上 下
93 / 192
第2章 久瀬玲華

久瀬玲華

しおりを挟む
 学校について凛を一目見て、悟ってしまった。
 凛のクラスメート達と話す笑顔が、作り物である事に。
 というか、どこから情報がもれたのかわからないが、もう教室が映画の舞台になる話題に溢れていた。
 彼女から遠ざけるなんて、もはや無理な状況。
 凛に『大丈夫か?』とLIMEアプリでメッセージを送ると、『大丈夫』と一言返ってきた。
 大丈夫じゃないんだろうな、これは。
 何となくそう思ったものの、その後凛と話す時間をなかなか作れなかった。少し前の彼女なら、俺と時間を作るなんてわけない事だったのだが、今の彼女の周りには常に女の子がいた。
 凛がクラスで人気者になっているのは嬉しい事なのだが、女の子のコミュニティは結束が強すぎて、凛が一人になる時が全くない。ここで呼び出して連れ去ろうものなら冷やかされるし、正直今の彼女にはそういった精神的な負担もかけたくなかった。

 どうしたものかと悩んでいると、放課後の文化祭の準備中、俺は材料の買出しを命じられた。面倒だなと思いつつ、これはある意味ラッキーなのか? と踏んだ俺は、凛をとにかく探す。
 廊下を歩いていると、ちょうどトイレから帰ってきたであろう凛とすれ違ったので、問答無用で腕をさっと取って、階段の渡り廊下まで引っ張っていった。彼女は「はいっ!?」と驚いた声を上げているが、気にしている余裕なんてない。

「び、びっくりした⋯⋯なに? いきなりどうしたの?」

 階段の踊り場で、凛は呆れたように笑って、首を傾げた。少しだけ嬉しそうなのは、気付かなかった事にしておいてやる。

「いや、最近二人になれてなかったからさ⋯⋯その、買い出し頼まれたんだけど、一緒に行かない?」

 そう訊いてみると、凛は困ったように笑って首を横に振った。

「行きたいけど⋯⋯ほら、私、衣装作りのデザイン任されてるからさ」

 ごめんね、と付け加えた。

「映画の事、心配してくれてたんだよね? でも、翔くんが思ってるほど、私ダメージ受けてないからさ。どっちかっていうと玲華のCМの方がダメージでかかったんだよね」

 凛はあっけらかんとした様子で答えた。
 多分、強がっている。でも、彼女がこうして言っているのだから、これ以上とやかく言うのも変だろう。
 そこで凛とは別れて、仕方なしに一人でイワンモールに向かった。代わりに純哉を誘ったのだが、彼は彼で別の用事を言い渡されていたので、結局一人だ。
 学校からイワンモールはそんなに遠くは無いが、バスで行かなければならない為、少しめんどくさい。
 あと、買出しの材料リストを見る限り、果たして本当に一人で持ちきれるのかも謎であった。
 俺の手、2本しかないんだけど?

 ◇◇◇

 イワンモールから買出しを終えて両手に大荷物を抱えてヒーヒー言いながら学校に戻るために商店街まで一度バスで戻ったところで、不意に携帯電話が鳴った。

 一旦荷物を置いて、電話を見てみると、知らない電話番号だった。090で始まっているので、どうやら携帯電話からの着信らしい。
 もしかしたらクラスの誰かからかな? と思い、電話に出てみる。

 すると、電話口からすごく明るい声が聞こえてきた。

『ハーイ♪ ショー、元気?』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

全体的にどうしようもない高校生日記

天平 楓
青春
ある年の春、高校生になった僕、金沢籘華(かなざわとうか)は念願の玉津高校に入学することができた。そこで出会ったのは中学時代からの友人北見奏輝と喜多方楓の二人。喜多方のどうしようもない性格に奔放されつつも、北見の秘められた性格、そして自身では気づくことのなかった能力に気づいていき…。  ブラックジョーク要素が含まれていますが、決して特定の民族並びに集団を侮蔑、攻撃、または礼賛する意図はありません。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼馴染に毎日召喚されてます

涼月
青春
 高校二年生の森川真礼(もりかわまひろ)は、幼馴染の南雲日奈子(なぐもひなこ)にじゃんけんで勝った事が無い。  それをいい事に、日奈子は理不尽(真礼的には)な提案をしてきた。  じゃんけんで負けたら、召喚獣のように従順に、勝った方の願いを聞くこと。  真礼の受難!? の日々が始まった。  全12話

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

処理中です...