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264 光の破刃
しおりを挟む放たれては砕かれ、光の粒子となっていく氷の棒たち。
ですが完全に消えてしまったわけではありません。
水はどこにでもあり、いくら姿や形が変わろうとも、無くなったりはしない。
これまでのやり取りにて、玉座の間には存分に水の気配が満ちた。
それらを用いてルクが放つ次なる一手。
レクトラムの注意が、ほんのいっしゅんだけ細氷の演舞にそれたタイミングにて出現したのは氷の壁。
魔女王の四方に同時にそそり立ち、すかさず天板も閉じられて、その身を完全に封じ込める。そして内部では急速に高まった冷気が渦をまき、猛威をふるう。生きとし生ける者すべてを氷つかせ、その刻を止めるために。
相手を閉じ込める氷の棺。
しかもただの氷ではなくて、ルク特製の魔力を散らすふしぎな効果があるモノ。
さしもの白銀の魔女王とて魔法が使えなければ、どうしようもあるまいと彼は考えていたのです。
ですが……。
「光よ、我が身に集いて破刃となれ」
凛とした魔女王の声とともに、氷の棺の表面に走った光の線。
頭上から足下へと向かい、斜めに無造作にふり抜かれたかのような軌道。
いっしゅんのきらめき。
夜空にまたたく星たち、昇る太陽、沈みゆく夕陽、宝石の放つ魅惑のかがやき……、光はヒトのココロを惹きつけてやまない。
だけれどもコレはちがう! ひと目見るなり、ゾクリと戦慄が全身を突き抜けました。
水色オオカミが転がるようにして、とっさによけたのは理屈抜きの恐怖から。
そしてそれは正しい行動でした。
なぜならレクトラムが放った光の斬撃は、氷の棺を内部から真っ二つに切り裂いただけではあきたらず、玉座の間どころか、城そのものまでをも両断してしまっていたのですから。
あのままぼんやりとしていたら、自分も同じ運命をたどっていたことでしょう。
視界が斜めにゆっくりとズレていく。
部屋の中に居ながらにして、自分の居るところから上の建物の部分だけがずり落ちていく。
姿をあらわした青い空。落ちていく建物の半身。城全体をゆるがすほどの衝撃と振動。鳴りひびくに破砕音。もうもうと舞い上がる粉塵。
まるで現実味のない奇妙な状況下に置かれて、頭が混乱しルクはわるい夢でも見ているような気分でした。ですがこれはまぎれもない現実。そして目のまえに立つのは、こんなことを平然とやってのけてしまうような相手。
光の物理攻撃と闇の精神攻撃を合わせ持つ魔女。
絶対防御なんてなくても、充分すぎるほどに強い。
まるで隙のない強敵をまえにして、内心ではあせりを禁じ得ないルク。
だがその茜色の瞳には、まだまだ闘志が宿ったまま。なんとか弱点はないものかと知恵を絞り、目を凝らし、相手を観察する。
おかげで気がつけました。
ほんのわずかながらも、レクトラムの身におきているいくつかの変化に。
それはとてもとても小さなモノ。
普通であれば異変でもなんでもありません。ですがそれが白銀の魔女王とあらば話がかわってきます。
ルクの瞳がとらえたのは、レクトラムの額に浮かんだ汗。これまでずっと涼しい顔をして表情をほとんど崩すこともなかったというのに。
それに気のせいか呼吸が浅く速くなっているような……。
……ひょっとして疲れてる?
そんな疑惑をルクは抱きました。
強い魔法を行使すれば、それだけ魔力が消費される。さっきの光の破刃とかとんでもない破壊力でした。ふれた対象を滅する光の手もそうですが、あんなモノをポンポンと使いつづけていれば、そりゃあ消耗もするかと、ルクはひとりごちる。
それもそのはずです。
ルクは知りませんでしたがラナの手によって、地下の古時計がこわされたことにより、レクトラムの刻は動き始めていたのです。
固定化されて、いくらつかっても減ることのなかった魔力も、湯水のごとく使えばドンドンと目減りしていきます。カラダだって疲労していくばかり。
ひさしく忘れていた感覚に、じきに彼女は苦しめられることになります。
ですがそれを表に出すことは、彼女の誇りが許さない。
いつだって悠然とかまえ、だれよりも気高くうつくしくあれ。
それが白銀の魔女王レクトラムなのですから。
そして彼女が自分らしくあろうとすればするほどに、自身を追い詰めていくことになり、戦いの勝敗を左右することになろうとは、この時はまだレクトラムもルクも夢にもおもいませんでした。
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