【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

文字の大きさ
108 / 325
第2章 

第103話 〝キトゥルセン連邦王国〟樹立

しおりを挟む
千里眼で確認するとクロエはムルス大要塞に運ばれたようだ。

ただ、ノーストリリアからでは千里眼の限界距離なので、

視界がぼやけてよく見えなかった。

でも生きていると分かっただけでほっとした。


傷を負ったマーハントは王都で養生することになった。

命に別状はなかったが、決して軽傷ではない。

マーハント軍は王都守備に任務変更。

寝たきりでも指揮は取れるとのことで、

軍団長に変更はなかった。


俺が前線に出る前に色々と決めておかなければならないことがあった。

まずは【王の左手】。

キャディッシュは前線で戦いたいと希望があったので一時解任した。

俺としても彼の機動力は守りより攻めの方が本領を発揮すると思っていたので、

二つ返事で了承してあげた。

クロエを拉致られてキレ気味なのは俺だけじゃない。

俺とは別のルートで存分に暴れてもらいたいと思っている。

そして新たな【王の左手】にアーシュ、そしてイースの将軍だった老剣士、

ソーン・ジルチアゼムを任命した。

アーシュの実力は拳闘大会でよく理解した。

もし戦争がなくても遅かれ早かれ任命する予定だった。

ソーンはもとより将軍を引退したがっていて、

イース公国を吸収したタイミングで軍から身を引いていた。

しかし、若い頃大陸を巡っていた知識と経験は惜しかったし、

剣の腕も申し分ないので、

俺からぜひ、と声をかけておいたのだ。

この時勢と立場から絶対に断らないと踏んでいたのだが、

その通りとなった。

「せ、精いっぱい務めささせて、い、頂きます」

「アーシュ、そんなに緊張するな」

金バッチと白マントを片膝ついた状態で受け取ったアーシュは、

ガチガチに緊張していた。

その様子が微笑ましくて、

嫌なことだらけで沈んでいた気持ちが少しだけ緩んだ。

ありがとう、アーシュ。少し冷静になれた。

ソーンは年相応の貫禄があり、

一緒にいるとこっちが落ち着く、不思議な魅力があった。

年齢的にマジでじいちゃんって感じだ。

「引退してすぐにすまない。よく要請を受け入れてくれた」

「いえいえ、戦争が始まろうとしているときに、

責任を放棄しているようで居心地が悪かったのは事実です。

この老いぼれに今一度忠誠を誓える場を与えて下さるとは身に余る光栄。

私の肉体と魂はあなたの物です。どうか最高の死に場所を与えて下され」

死に場所って……重いなぁ。

ただ人生経験が豊富なだけにその言葉はいい得て妙だと思った。


ソーンの軍500名は解体され各軍に振り分けられた。

そしてイース公国からミーズリー軍、ギバ軍が新たに加わる。

バルバレスは軍の再編に大忙しだが、やる気と殺る気が満々だ。


さらにアルトゥール隊、ルレ隊、キャディッシュ隊、ダカユキー隊の

計200名を独立した特殊部隊として組織。

黒装束に白い髑髏のペイントを施した格好をさせ、通称【骸骨部隊】と命名。

闇夜に紛れて敵地に潜入、暗殺と攪乱が主な任務だ。

髑髏は敵の恐怖心を煽るためだ。

最終的には名前を聞いただけで逃げ出すというところまで育てていきたい。


聞いた話だとアルトゥールはコマザ村に婚約者がいたらしく、

復讐に燃えている。

キャディッシュはクロエ奪還に燃えていて、

ダカユキーは連弩の訓練の成果を実戦で早く試したいとうずうずしていた。

ルレは日和見主義で消極的だが、

仕事はきちんとこなす奴なので問題ないだろう。


護衛兵団は長年副隊長だったスノウという男が指揮することになった。

話したことはなかったが、よく見る顔だった。

口数は少なく実直な印象だ。

「スノウ・アッシュハフです。

この命を盾に、オスカー様をお守り致します」

長めのくせ毛を後ろで束ね、ひげを生やした青年。

「ああ、よろしく。神殿には行ったか?」

「はい、今のところ問題ありません」

スノウの右目が青く光る。

部隊長以上には脳にチップを埋めることを義務化した。

時間のある時にユウリナに会いに行けと命令を出していたのだ。

ちなみに護衛兵団はノーストリリア城の守備に50名、

俺に付いて戦場に出る者50名に分けた。

装備は全員連弩だ。


〝ラウラスの影〟もフル稼働するよう、

指令官のユーキンに命令を下した。

すでにザサウスニア国内に大勢の工作員が潜入済みだ。

伝書ガラスから今日も大量の手紙が届いている。


殺伐とした状況の中で一つおめでたいことがあった。

メイドのメミカ・トーランが妊娠したのだ。

節操のないメミカのことだから、

本当に俺の子? と頭を掠めたが、もちろん口には出さない。

バタバタしていたので何もしてあげられなかったが、

戦が一段落したら祝杯を上げようと約束した。

マイマのお腹もだいぶ大きくなってきて、

王家の血は着実に復活してきている。

これからノーストリリアが手薄になり、

警護に若干の不安が残るが、

ユウリナから機械蜂5匹が送られてきた。

加えてソーンの孫娘、モカル・ジルチアゼムが

新たなメイドとして城に仕えることになった。

背は低いが、幼少の頃からソーンに剣術を仕込まれていたので、

護衛の役割も担える貴重な人材だ。


あと二人の姫たち。

アーキャリーは軍に帯同することになった。

危険だから駄目だと言ったのだが、従軍医術師団に入り、

傷ついた兵士たちを救いたいと熱弁された。

もうすでに医術師の名家、アーカム家で研修を受けているらしい。

「子も宿していない身で、城にいてはただのごくつぶしです!

私は誓ったのです。オスカー様と、この国のために生きると!」

普段は天然で子供っぽいくせに、

こういう時だけ妙な胆力を見せてくる。

しばらく説得してみたが埒が明かないので、

いざという時は飛んで逃げられるよう、

有翼人の護衛を付けるという条件で折り合いをつけた。


ベリカの方は、ついに発行を開始した新聞に、

得意の絵を描くという仕事を見つけていた。

これからはおそらく戦況のことが記事の大部分を占めるだろうし、

一般国民の生活も変わる。

種族の違う地方の村との文化や常識の距離を縮めるためにも、

絵で情報を伝えるというのは思っている以上に大事なことだ。

『どうかご無事で』と書かれた紙を俺に見せる。

まだ日が浅く、そんなに距離を詰められていないが、

筆談というゆっくりとした意思の疎通の中で、

ベリカの気持ちは十分に伝わってきた。


内政はラムレス、マリンカ、ウテル王に任せた。

鉄鋼業と農畜産業に力を入れ、国力を高めろと言っておいた。

同時に人口増加計画も実行に移す。

ゼルニダ家にはマルヴァジアとの同盟交渉に動いてもらう。

「ラムレス、国内のことは一任する。頼んだぞ」

「全てお任せ下さい。国民一丸となって前線の軍を支えますぞ!」

ラムレスの下あごがぷるんと揺れる。


色々な国内の整理がついたところで、

国名を〝キトゥルセン連邦王国〟に変え、

改めて開戦宣言をした。

王都ノーストリリアにマーハント軍と護衛兵団の半分を残し、

すでに南進させてあるベミー軍、ダルハン軍、ボサップ軍以外

残りの全兵力をコマザ村と、接収したラグウンド王国に移動させた。

この2拠点を強固な城壁のある要塞に作り替える。


最後にユウリナだ。

俺と共に戦場に来てほしいと言ったのだが、

少し時間が欲しいと断られた。

その理由は機械蜂やその他兵器の製造をするからというので、

まぁよしとした。完成が楽しみだ。


呼び戻したカカラルに乗り、俺は王都を出発した。

物資の運搬で戻ってきていたネネルの小隊と共にコマザ村を目指す。

有翼人兵の背中にスノウ率いる護衛兵団と【王の左手】が乗っている。

「ついに始まるのね」

夕日に目を細めながら、横を飛ぶネネルが言った。

「ああ。人口も兵力も国力も何倍もの差がある。

だから戦況は俺たち魔戦力にかかっている」

風が冷たい。夏ももう終わる。

「うん、わかってる。

オスカー、無茶はしないでね。

あなたがいなくなったら私は……」

ネネルは軍団長になって急に大人になったように感じる。

「……顔赤いよ、ネネル」

目が合う。

「……夕日よ」

あれ、ツンデレがなくなってる。

まあ、こっちもふざける気分でもない。

「クロエは私を救ってくれた。今度は私が救う番」

「必ず助け出そう。クロエはきっと俺たちの助けを待ってる」

前方の空にいくつもの煙の線が見えた。

友軍の野営地だ。

「もうすぐ着くわ。あの……」

突然、ボッという爆発音。次いでネネルが落ちる。

「ネネルっ!!」

何が起きたかわからなかった。

「王子、西の空だ!」

リンギオが叫ぶ。

そこには空を飛ぶ亜人の軍勢がものすごい速さで接近してきていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。 新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。 ※※※※※ 1億年の試練。 そして、神をもしのぐ力。 それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。 すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。 だが、もはや生きることに飽きていた。 『違う選択肢もあるぞ?』 創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、 その“策略”にまんまと引っかかる。 ――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。 確かに神は嘘をついていない。 けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!! そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、 神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。 記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。 それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。 だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。 くどいようだが、俺の望みはスローライフ。 ……のはずだったのに。 呪いのような“女難の相”が炸裂し、 気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。 どうしてこうなった!?

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

暗殺者の少女、四大精霊に懐かれる。〜異世界に渡ったので、流浪の旅人になります〜

赤海 梓
ファンタジー
「…ここは、どこ?」  …私、そうだ。そういえば… 「貴女、ここで何をしておる」 「わっ」  シュバッ 「…!?」  しまった、つい癖で回り込んで首に手刀を当ててしまった。 「あっ、ごめんなさい、敵意は無くて…その…」  急いで手を離す。  私が手刀をかけた相手は老人で、人…であはるが、人じゃない…? 「ふははは! よかろう、気に入ったぞ!」 「…え?」  これは暗殺者として頂点を飾る暗殺者が転生し、四大精霊に好かれ、冒険者として日銭を稼ぎ、時に人を守り、時に殺め、時に世界をも救う…。そんな物語である…!

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

処理中です...