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第1章 雨宮凛
もう一度あの場所で③
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そう訊くと、「えっ」と少し驚いた様な、凛にしては間抜けな声をあげた。
「んー……聞きたい?」
ちょっと照れくさそうにこちらを見て、視線を逸らす。こくり、と俺は頷いた。
「君に…………から」
声が小さくてよく聞こえなかった。
「え、何て?」
「もうっ、君に会えるかも知れないって思ったから! 恥ずかしいから何度も言わせないでよっ!」
「ご、ごめん!」
怒った様に彼女はふいっとそっぽ向く。だが、それは嬉しくもあり、何だか奇妙な話だった。
「でも、どうして俺に?」
「だって、御礼、言いたかったから」
「え?」
「一番辛くて、本当にどうしていいかわかんなかった時、まるで天使みたいにふらって現れて、私が欲しかった助言をしてくれたからだからさ」
そんなに俺は大それた事を言ったのだろうか。一人の人生を変えてしまう程の事を?
案の定、スーパーモデルの電撃引退が俺との会話に起因していた事は事実だったらしい。全国のRINファンからぶっ殺されそうだ。
「でも、ほんとに感謝してるんだよ? あの時一番辛くってさ……だから、そのお礼が言いたくて」
「別に礼なんていらないさ。俺は何もしてない。全部自分で選んだ事だろ。むしろ、俺なんかのアドバイスで人生変えて良かったのか、申し訳なくて」
「そんな事ないよ。そんな風に思わないでほしいなー」
彼女は拗ねたように、少し不機嫌そうにしていた。
きっと今改心させて芸能界に戻らせようとしても、もう遅い。彼女は心から決めているようで、そんな言葉には絶対耳を貸さない。
それに、俺はさっき何を考えていた?
『散々悩んで、俺みたいなどこの馬の骨かわからない奴に相談して、それで答えを出すなんて……よっぽど追いつめられていたのではないだろうか』
そう思ったのだ。まさしく彼女はそうだったのではないか。俺は背中を押した程度かもしれない。ただ、そう思っても俺の中の罪悪感は消えなかった。
「もう……私、こういう展開望んでなかったのにな。この機会を逃すと次はいつ会えるかわからないし、もしかしたらもう会えないかも知れないのに」
彼女の言葉に、思わず息が詰まる。
そうだ。彼女はモデルを辞めたにせよ、また東京で学生生活に戻るだけで、そこに俺との接点はもうない。俺は何も答えを返せない。
わかっていたけれど、認めたくなかった現実。
「だから、ありがとう」
「……ああ」
どうしようもない切なさが襲ってくる。
結局俺はどうしたかったのだろうか。彼女とどうなりたかったのだろうか。
そんな感情に気付いても、もう遅かった。
それから俺達はつまらない、ほんとにどうでもいい話をして、前と同じ様に二人で寺の石段を降りていった。
階段を下りて自分の家の方へ向かおうとすると、
「翔くん」
いきなり呼び止められた。
「ん?」
「……またね」
「うん? ああ、またな」
そう言ってお互いに軽く手を振って、背を向けた。
凛は極上の笑顔を見せていた。それに対して、俺は、ちゃんと笑顔を作れただろうか。『また』がいつくるかわからない『またね』は正直辛い。でも、まあ所詮現実はこんなものだろう。むしろ、会えただけ幸運だったのかもしれない。
そう自分に言い聞かせるものの、深い溜息が出てしまう。
彼女とは、これできっと最後なるのだろう。
俺はそんな諦めの籠った溜め息を吐いて、家路についた。
「んー……聞きたい?」
ちょっと照れくさそうにこちらを見て、視線を逸らす。こくり、と俺は頷いた。
「君に…………から」
声が小さくてよく聞こえなかった。
「え、何て?」
「もうっ、君に会えるかも知れないって思ったから! 恥ずかしいから何度も言わせないでよっ!」
「ご、ごめん!」
怒った様に彼女はふいっとそっぽ向く。だが、それは嬉しくもあり、何だか奇妙な話だった。
「でも、どうして俺に?」
「だって、御礼、言いたかったから」
「え?」
「一番辛くて、本当にどうしていいかわかんなかった時、まるで天使みたいにふらって現れて、私が欲しかった助言をしてくれたからだからさ」
そんなに俺は大それた事を言ったのだろうか。一人の人生を変えてしまう程の事を?
案の定、スーパーモデルの電撃引退が俺との会話に起因していた事は事実だったらしい。全国のRINファンからぶっ殺されそうだ。
「でも、ほんとに感謝してるんだよ? あの時一番辛くってさ……だから、そのお礼が言いたくて」
「別に礼なんていらないさ。俺は何もしてない。全部自分で選んだ事だろ。むしろ、俺なんかのアドバイスで人生変えて良かったのか、申し訳なくて」
「そんな事ないよ。そんな風に思わないでほしいなー」
彼女は拗ねたように、少し不機嫌そうにしていた。
きっと今改心させて芸能界に戻らせようとしても、もう遅い。彼女は心から決めているようで、そんな言葉には絶対耳を貸さない。
それに、俺はさっき何を考えていた?
『散々悩んで、俺みたいなどこの馬の骨かわからない奴に相談して、それで答えを出すなんて……よっぽど追いつめられていたのではないだろうか』
そう思ったのだ。まさしく彼女はそうだったのではないか。俺は背中を押した程度かもしれない。ただ、そう思っても俺の中の罪悪感は消えなかった。
「もう……私、こういう展開望んでなかったのにな。この機会を逃すと次はいつ会えるかわからないし、もしかしたらもう会えないかも知れないのに」
彼女の言葉に、思わず息が詰まる。
そうだ。彼女はモデルを辞めたにせよ、また東京で学生生活に戻るだけで、そこに俺との接点はもうない。俺は何も答えを返せない。
わかっていたけれど、認めたくなかった現実。
「だから、ありがとう」
「……ああ」
どうしようもない切なさが襲ってくる。
結局俺はどうしたかったのだろうか。彼女とどうなりたかったのだろうか。
そんな感情に気付いても、もう遅かった。
それから俺達はつまらない、ほんとにどうでもいい話をして、前と同じ様に二人で寺の石段を降りていった。
階段を下りて自分の家の方へ向かおうとすると、
「翔くん」
いきなり呼び止められた。
「ん?」
「……またね」
「うん? ああ、またな」
そう言ってお互いに軽く手を振って、背を向けた。
凛は極上の笑顔を見せていた。それに対して、俺は、ちゃんと笑顔を作れただろうか。『また』がいつくるかわからない『またね』は正直辛い。でも、まあ所詮現実はこんなものだろう。むしろ、会えただけ幸運だったのかもしれない。
そう自分に言い聞かせるものの、深い溜息が出てしまう。
彼女とは、これできっと最後なるのだろう。
俺はそんな諦めの籠った溜め息を吐いて、家路についた。
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