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第5章 想い出と君の涙を
5章 第11話
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「長野の雪、初めて⋯⋯」
凛は音慶寺の石段を降りつつ空を眺め、そう呟いた。
もちろん、俺達の間では手が強く握られていた。というより、彼女にこうして支えてもらっていないと、ちゃんと立っていられる自信がない。少し休んで何とか立ち歩きはできるようになったが、まだ膝に力が入らない。酷い有様だった。
「そうなのか。意外」
「うん。いつもお祖父ちゃんちには、夏に来てたから。積もるかな⋯⋯?」
「多分積もるよ。ま、これから多分暫く雪を見るから、年が明けた頃にはもう見飽きてるよ」
「それはないよー。こんなに素敵なのに」
「あるって。去年の俺がそうだったから」
「それは、翔くんが情緒に欠けるだけじゃない?」
それは聞捨てならない。長野県民にとって雪こそ日常。ホワイトクリスマスなんて当たり前なのだ。都民には決してわからないだろうが。
「お、言ったな? 来月の感想、楽しみにしてるからな」
「ええ、もちろん! わたくしめは今と変わらず、雪は素敵だと思い続ける事を、ここに宣言するのであります!」
なんだか演説家みたいな口調で凛がお道化て言うので、思わず笑ってしまった。たまに凛はこういうよくわからないノリを発揮する。そういうところも可愛いのだけれど。
「あ、ご飯どうする? 一応作ってあるけど⋯⋯もうこんな時間だもんね」
階段を降りた時に、凛はスマホを取り出して訊いてきた。
家に帰るなら、俺達はここで逆方向に進まなければならない。もう時刻は0時半。本来ならもう帰ってなきゃいけないけれど⋯⋯まだ凛と離れたくない。
「食べるよ。約束してたし、今日何も食ってないから」
「うん、わかった。帰ったらすぐに支度するね。もう温めるだけだから」
凛が嬉しそうに頷いて、歩き出す。手を引かれるように、俺も横を並んだ。
「あ、それと⋯⋯ちょっとお願いがあるんだけど」
「なあに?」
「今日、泊めて」
実のところを言うと、もう本当に足腰が限界だった。
凛の家で一服した後、家に帰れる自信がない。
「⋯⋯翔くんのえっち」
ちょっとからかうような響きで、冷たい目線を送ってくる。もちろん、それが冗談だというのもわかってはいる。
「い、いや、そうじゃなくて。もう足痛くて、家まで帰るのつらいんだよ」
下心も、もちろんゼロではないけれど。こんな雪が降るような寒い日は恋人と暖め合いたいって思うじゃないか。
「⋯⋯本当は?」
悪戯な笑みを浮かべて、俺の顔を覗き込んでくる。
くそ、鋭い。やっぱり凛は鋭かった。
「ほ、本当だよ」
「そうなんだ? それは⋯⋯残念♪」
「えっ?」
その言い方だと、まるで凛も乗り気みたいに聞こえてしまう。そんな下心満載な俺でも受け入れてくれると言うのだろうか。
そういえば、一番最初に会った時も、こんな会話をしたな、と思う。
「あ。それが理由だったら、やっぱり泊めてあーげないっ」
「ええっ」
そんな殺生な! 今一瞬凄く喜んでいたのに。
そう思っていると、凛は少し先に回り込んで、ニヤニヤしていた。
「ねえ、さっき翔くん何て言ってたっけ?」
「え?」
「隠さないって言ってなかった?」
ほんの数十分前に⋯⋯確かに俺はそう言った。でも、それは今言うのは反則じゃないか?
「正直に話してくれたら、泊めてあげちゃおうかな?」
「お、おい⋯⋯」
「⋯⋯本当は?」
またさっきみたいに悪戯の笑みを浮かべて、俺の顔を覗き込んでくる。くそう、狡い。狡過ぎる。こんなの、逃げようがないじゃないか。
「凛と一緒に寝たいです⋯⋯」
その言葉を聞いた凛は悪戯っこみたいに満足げに微笑んでから、顔を寄せて、頬に優しくキスをした。
「いいよ♪」
くすくす笑って、腕を組んでくる。
もう完全に掌握されてしまっているけれど⋯⋯凛が楽しそうならそれでいいか、と思ってしまう。
彼女はもう呪縛から解放されたのだろうか。それなら、これ以上嬉しい事はない。
こういうやり取りをしていると、やっと凛と付き合えているんだな、という実感が湧いてくる。そう、まるで⋯⋯あの時みたいだ。放課後にいきなり校舎を案内してよと言われた、付き合いたての頃。
『あ、いいね、それ! じゃあさ、盗んじゃおう』
凛が唐突に、誰もいない教室を見て言った。何を盗むんだ、と訊くと彼女はこう答えたのだった。
『君の青春♪』
あの時も悪戯げに笑っていながらも、本当はちょっと恥ずかしかったんじゃないかな、と今なら思えてくる。
『私の青春は⋯⋯これからのも含めて、全部翔くんが盗んでいいからさ』
このやり取りで、俺がどれだけドキドキしていたかなんて、きっと凛は知らなくて。ほんの2か月くらい前の会話のはずなのに、随分昔のように思えた。まるで自分の未来を全部あげると言われたような、そんな気持ちになっていたのを覚えている。
今にして思えば、凛はそれだけの覚悟を持って俺と付き合っていたんだなって思うと、嬉しい。
ここに辿り着く為に、どれだけの試練を乗り越えただろうか。でも、それらの試練はどれも必要だった。凛とこんなやり取りをできるのがどれだけ幸せな事だったのか、それを理解する為にも。
これをただの試練で終わらせない為に、そしてこれからも互いの青春を共有する為に、俺は何をすべきなんだろう?
腕から伝わる彼女の温もりを感じながら、そんな事を考えるようになっていた。
凛は音慶寺の石段を降りつつ空を眺め、そう呟いた。
もちろん、俺達の間では手が強く握られていた。というより、彼女にこうして支えてもらっていないと、ちゃんと立っていられる自信がない。少し休んで何とか立ち歩きはできるようになったが、まだ膝に力が入らない。酷い有様だった。
「そうなのか。意外」
「うん。いつもお祖父ちゃんちには、夏に来てたから。積もるかな⋯⋯?」
「多分積もるよ。ま、これから多分暫く雪を見るから、年が明けた頃にはもう見飽きてるよ」
「それはないよー。こんなに素敵なのに」
「あるって。去年の俺がそうだったから」
「それは、翔くんが情緒に欠けるだけじゃない?」
それは聞捨てならない。長野県民にとって雪こそ日常。ホワイトクリスマスなんて当たり前なのだ。都民には決してわからないだろうが。
「お、言ったな? 来月の感想、楽しみにしてるからな」
「ええ、もちろん! わたくしめは今と変わらず、雪は素敵だと思い続ける事を、ここに宣言するのであります!」
なんだか演説家みたいな口調で凛がお道化て言うので、思わず笑ってしまった。たまに凛はこういうよくわからないノリを発揮する。そういうところも可愛いのだけれど。
「あ、ご飯どうする? 一応作ってあるけど⋯⋯もうこんな時間だもんね」
階段を降りた時に、凛はスマホを取り出して訊いてきた。
家に帰るなら、俺達はここで逆方向に進まなければならない。もう時刻は0時半。本来ならもう帰ってなきゃいけないけれど⋯⋯まだ凛と離れたくない。
「食べるよ。約束してたし、今日何も食ってないから」
「うん、わかった。帰ったらすぐに支度するね。もう温めるだけだから」
凛が嬉しそうに頷いて、歩き出す。手を引かれるように、俺も横を並んだ。
「あ、それと⋯⋯ちょっとお願いがあるんだけど」
「なあに?」
「今日、泊めて」
実のところを言うと、もう本当に足腰が限界だった。
凛の家で一服した後、家に帰れる自信がない。
「⋯⋯翔くんのえっち」
ちょっとからかうような響きで、冷たい目線を送ってくる。もちろん、それが冗談だというのもわかってはいる。
「い、いや、そうじゃなくて。もう足痛くて、家まで帰るのつらいんだよ」
下心も、もちろんゼロではないけれど。こんな雪が降るような寒い日は恋人と暖め合いたいって思うじゃないか。
「⋯⋯本当は?」
悪戯な笑みを浮かべて、俺の顔を覗き込んでくる。
くそ、鋭い。やっぱり凛は鋭かった。
「ほ、本当だよ」
「そうなんだ? それは⋯⋯残念♪」
「えっ?」
その言い方だと、まるで凛も乗り気みたいに聞こえてしまう。そんな下心満載な俺でも受け入れてくれると言うのだろうか。
そういえば、一番最初に会った時も、こんな会話をしたな、と思う。
「あ。それが理由だったら、やっぱり泊めてあーげないっ」
「ええっ」
そんな殺生な! 今一瞬凄く喜んでいたのに。
そう思っていると、凛は少し先に回り込んで、ニヤニヤしていた。
「ねえ、さっき翔くん何て言ってたっけ?」
「え?」
「隠さないって言ってなかった?」
ほんの数十分前に⋯⋯確かに俺はそう言った。でも、それは今言うのは反則じゃないか?
「正直に話してくれたら、泊めてあげちゃおうかな?」
「お、おい⋯⋯」
「⋯⋯本当は?」
またさっきみたいに悪戯の笑みを浮かべて、俺の顔を覗き込んでくる。くそう、狡い。狡過ぎる。こんなの、逃げようがないじゃないか。
「凛と一緒に寝たいです⋯⋯」
その言葉を聞いた凛は悪戯っこみたいに満足げに微笑んでから、顔を寄せて、頬に優しくキスをした。
「いいよ♪」
くすくす笑って、腕を組んでくる。
もう完全に掌握されてしまっているけれど⋯⋯凛が楽しそうならそれでいいか、と思ってしまう。
彼女はもう呪縛から解放されたのだろうか。それなら、これ以上嬉しい事はない。
こういうやり取りをしていると、やっと凛と付き合えているんだな、という実感が湧いてくる。そう、まるで⋯⋯あの時みたいだ。放課後にいきなり校舎を案内してよと言われた、付き合いたての頃。
『あ、いいね、それ! じゃあさ、盗んじゃおう』
凛が唐突に、誰もいない教室を見て言った。何を盗むんだ、と訊くと彼女はこう答えたのだった。
『君の青春♪』
あの時も悪戯げに笑っていながらも、本当はちょっと恥ずかしかったんじゃないかな、と今なら思えてくる。
『私の青春は⋯⋯これからのも含めて、全部翔くんが盗んでいいからさ』
このやり取りで、俺がどれだけドキドキしていたかなんて、きっと凛は知らなくて。ほんの2か月くらい前の会話のはずなのに、随分昔のように思えた。まるで自分の未来を全部あげると言われたような、そんな気持ちになっていたのを覚えている。
今にして思えば、凛はそれだけの覚悟を持って俺と付き合っていたんだなって思うと、嬉しい。
ここに辿り着く為に、どれだけの試練を乗り越えただろうか。でも、それらの試練はどれも必要だった。凛とこんなやり取りをできるのがどれだけ幸せな事だったのか、それを理解する為にも。
これをただの試練で終わらせない為に、そしてこれからも互いの青春を共有する為に、俺は何をすべきなんだろう?
腕から伝わる彼女の温もりを感じながら、そんな事を考えるようになっていた。
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