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八話

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「あれ、あの女の子。良かったね、あの女の人に引き取られるみたいだよ」

 女の人がその少女を優しく持ち上げ、どこかに連れて行こうとした姿を見て、顔がほころんだ。

 けど、ツバサは黙ったままで、むしろ先程より深刻そうな表情を浮かべている。

「違う………」

「え?」

「この記憶は………幸せになれない」

「……何を言ってるの?う、嘘だよね?ねぇ、ツバサ…!」

 ツバサの肩を掴み、荒く揺らした。けど、ツバサは何とも思わない表情で言葉を発した。

「このセカイは、いらない記憶だ。言っただろう?自分がいらないと思った記憶が集まる場所、この意味がわかるか?」

 その言葉を聞いて、すぐ理解した。
 自分がいらないと思った記憶、ならば、どっちにしろ不幸になるのだ。
 このセカイはただの記憶だとわかっていながらも、なお僕は信じたくなかった。

「僕も忘れてたんだ。ここが記憶の中だと言うことを」

「変え、られないもんね………このセカイは」

「そうだな…変えたくても変えられない。それは、僕だって同じだ………」

   僕もお前の記憶うんめいを変えたかった

 小さな声で呟いたように言ったので、あまり聞こえなかった。
 ただ、何か喋ってるな、というくらいの認識だ。

「それじゃあ、あの子はどうなるの?」

「死ぬ、な……あの女の人は殺人鬼だ。ああやって、いろんな子供を部屋に呼び込み辛さを味合わせながら殺す、だからいらない記憶と思ったんだろうな」

「え、さ、殺人鬼!??」

「そうだ、僕は記憶の管理人。何度も記憶を見てきた僕は大体予想がついている。信じられないなら、あの少女についてくか?」

「見たくないよ。辛い思いをしている子の姿なんて……」

今にも泣きそうな声で、ツバサの肩を掴んでいた手を離した。

 空を見上げると、真っ黒な月と黄金の月が昼間のくせに、はっきりと見え、きらきらと輝いている気がした。

「さて、もう見ただろ。早い内に、ここを出てしまおう」

「そうだね……」

「なに、あの少女の事は過去の事。お前のせいじゃない気にするな」

 今度はツバサが僕の肩に手を乗せて、ぽんぽんっと優しく叩いた。

 ツバサは平気、なのだろうか。そんな平気そうな表情をしながら、僕はむしろ我慢しているように見えた。

 ツバサは前へ歩きだし、僕の方へと振り向く。

「ほら、帰るぞ」

「あ、う、うん!」

 ツバサの呼び声で、我に返り、ツバサの方へと早歩きした。
 僕はどうしたら、正解なのだろうか。

「ったく、今回は正当法でやるか……掴まってろよ」

 またどこからか、ハートのカギを取り出した。
 僕はうん、とだけいい、ツバサの服をまた掴んだ。

 ツバサは、カギを少しだけ割れ目が入った地面へと勢いよくぶっ刺した。
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