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036 意趣返し、気づき、言霊と呪

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 決着がついたというよりも、やや先延ばしになった感のある霧山くん問題。
 だがこの話にはオマケがある。
 わたしと霧山くんは公園の池のほとりで話をしていたんだけど……。
 とりあえずひと段落ついたところで、唐突に霧山くんが少し離れたところにある繁みに向かって声を張り上げた。

「で、そこの連中はいつまで隠れているつもりなんだ」

 声に反応して繁みがガサガサリ。
 観念して姿をあらわしたのは真田くんとその妹の萌咲ちゃんに、月野さんまで。

「いや、すまん。邪魔をするつもりはなかったんだ」申し訳なさそうな真田くん。「あっ、でも安心してくれ。会話はほとんど聞こえてなかったから」とあわてて付け加える。
「つまんないのー。てっきりラブラブなのかとおもったのにー」とは萌咲ちゃん。幼女はいろいろ誤解しているらしい。
「えーと、あの、その、ちょっと気になったものだから。それに奈佐原さんに言われっ放しというのもシャクだったし」月野さんはものすごくばつが悪そうである。

 どうやらこの三人、わたしが池の向こう側へと行っているときに霧山くんの姿を見つけて、それで繁みの中にそろって隠れてのぞいていたと。
 そんな三人、霧山くんから冷たい視線を向けられ、そろってペコリと頭を下げて「ごめんなさい」したものだから、どうにか彼の機嫌もなおった。
 かと思ったら、「そうだ。せっかくだからキミたちも奈佐原さんの手品を見せてもらいなよ。すごいよ彼女。さすがは『自称霊感少女』なだけはあるね」なんぞと言い出したものだからたまらない。
 なっ、ここにきて、よもやの意趣返し!
 いきなり話を振られてわたしはびっくり仰天。
 戸惑うわたしの姿をにやにや眺めている霧山くん。うぅ、やさしい悪魔が笑っているよ。
 まさかキラキラ王子さまにこんな一面があっただなんて。

 この後、結局わたしは無邪気によろこぶ萌咲ちゃんと、負けず嫌いな月野さんの「もう一回、次こそはきっとタネを見破ってやるんだから」というリクエストに応える形にて、延々と計十三回も手品を披露するハメになる。
 おかげでわたしと生駒はすっかりヘロヘロになってしまった。

  ◇

 激動の一日を終え、のんびりまったり入浴中。

「今日もいろいろたいへんだったねえ」

 わたしがしみじみつぶやけば、実体化していっしょに湯につかっている生駒も「そうだねえ」とうなづく。
「にしても結はもう少し自分の言葉に気をつけたほうがいいよ。言葉は呪なんだから」
「じゅ? 呪って、呪文とか呪術とか呪詛とかおまじないとか、呪いのわら人形とかの、あの呪?」
「そうだよ。言霊といわれるように、言葉にはたしかにチカラがあるんだ。それはときに人を励ましもすれば、人を縛ることもある。今日、結はそれを身をもって体験しただろう」

 生駒が言ってるのはわたしと月野さんや霧山くんとのやりとり。
 檄を飛ばし発奮させ目を覚まさせることもあれば、うっかり発したことを言質に取られて主導権を握られることもある。
 ちょっとした会話の流れをコントロールするようなものだけど、それもまた立派な呪なのだとか。

「月野のお嬢さまはまだまだ無意識でやっているみたいだけど、霧山の方はそのへんのことをよく心得ているみたいだね。言葉の使い方がうまい。生来の素質に加えて、売れっ子作家の渡辺和久の近くにいた影響も大きいのかも。あの容姿といい末恐ろしい子だよ、まったく。
 でも、だからこそ今日の結のがんばりは、のちのちに大きな実をむすぶことになるだろうさ」
「……そうだといいんだけど」
「あのまま放置していたら、二人ともえにしがこんがらがって、きっとにっちもさっちもいかなくなっていただろうよ。少なくとも気づきの機会は得られた。アレらは賢い子たちだから、きっと大丈夫。ただ惜しむらくは」
「惜しむらくは、なに?」
「せっかく結がやる気を出してがんばったってのに、完全にタダ働きだということかねえ」
「うっ」

 そうなのである。今回のことはすべてわたしが勝手にしたこと。よって稲荷総会からまわされる三つのお仕事とは一切関係ないので、報酬もなし。
 まぁ、それはべつにかまわないのだが……。

「呪といえば、霧山くんへの説明……どうしよう」

 今日はあえてこちらの思惑に乗ってまんまと化かされてくれたけど、次はない。かといって上手な言い訳も思いつかないし、なにより面と向かった状態で彼を騙し通せるとはとてもとても。
 わたしが鼻下付近にまで湯舟に潜って、ぶくぶく悩んでいると生駒が「だったらアレをくれてやればいいさ」と解決策を提示。
 生駒がいったアレとは、わたしがつけている日記のこと。
 稲荷の眷属である三尾の灰色子ギツネに見込まれて相棒になってからの活動記録。

「このまえテレビでみたドラマみたいに『この物語はフィクションです』とか注意書きを添えてさ。そんでもって信じるも信じないもお好きにどうぞ、でいいんじゃないのかい。
 あっ、そうだ! ついでだから出せずじまいのラブレターもオマケとしてつけちまいなよ。きっといい供養になるだろうさ」

 どうせ口ではうまいこと説明できないし、だったら多恵ちゃんのお墨付きのある筆のチカラを頼るのもアリかも。

「って、どうして生駒があのラブレターのことを知ってるのよ! 日記だってバレないようにこっそり書いてたのに」
「けけけけけ、甘い甘い。お子ちゃまの結とはちがって、あたいの夜はちょいと長いんだよ」
「!」

 この分では他にどんな悪さをされているのかわかったもんじゃない。お風呂をあがったらさっそく調べないと。
 あっ、そういえばお父さんが毎晩ちびちび楽しんでいる高級ウイスキーの瓶を前にして首を傾げていたことがあったけど、まさか……。


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