水色オオカミのルク

月芝

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267 青雲の彼方

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 ズーン、ズーンとかすかな音がする。
 まるで巨人が遠くからゆっくりと近づいて来る足音のような。
 それは崩壊の兆し。
 主人を失った白亜の城が急速に色あせていく。
 城もまた魔女王と同様に刻の魔法の影響下にあったようです。それが消えて、本来の時の流れへとかえっていくのでしょう。
 まばゆいばかりの白さが黄ばみ薄汚れていき、一つの塔が倒壊したのを皮切りにして、そこかしこが瓦解。ついには廃墟然とした姿に。
 水色オオカミのルクは城外の丘の上にポツンとたたずみ、その様子を見つめていました。
 少し離れたところには翡翠(ひすい)のオオカミのラナをのぞく仲間たちの姿が。
 他にも城から逃げ出した大勢の魔法生物たちもおりました。
 彼らはルクとレクトラムの戦いが次第にはげしさをます中、野ウサギのティーの呼びかけで難を逃れたのです。ティーとしては囚われの身のうちにすっかり仲良くなった彼らを、どうしても放っておくことが出来ませんでした。
 だからガァルディアや兄たちにともなわれて城から出る際に、大鏡の協力を得て、みんなで避難するように呼びかけました。おかげで魔法生物たちは大鏡も含めて、全員が助かりました。もちろん城内の庭園で飼われていた生き物たちも。
 なお紫眼のミラはここにはありません。
 彼女だけは早々に自分の宝石コレクションを回収したのちに、転移の間から離脱、行方をくらませたとのことです。
 まんまとしてやられたドラゴンのフレイアやレプラは相当お冠。野ウサギの次兄のタピカも地団駄をふんで悔しがり、そんな面々をラフィールやフィオが「まあまあ」となだめるという一幕も。
 けれどもティーは内心でほっとしていました。なんだかんだでミラってば面倒見がよく、口ではブツブツ憎まれ口をたたきながらも、しっかりかまうという可愛らしい一面も持ち合わせていましたので。城での滞在中、もっとも長い時間をいっしょにすごした間柄にて、ティーの中ではもはや友だちのような親しみがわいていたのです。
 グリフォンのルシエル夫妻やからくり人形のガァルディアは、ルクの心情をおもんばかってか、口数が少なめ。
 勝利と引き換えに水色オオカミの子どもが払った代償があまりにもおおきすぎる。
 かといって安易になぐさめの言葉を口にするのも、ちがう気がして……。
 彼女は己の道を最期の最期まで駆け抜けてまっとうした。
 そこにはいかなる称賛も同情もあわれみも入り込む余地なんてない。それは師弟の間柄も同じこと。
 以前のルクであれば、あるいはとり乱すことがあったやもしれません。ですが彼は御使いの勇者の旅を通じて成長しました。ついには白銀の魔女王を倒すまでに。
 だからきっとだいじょうぶ。
 ルシエルたちは信じて、ただ静かに見守ることにしたのです。

 いまや瓦礫の山と化したレクトラムの居城跡。
 茜色の瞳にてこれをしばし見つめていたルク。声にならない声にて、ラナへの別れを告げると、みんなの方へと歩いていきました。



 ドラゴンの背にゆられて浮島を飛び立つ水色オオカミ一行。
 それに手をふるのは白いウサギや白いカエルや白いサルたち。彼らに担がれた大鏡の姿もありました。
 魔法生物たちはこのまま浮島に残って、やり直すそうです。
 さいわいなことにここには湖もあり森もあり、結界こそは失われましたが浮島はあいもかわらず気まぐれにぷかぷかと空をさまよっているので、まぁ、外敵の心配はないでしょう。
「目指せ、一日角砂糖三個生活!」をスローガンに掲げてがんばるとのこと。
 若干、志が低い気がしなくもありませんが、これまではずっと一日一個の角砂糖にてこき使われていた薄給であったことを考えれば、妥当な線なのかもしれません。

 行きとはちがい帰りはのんびり、悠然と飛ぶドラゴンの背にゆられての空の旅。
 次第に遠ざかって、小さくなっていく浮島を眺めて、「あっ!」と小さな声をあげたのは野ウサギの女の子のティー。

「どうしたの、なにか忘れ物でも」

 隣にいたルクがたずねると、彼女は「ううん、ちがうの」と首をふる。

「ずっとあそこって何かに似ているとおもってたんだけど……、それがようやくわかったの」
「似ているって、何に?」
「あそこってまるでオモチャ箱なんだよ。キレイなお城があって、ステキなお姫さまがいて、魔法生物たちはまるでお人形みたいで、山も森も湖もキラキラで、たのしそうなモノがいっぱい。だけど」

 だけど、とってもさみしいところ。
 ティーはレクトラムの浮島をそう言いあらわしました。
 どれだけおもしろそうなオモチャが揃っていたところで、一人きりで遊んでいてもちっとも楽しくありませんから。

「魔女王はいっしょに遊んでくれる友だちが欲しかったのかなぁ」

 ティーのつぶやきがやさしい風と混じりあう。
 じかにレクトラムのココロと接したルクは、ひょっとしたらそうなのかもしれないとおもいつつ、その風の行方を静かに見守る。
 風はゆるりと流れ、じきに青雲の彼方へと消え去ってしまいました。
 そうしてすべては過ぎ去り、またあらたな風が吹く。


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