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039 魔耶風(マヤカゼ)
しおりを挟む石舞台に立つコォン。彼を中心として狂気が周辺に伝播してゆく。
客席でも雄叫びがあがり、そこかしこにて乱闘が始まった。
赤い点々が波紋のように広がっていく。
そのすべてが野獣と化した人たちの瞳。
あまりのことに闘技場内は大混乱。
それを横目にコォンがこちらへと向かって歩き出そうとする。
先に動いたのはケイテンであった。
ケイテンは懐から黒い玉を三つばかしとり出すと、コォンに投げつける。
とたんにコォンの周囲が白煙に包まれた。
同時にケイテンはわたしをひょいと脇に抱え、脱兎のごとく貴賓席より逃げ出す。
「よくわからないけれども、あの血はダメ。それに黒い風や赤い雪もヤバい。ハチヨウやトールンほどの者たちが正気を失っている時点で、並みの人間ではとても耐えられない」
闘技場の屋内へと避難を敢行するケイテン。
あらかたの客たちが決勝戦を見ようと客席の方に詰めかけていたので、こちらはすいている。逃走するのには都合がいい。けれども逆に考えると、この丘の上に集っている大半の者たちが、おかしくなっていることを意味していた。
一刻も早くこの場所から離れたほうがいい。そう判断したケイテン。最短距離を出口へとひた走る。
◇
通路内、わたしを小脇に抱えたまま駆け続けるケイテン。
唐突に前方の天井が崩れた。
土煙と瓦礫で立ち往生をよぎなくされたわたしたち。
悠然と姿をあらわしたのは白い槍を手にしたコォン。無言のまま前傾姿勢をとり、床に這うかのごとき低い構えからの突進。
すさまじい刺突が眼前に迫る。
ケイテンがわたしの襟首をむんずとつかんで後方へと放ちつつ、懐より小袋をとり出し中身をぶちまける。
銀砂のようなきらめきが舞い、薄モヤとなったかとおもえば、次の瞬間、視界が閃光に満ちて盛大に爆ぜた。
光と音と衝撃が廊下内で暴れる。
すっかり目がくらんでフラフラしているわたし。そのカラダをふたたびケイテンがひょいと抱える。
「コォンくんってば人間ヤメちゃってるし、たいして足止めにはならないでしょうけど。いまのうちに」
走り出したケイテン。背後をチラリともふり返ることもなく、一目散にちがう出口を目指す。
けれども順調だったのはほんのわずか。
おかしくなった人たちが、建物内にも続々と乱入してきたからだ。
目があえば問答無用で襲いかかり、近づけば手をのばし、牙をむく獣のごとき表情で向かってくる。
だからとて元はふつうの人たちを、いたずらに傷つけるわけにもいかず。
背後には追ってくるコォン。周囲には正気を失い群がる人々。
そこかしこを悲鳴やら怒号と破壊音が席捲するヒドイあり様。
着実に阿鼻叫喚の地獄絵図と化しつつある闘技場内。
わたしたちは防戦一方にて、ひたすら逃げる、逃げる。
◇
もうすぐ出口という位置。
二本の通路が合流するところで、横合いから飛び出してきた影。
とっさのことで反応しきれず、ドンと押し倒されたケイテン。はずみで抱えられていたわたしも床に投げ出されて、アイタタタ。
で、新手かと警戒するも、視線の先にいたのは仮面の剣士。尻もちをついたひょうしに腰を強打したのか、「ぐぬぬ」とうなっている。
「痛ってえ。この野郎、どこに目をつけていやがる! って、ケイテンとチヨコ? お前たち、無事だったのか!」
「そういうアスラこそ」
よもやの再会であった。
決勝戦を観覧していたところを、あの変事に遭遇したアスラ一行。
倒したはずの白い槍と若者の登場におどろいていたところ、周囲が何やらきな臭い雰囲気に。
アスラ自身は平気だったのだけれども、ヴルス老やお供の者たちの様子までもがおかしくなってしまい、にっちもさっちもいかなくなって単身逃げ出したという。
アスラの話を聞いてケイテンは「ふむ」と思案顔。
「天剣(アマノツルギ)の加護を持つチヨコちゃんはともかくとして、わたしとアスラくんだけが無事で、その他のみんながおかしくなっている? ということは……。
ハッ! もしかして」
なにやら思いついたらしいケイテン。
でも彼女の話をのんびり聞いている時間はなかった。
すぐ近くの壁が爆ぜ、大きくあいた横穴。
奥から白い槍を手にしたコォンがのっそり姿をあらわしたからである。
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