想い出と君の狭間で

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第2章 久瀬玲華

久瀬玲華②

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 聞き覚えのある声。
 忘れるはずもない声。
 俺の電話口から聞こえてくるはずのない声。
 そう⋯⋯久世玲華の声だった。

「れ、玲華!?」

 思わず荷物を落とした。
 なんでこいつが俺の番号を⋯⋯と思ったが、東京の頃から携帯電話の電話番号を変えていなかった。
 もし玲華が電話をかける気になればいつでもかけれたのだ。もっとも、別れてからこの一年と少し、彼女から電話がかかってきたのことなど一度もなかったのだけれど。

『久しぶりだね』
「そ、そうだな⋯⋯」
『って言っても、この前会ったから久々でもないか♪』

 なんだ、なにが目的なんだ。
 どうしてそんなに明るい声を出しているんだ。
 玲華とはあの修学旅行以降なんら関わりがない。それを何故今更、こんな感じで電話をかけてくるのか意味がわからなかった。

『なにしてるの?』
「えっと⋯⋯文化祭の買い出し?」
『へー、そうなんだ? 荷物多くて大変そうだね。手伝ってあげよっか?』 
「え? どういう⋯⋯」

 俺が訊き返そうとすると、さきほど落とした荷物を誰かが拾ってくれた。

「はい、どうぞ。今度は落とさないようにね?」

 声を聞いて、思わずハッと顔を見上げて、それでも俺はその光景が信じられなくて、固まる。
 そこにいた人は、今俺が電話で話しているはずの人だったのだ。

「ハーイ♪ ショー、元気?」

 今度は電話越しでなく、生身の対面で同じセリフを吐いてくる。あの時のままの笑顔で彼女がいて⋯⋯夢か何かかと思ってしまう。白昼夢であれば、どれだけよかったのだろうか。

「れ、玲華!?」

 うそだろ。なんでお前がここにいるんだよ。

「君さあ、電話のときと反応が同じじゃない?」
「う⋯⋯」

 玲華が呆れたように言った。

「ど、どうしてお前が!」
「知りたい?」

 ぬいっと体を乗り出してきて、顔を覗き込んでくる。
 この前会った時とは打って変わって、楽しそうだった。

 ──昔みたいに。

 そう、今の彼女は俺と付き合っていた頃のような表情だった。面白いものにだけしか興味がなくて、小さなことでも面白いものに変えてしまっていた当時の彼女のように。

「べ、べつに」

 顔を逸らして差し出した荷物を取ろうとすると、彼女は俺の落としたビニール袋をひょいと自分のほうに寄せた。

「おい⋯⋯それは俺の荷物じゃなくて」
「⋯⋯知りたい?」

 彼女はもう一度さっきと同じように顔を覗き込んでくる。とっても楽しそうに。

「わかったから、返せ。今から学校に戻るから」
「じゃあ、私とお茶してよ」
「は?」

 こいつは俺の言った話を聞いていないのか?

「いや、だから俺今買い出しの最中で⋯⋯」
「ほら、あと30分しかないの! はやく! はーやーく! はやくしろー!」

 聞く耳を持たずにダダっ子みたいにわめきやがる。
 このまま騒がれても、周囲の目も集まりそうだ。俺は慌てて玲華の手を引いて、とりあえず一番近くにあった喫茶店⋯⋯アイビスに連れ込んだ。
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