【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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第2章 

第103話 〝キトゥルセン連邦王国〟樹立

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千里眼で確認するとクロエはムルス大要塞に運ばれたようだ。

ただ、ノーストリリアからでは千里眼の限界距離なので、

視界がぼやけてよく見えなかった。

でも生きていると分かっただけでほっとした。


傷を負ったマーハントは王都で養生することになった。

命に別状はなかったが、決して軽傷ではない。

マーハント軍は王都守備に任務変更。

寝たきりでも指揮は取れるとのことで、

軍団長に変更はなかった。


俺が前線に出る前に色々と決めておかなければならないことがあった。

まずは【王の左手】。

キャディッシュは前線で戦いたいと希望があったので一時解任した。

俺としても彼の機動力は守りより攻めの方が本領を発揮すると思っていたので、

二つ返事で了承してあげた。

クロエを拉致られてキレ気味なのは俺だけじゃない。

俺とは別のルートで存分に暴れてもらいたいと思っている。

そして新たな【王の左手】にアーシュ、そしてイースの将軍だった老剣士、

ソーン・ジルチアゼムを任命した。

アーシュの実力は拳闘大会でよく理解した。

もし戦争がなくても遅かれ早かれ任命する予定だった。

ソーンはもとより将軍を引退したがっていて、

イース公国を吸収したタイミングで軍から身を引いていた。

しかし、若い頃大陸を巡っていた知識と経験は惜しかったし、

剣の腕も申し分ないので、

俺からぜひ、と声をかけておいたのだ。

この時勢と立場から絶対に断らないと踏んでいたのだが、

その通りとなった。

「せ、精いっぱい務めささせて、い、頂きます」

「アーシュ、そんなに緊張するな」

金バッチと白マントを片膝ついた状態で受け取ったアーシュは、

ガチガチに緊張していた。

その様子が微笑ましくて、

嫌なことだらけで沈んでいた気持ちが少しだけ緩んだ。

ありがとう、アーシュ。少し冷静になれた。

ソーンは年相応の貫禄があり、

一緒にいるとこっちが落ち着く、不思議な魅力があった。

年齢的にマジでじいちゃんって感じだ。

「引退してすぐにすまない。よく要請を受け入れてくれた」

「いえいえ、戦争が始まろうとしているときに、

責任を放棄しているようで居心地が悪かったのは事実です。

この老いぼれに今一度忠誠を誓える場を与えて下さるとは身に余る光栄。

私の肉体と魂はあなたの物です。どうか最高の死に場所を与えて下され」

死に場所って……重いなぁ。

ただ人生経験が豊富なだけにその言葉はいい得て妙だと思った。


ソーンの軍500名は解体され各軍に振り分けられた。

そしてイース公国からミーズリー軍、ギバ軍が新たに加わる。

バルバレスは軍の再編に大忙しだが、やる気と殺る気が満々だ。


さらにアルトゥール隊、ルレ隊、キャディッシュ隊、ダカユキー隊の

計200名を独立した特殊部隊として組織。

黒装束に白い髑髏のペイントを施した格好をさせ、通称【骸骨部隊】と命名。

闇夜に紛れて敵地に潜入、暗殺と攪乱が主な任務だ。

髑髏は敵の恐怖心を煽るためだ。

最終的には名前を聞いただけで逃げ出すというところまで育てていきたい。


聞いた話だとアルトゥールはコマザ村に婚約者がいたらしく、

復讐に燃えている。

キャディッシュはクロエ奪還に燃えていて、

ダカユキーは連弩の訓練の成果を実戦で早く試したいとうずうずしていた。

ルレは日和見主義で消極的だが、

仕事はきちんとこなす奴なので問題ないだろう。


護衛兵団は長年副隊長だったスノウという男が指揮することになった。

話したことはなかったが、よく見る顔だった。

口数は少なく実直な印象だ。

「スノウ・アッシュハフです。

この命を盾に、オスカー様をお守り致します」

長めのくせ毛を後ろで束ね、ひげを生やした青年。

「ああ、よろしく。神殿には行ったか?」

「はい、今のところ問題ありません」

スノウの右目が青く光る。

部隊長以上には脳にチップを埋めることを義務化した。

時間のある時にユウリナに会いに行けと命令を出していたのだ。

ちなみに護衛兵団はノーストリリア城の守備に50名、

俺に付いて戦場に出る者50名に分けた。

装備は全員連弩だ。


〝ラウラスの影〟もフル稼働するよう、

指令官のユーキンに命令を下した。

すでにザサウスニア国内に大勢の工作員が潜入済みだ。

伝書ガラスから今日も大量の手紙が届いている。


殺伐とした状況の中で一つおめでたいことがあった。

メイドのメミカ・トーランが妊娠したのだ。

節操のないメミカのことだから、

本当に俺の子? と頭を掠めたが、もちろん口には出さない。

バタバタしていたので何もしてあげられなかったが、

戦が一段落したら祝杯を上げようと約束した。

マイマのお腹もだいぶ大きくなってきて、

王家の血は着実に復活してきている。

これからノーストリリアが手薄になり、

警護に若干の不安が残るが、

ユウリナから機械蜂5匹が送られてきた。

加えてソーンの孫娘、モカル・ジルチアゼムが

新たなメイドとして城に仕えることになった。

背は低いが、幼少の頃からソーンに剣術を仕込まれていたので、

護衛の役割も担える貴重な人材だ。


あと二人の姫たち。

アーキャリーは軍に帯同することになった。

危険だから駄目だと言ったのだが、従軍医術師団に入り、

傷ついた兵士たちを救いたいと熱弁された。

もうすでに医術師の名家、アーカム家で研修を受けているらしい。

「子も宿していない身で、城にいてはただのごくつぶしです!

私は誓ったのです。オスカー様と、この国のために生きると!」

普段は天然で子供っぽいくせに、

こういう時だけ妙な胆力を見せてくる。

しばらく説得してみたが埒が明かないので、

いざという時は飛んで逃げられるよう、

有翼人の護衛を付けるという条件で折り合いをつけた。


ベリカの方は、ついに発行を開始した新聞に、

得意の絵を描くという仕事を見つけていた。

これからはおそらく戦況のことが記事の大部分を占めるだろうし、

一般国民の生活も変わる。

種族の違う地方の村との文化や常識の距離を縮めるためにも、

絵で情報を伝えるというのは思っている以上に大事なことだ。

『どうかご無事で』と書かれた紙を俺に見せる。

まだ日が浅く、そんなに距離を詰められていないが、

筆談というゆっくりとした意思の疎通の中で、

ベリカの気持ちは十分に伝わってきた。


内政はラムレス、マリンカ、ウテル王に任せた。

鉄鋼業と農畜産業に力を入れ、国力を高めろと言っておいた。

同時に人口増加計画も実行に移す。

ゼルニダ家にはマルヴァジアとの同盟交渉に動いてもらう。

「ラムレス、国内のことは一任する。頼んだぞ」

「全てお任せ下さい。国民一丸となって前線の軍を支えますぞ!」

ラムレスの下あごがぷるんと揺れる。


色々な国内の整理がついたところで、

国名を〝キトゥルセン連邦王国〟に変え、

改めて開戦宣言をした。

王都ノーストリリアにマーハント軍と護衛兵団の半分を残し、

すでに南進させてあるベミー軍、ダルハン軍、ボサップ軍以外

残りの全兵力をコマザ村と、接収したラグウンド王国に移動させた。

この2拠点を強固な城壁のある要塞に作り替える。


最後にユウリナだ。

俺と共に戦場に来てほしいと言ったのだが、

少し時間が欲しいと断られた。

その理由は機械蜂やその他兵器の製造をするからというので、

まぁよしとした。完成が楽しみだ。


呼び戻したカカラルに乗り、俺は王都を出発した。

物資の運搬で戻ってきていたネネルの小隊と共にコマザ村を目指す。

有翼人兵の背中にスノウ率いる護衛兵団と【王の左手】が乗っている。

「ついに始まるのね」

夕日に目を細めながら、横を飛ぶネネルが言った。

「ああ。人口も兵力も国力も何倍もの差がある。

だから戦況は俺たち魔戦力にかかっている」

風が冷たい。夏ももう終わる。

「うん、わかってる。

オスカー、無茶はしないでね。

あなたがいなくなったら私は……」

ネネルは軍団長になって急に大人になったように感じる。

「……顔赤いよ、ネネル」

目が合う。

「……夕日よ」

あれ、ツンデレがなくなってる。

まあ、こっちもふざける気分でもない。

「クロエは私を救ってくれた。今度は私が救う番」

「必ず助け出そう。クロエはきっと俺たちの助けを待ってる」

前方の空にいくつもの煙の線が見えた。

友軍の野営地だ。

「もうすぐ着くわ。あの……」

突然、ボッという爆発音。次いでネネルが落ちる。

「ネネルっ!!」

何が起きたかわからなかった。

「王子、西の空だ!」

リンギオが叫ぶ。

そこには空を飛ぶ亜人の軍勢がものすごい速さで接近してきていた。
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