下へと伸びる階段を下る。



「長かった。もうすぐ会える……ニーア」



モルトはそう呟いて、



天然石が編みこまれた革の腕輪を撫でた。



最地下まで降りると、



重厚な扉が姿を現す。



扉脇のモニタの前に立つと、



自動で扉が開いた。



モルトはこの部屋の管理者名簿に名を連ねている。



真っ白い部屋の中では、



台の上に男が寝ていた。



ユウリナが捕えた、



【千夜の騎士団】ギルギットだ。 



身体強化の魔人で、炎もレーザーも効かない、



鋼の肉体を持つ男。



手足を拘束され、頭にも何かを嵌められている。



胸の上には魔素抑制装置が設置されていた。



『モルト、どうシタの?



なぜソノ部屋に?』



部屋の壁の画面にユウリナが映し出された。



「ユウリナ様。私には使命があります」



『城で毒による虐殺が起きたワ。



私も向かっテルから、



アナタもこっちに早ク戻って……』



モルトは通信を切った。



「使命があるんだ……



やっとその時期が来たんだ……」



部屋の壁側に液体の入ったタンクがある。



ギルギットの魔素抑制装置の中心には、



タンクと同じ緑色に光る液体が入っていて、



それが同じ波長とタイミングで、振動していた。



古代文明の機械の事は詳しく分からないが、



長い事ユウリナを観察していれば、



なんとなく仕組みは理解できていた。



五分ほど空中投射されたモニタを弄っていると、



液体の振動が止まった。



同時に勢いよくユウリナが部屋に駆け込んできた。



ギルギットの手が動き、魔素抑制装置を握りつぶす。



「……遅かった」



ショートボブの少女の顔と身体がドロリと溶け、



よく見知った機械人になる。



表層を覆っていた液体金属は、



鎌と剣と武骨な鎧へと姿を変える。



「待ってたぜ。お前が協力者か?」



ニタリと笑いながら身を起こし、



ギルギットはモルトを見た。



「そうです」



「お前の事はウルバッハから聞いてるぜ」



「モルト……まさかあなタが……」



「ユウリナ様申し訳ありません。



あなたが城に来るよりも前から、



私は聖ジオン教国の間者でした。



今日の日のために、



ずっと息を殺して参りました。



ようやく祖国に帰れる日が来たのです」



「城のワインに毒が入っテいた。



何十人も死んだワ。



それもアナタの仕業ネ」



「いかにも」



「おい、お喋りは終わりだ。



やろうぜ、北の神様」



ギルギットは二人の間に割って入った。



ユウリナは戦闘形態に変化した。



腕が四本になり、



ヒートブレイド、超振動ナイフなどが、



追加で装備されている。



背中から飛び出た8個の筒から蒸気が噴出し、



ユウリナはその場から消えた。



部屋の中央で二人は衝突した。



常人の目では追い切れないほどの速さだ。



モルトはすぐに部屋の外へ避難した。



レーザーが飛び、壁が吹っ飛び、天井が崩落する。



しかし、ユウリナの猛攻でも、



ギルギットに傷一つ付けることが出来なかった。



「こんなもんか機械人。もっと楽しませろ」



蹴り一発で腕二本を破壊されたユウリナは距離を取った。



ユウリナは賭けに出た。



賭けに出るしかないと言った方がいいのかもしれない。



カッと、辺りが強烈な光で瞬く。



ユウリナの口から超高出力レーザーが射出された。



レーザーはギルギットの肩口にヒットする。



「あっちぃ! 痛ってえ!」



ヒットした箇所は抉れて肉が焼け焦げていた。



「おおっ!! やるじゃねえか!



こんなに痛いのは獣人族以来……」



全エネルギーを使い切ったユウリナは、



既に機能停止していて、ピクリとも動かなかった。



「ちっ……いつになったら、



俺を追い詰めてくれる奴に出会えるんだ」



ギルギットはため息をつくと、



ユウリナの首を掴み、一気に引きちぎった。

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