【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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第三章

第113話 氷の要塞 

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氷漬けのムルス大要塞は午後の日差しを受けて煌めいていた。

俺は高台に立って千里眼を発動した。

城壁、監視塔、西の塔、本棟と淳に見ていく。

要塞内の兵士は一人残らず凍っている。

情報では7000人が配置されていたらしいが、

それが本当ならたった一瞬でそれだけの規模の軍を無力化したことになる。

当然、敵将ラドーも……。

とんでもないことだ。魔人、やばいな。

中庭に整列したまま凍っている大量の兵士たちはまるで兵馬俑のようだった。

本棟の内側から壁を貫いて氷柱が飛び出ている。

……いた。

その下にギカク化したクロエが歩いていた。

青い肌に長く白い髪、そして真っ黒い瞳。

相変わらず恐ろしい形相……人ではない。

だが様子が違った。

ノストラの時のように吹雪を纏っていない。

魔素を見てみると以前は胸の奥が青白く点滅していたが、

今はそれもない。

ただ静かに歩いていた。

暴走している感じはしない。

……行ってみるか。

ん? あれは……

城壁の壁を黒い円形の影が滑るように移動している。

視界の片隅に魔素検知の文字、

続いて【千夜の騎士団】ザヤネ94,2%と出た。



もしもの場合を考えて、ムルス大要塞へ向かったのは

俺とネネル、ルガクト率いる100名ほど、

そしてキャディッシュとリンギオだけにした。

全軍で向かってみんな凍ったんじゃ間抜けすぎるからな。

『オスカー、私は【千夜の騎士団】の方へ行くわ』

『大丈夫か? 得体が知れないぞ?』

『どっちも同じよ。私はクロエと本気で戦えない。

そっちは任せたわよ』

『……そうか。ネネルも気を付けろ』

キャディッシュの背中に乗って上空からクロエを確認した。

やはりあまり脅威は感じられない。

「リンギオ! クロエの前に火矢を撃てるか?」

「わかった」

ルガクトの背中に乗っているリンギオは連弩を取り出し、

レバーを引いた。

放たれた火矢はクロエの足元に刺さった。

矢先に灯されていた炎は冷気ですぐに掻き消える。

クロエはこちらを向いた。

俺たちは身構えたが、表情は変わらず、攻撃してこなかった。

「……降りてみよう」

「大丈夫か、王子?」

「多分な。お前たちは上空で待機だ」

俺とキャディッシュだけ、クロエの前に降りた。

「クロエ、わかるか? 俺だ、オスカーだ」

クロエは立ち止まり俺を見た。

何の表情もない、冷たい目だ。

「クロエ……」

キャディッシュもビビッて声が小さい。

不意にピクッとクロエが腕を上げた。

こちらも反射で魔剣に炎を纏わせる。

汗が頬を伝い、途中で凍った。

「……オ、オスカー……」

何人もの声が重なったような不気味な声が響いた。

俺もキャディッシュも武装を解いた。

「クロエ! 分かるのか!?」

目が合った途端、クロエは薄い氷で身を包んだ。

それが剥がれると人間の姿に戻っていた。

「うぅ……」

クロエは一糸纏わぬ姿でその場に倒れこんだ。

失った左足に氷の義足はなく、それは魔素が限界なことを表していた。

俺はマントで身体を覆ってやった。

ルガクトとリンギオも氷上に降りてくる。

クロエは俺の腕の中で震えていた。

顔色も悪い。しかし、無事だった。生きていた。

「はあああああああ、よかったー」

思わず大きなため息をついた俺はクロエを抱きしめた。

「心配したぞ、まったく! 無事でよかったよ」

あれ? なんだろう。目から汗が……。

「オスカー……い、痛い」

マント越しでも分かるクロエの柔肌が弱々しく動いた。

「ごめんごめん」

「……オスカー私……多分ギカク化できる。好きな時に出来ると思う」

「本当か? ……いや、凄いけど今は喋るな。あとでゆっくり聞くよ」

「……分かった」

クロエはうっすら微笑むと目を閉じた。

「ルガクト、クロエを医師団の所へ運んでく……」

その時凄まじい轟音と共に雷が空を走り、

砕けた要塞の一部が頭上から降ってきた。

これは、ヤバい。

「オスカー様ーッッ!!!!」
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