上 下
107 / 324
第2章 

第102話 ラグウンド王国攻略編 宣戦布告

しおりを挟む
円形の王の間には赤い絨毯が敷いてあり、

文様が装飾された土壁には夜行花のランプが設置されている。

その奥にジョハ王が座っていた。

座っているというか、しゃがんでいるのか。

根人の体の構造的に座っていることになるのだろう。

王の背中からは木が生えていた。

脊髄が肥大化してゴ〇ラの背びれな感じだ。

老人だからか目が開いていない。

「キトゥルセンの王子よ」

しっかり俺の方を向いた。見えているようだ。

「血気盛んなのはいいことだ。

特に若い頃はそうでなきゃいかん。

しかしザサウスニアには敵わない。

剣を収め軍を引かせろ。

指導者ならよく考えてから行動するんだ」

もはや自らがザサウスニアの手先だと隠そうともしない。

「コマザ村を襲ったのはお前だな?」

「……私の国は2国に挟まれている。

吹けば飛ぶような小さな国だ。

強い者になびかなければ生きてはいけない」

「答えになっていない。コマザ村を襲ったのはお前だな?」

「……ああ、そうだ。しかしそうしなければ私の国は……」

俺は王のそばに火球を撃ち込んだ。

側近が慌てふためいて散り散りに逃げた。

「おい、被害者ぶるな。

お前がザサウスニアの誘惑に乗ったんだろ?

そう決断したんだろ?

指導者なら自分の行動に責任を持て」

「……中々生意気なことを言う。とても子供とは思えん」

王は不気味に笑う。

おかしい。どうしてこんなに落ち着いていられる?

軍は壊滅、敵勢に包囲されているのに。

「……こうなるのは分かっていた。

だからそのための準備もしている。

悪く思うな、キトゥルセンの王子」

床に黒い影が広がった。

同時に中から大勢の甲冑が、

まるで水の中から上がってくるように姿を現した。

赤い甲冑……ザサウスニア兵か!

全員が弓を構えていた。

「盾を構えろ!」

マーハントの怒号むなしく、構える前に矢は放たれ、

前列の兵士が次々と射抜かれた。

「オスカー伏せて!」

咄嗟にクロエが氷の壁を出し、

俺たちは何とか傷を負わずに済んだ。

「マーハントッ!!」

腹と肩に矢を受け、マーハントは膝から崩れ落ちた。

「応戦しろ!!」

リンギオが怒鳴り、素早く弓を射る。

気付けば俺は盾を構えた兵士たちに囲まれていた。

気持ちは嬉しいがこれではフラレウムが使えない。

狭い空間で矢が飛び交い、混戦状態の中、

横にいたクロエが突然紫色の電気に包まれ宙に浮いた。

「ッッッ!!……ぐ……あああああッ!!」

バチバチと爆ぜる電撃に目が眩む。

「クロエッ!!」

よく見ると手足と首に黒い紐のようなものがあった。

それを辿っていくと……いつの間にそこにいたのか、

黒衣を着た若い女が闇の上に立っていた。

その女はクロエを引き寄せ自らの盾にした。

「攻撃するな!! 矢を下ろせ!」

至近距離での撃ち合いは止んだ。

こちらの被害は甚大だが、向こうも相当やられている。

ダカユキー達の連弩が大きな成果を上げたのだろう。

黒衣の女の後ろから敵の将校が姿を現した。

龍の鱗を模したような派手な甲冑に身を包み、

口元にはいやな笑みを浮かべた、攻撃的な顔つきの男だ。

「お前がキトゥルセンの王子か。

初めて顔を合わすが……なるほど、生意気そうなガキだ」

「……お前は?」

「ザサウスニア帝国〝六魔将〟が一人、ラドーだ。

わが軍がお前たち半島を相手してやる。

魔剣も魔人も魔獣も思う存分使ってかかってくるがいい。

ああ……しかし、こいつは手土産として貰っていく。

手柄が欲しいんでね。

……面白いだろ? これは古代文明の遺物だ。

魔素を抑え込む機械だそうだ」

今まで見えなかったがクロエの頭上に小さな円状の装置が浮かんでいた。

「おい、死にたくなければクロエを放せ!」

フラレウムの刀身に火を灯す。

「おいおい、バカかお前は? その前にこいつを殺すぞ」

ラドーはクロエの腹を殴った。

「うぐっ……」

クロエは気を失った。

「てめえ!!!」

「……気づいてると思うがこいつも魔人だ。

お前らが束になっても勝てないぞ」

黒衣の女と目が合った。

「……悪いけど仕事なんで」

感情のない声にぞっとした。

視界にディスプレイが現れる。


〝夜喰いのザヤネ〟
検知結果
???
???
???
魔素数  1773 

情報
【千夜の騎士団】所属



俺の総魔力量は659だ。相当強い。

ユウリナのデータベースに載るほどには有名ってことか。

それより……【千夜の騎士団】? 

傭兵だと聞いたがザサウスニアに雇われてるのか?

「まあそう殺気立つな。今日殺すつもりはない。

ただのあいさつ……宣戦布告しに来ただけだ。

お前には期待している。せいぜい楽しませてくれよ」

ラドーはたっぷりと笑ってから足元の闇の中に入っていった。

続いてザヤネがクロエと共に沈み始めた。

「クロエっ!! おい、待て!」

「ウチの! 王が! 待てと言っているだろう!!」

キャディッシュが突風を起こし突進するが、

ラドーは笑いながら躱し、闇に消えた。

敵兵とラグウンドのジョハ王も闇の中に入る。

「キトゥルセンの王子。よく分かっただろう。

大きなものには逆らわず身を委ねるのも生存戦略の一つだ」

闇が小さくなっていき、ジョハ王の声だけが残響する。

やがてその場に残ったのは傷つきボロボロになったキトゥルセン軍だけとなった。

「……くそっ!! くそおおおおおおっ!!」

俺の絶叫だけが響く。

絶望と怒りで頭がイカレそうだ。

リンギオが俺の肩を抱いた。

「王子、一旦戻ろう。クロエは魔人だ、殺されはしない。

必ず奪還できる。

しっかりとした作戦を練って、俺たちの力を知らしめよう」

その後、負傷者の手当てをしてから全軍撤退。

失意の中、ノーストリリアに帰還した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

処理中です...