想い出と君の狭間で

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第1章 雨宮凛

好きだった②

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「だって、あの玲華が自分から男の子に話しかけるんだよ? そんなの今まで見た事無かった。私と居てもよく翔くんの事よく話してたし」

 どういう話をされていたのか気になるが、俺は敢えて黙っていた。今訊く事ではない気がする。
 凛の話では、玲華は容姿の良さ故に男が寄ってくる事はあっても、いつもほぼ無視状態だったと言う。また、玲華は無愛想でマイペースだから、学校の女子からも敬遠されており基本的に孤立していたが、偶然同じモデル事務所に所属していて撮影現場で凛と玲華は出会い、凛が同じ学校でも有名だった玲華を知っていた事もあり、話す様になったのだとか。
 俺からすれば玲華がモデルをやっていた話は今日知った様なものだったし、性格的に芸能関係に興味は無さそうだったから意外だ。
 その件については、「私は元々モデルに興味があったからやってみたんだけど、玲華は暇潰しって言ってたかな。退屈だっていつも言ってた」だそうだ。

『退屈ね』

 そういえばこれは玲華の口癖だった。
 勉強も特に頑張らなくても成績は全国でもトップクラスだし、遊びにも人間にも興味がない彼女にとっては全てが退屈だったのだろう。

「暇潰しって言ってたくせに仕事ってなると凄く真剣で、人気投票もいつも勝てなくて……あれは悔しかったなぁ」

 その気持ちはよくわかる。
 俺もどれだけ努力しても玲華には勝てなかったから。

「玲華ってさ、結構無茶苦茶なとこあるじゃない? 相手に物怖じしないでハッキリ物事言うしさ。それが社長とか他の関係者からも面白がられて、気に入られてたんだよね。もちろん、モデル仲間にはすごく嫌われてたけど」

 凛が苦笑いしながら言った。それも想像ができた。

「同じ塾に入ったのは?」
「偶然。親からモデルやる条件は勉強を疎かにしない事って言われて仕方なく入ったら玲華が居たの。でも、私も玲華もあの塾が学校から一番近かったから……そこはあまり不思議じゃないかな」

 同じ学校の友達も結構通ってたしね、と凛は付け加えた。

「そうだったのか」

 吉祥寺校は合格率の高さが他より群を抜いて高かったから、親に無理矢理いれられて俺は電車に乗って通っていた。
 一度帰宅してから塾に行くのは結構億劫なものだった。

「勉強では勿論勝てないし、仕事でも勝てないし、密かに気になってた人とも付き合っちゃうし……何一つ、玲華には勝てなかった」

 凛は黙って俺の話を聞いてくれていた。
 俺はあの時、途中から玲華しか見えなくなって……勉強も玲華に勝つ為にやってた。いや、ただ玲華に認められたかっただけなのかもしれない。
 まさか、同じ塾内で俺に想いを寄せている人間がいるとは思わなかったし、そんなところで誰かを傷つけていたとも知らなかった。
 そういえば、凛とここで初めて話した時も、俺が彼女について知らないと言った時、酷く傷ついた表情をしていた。それは俺がモデルのRINについて知らなかった事でなく、同じ塾内に居て全く眼中にすら無かった事を改めて知って傷ついたのだ。授業中に『相変わらず頭良いんだ』と言ったのも今ならわかる。
 彼女は俺を知っていたからだ。

「玲華が嫌いなわけじゃないのに……心のどこかでずっと対抗心を燃やしてて。それで、自己嫌悪。嫌になっちゃうよね」

 あはは、と凛は乾いた笑みを浮かべた。

「何で玲華は仕事辞めたんだろうな」
「多分、翔くんと付き合ってたから、だよ」

 凛は呆れたような笑みを浮かべてから、続けた。
 凛曰く、玲華は暇潰しでモデルやってただけで、俺と付き合う方が面白かったのではないかと予想していた。

「あと、私に罪悪感も感じてたんじゃないかな」
「罪悪感?」
「玲華は鋭いから、きっと私が翔くんの事気になってたっていうのは知ってたと思う。だから、せめて仕事だけはって思ったんじゃないかな」

 わかんないけどね、と 凛は自嘲気味な笑みを作って付け足した。

「玲華が辞めたから玲華がやるはずだった仕事が私に回ってきた。結果的に、それキッカケで私が有名になれた」

 だけど、と繋げて凛は続けた。

「こんなの……全然自分の力じゃないよね。全部玲華のお下がり。玲華の代わりをやらせてもらっただけ。もし玲華が仕事を続けてたら今の私は絶対に無いから。全然……嬉しくないよ」

 彼女は俯き、表情を隠した。
 惨めだったのだろう。玲華なりの情けだったのかもしれないが、彼女の情けは人を傷つける。
 俺にも似た様な事があった。思い出したくないくらい惨めで、甘美だった。本当に……思い出したくないくらい、幸せなのに惨めだった。
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