水色オオカミのルク

月芝

文字の大きさ
上 下
264 / 286

264 光の破刃

しおりを挟む
 
 放たれては砕かれ、光の粒子となっていく氷の棒たち。
 ですが完全に消えてしまったわけではありません。
 水はどこにでもあり、いくら姿や形が変わろうとも、無くなったりはしない。
 これまでのやり取りにて、玉座の間には存分に水の気配が満ちた。
 それらを用いてルクが放つ次なる一手。
 レクトラムの注意が、ほんのいっしゅんだけ細氷の演舞にそれたタイミングにて出現したのは氷の壁。
 魔女王の四方に同時にそそり立ち、すかさず天板も閉じられて、その身を完全に封じ込める。そして内部では急速に高まった冷気が渦をまき、猛威をふるう。生きとし生ける者すべてを氷つかせ、その刻を止めるために。
 相手を閉じ込める氷の棺。
 しかもただの氷ではなくて、ルク特製の魔力を散らすふしぎな効果があるモノ。
 さしもの白銀の魔女王とて魔法が使えなければ、どうしようもあるまいと彼は考えていたのです。
 ですが……。

「光よ、我が身に集いて破刃となれ」

 凛とした魔女王の声とともに、氷の棺の表面に走った光の線。
 頭上から足下へと向かい、斜めに無造作にふり抜かれたかのような軌道。
 いっしゅんのきらめき。
 夜空にまたたく星たち、昇る太陽、沈みゆく夕陽、宝石の放つ魅惑のかがやき……、光はヒトのココロを惹きつけてやまない。
 だけれどもコレはちがう! ひと目見るなり、ゾクリと戦慄が全身を突き抜けました。
 水色オオカミが転がるようにして、とっさによけたのは理屈抜きの恐怖から。
 そしてそれは正しい行動でした。
 なぜならレクトラムが放った光の斬撃は、氷の棺を内部から真っ二つに切り裂いただけではあきたらず、玉座の間どころか、城そのものまでをも両断してしまっていたのですから。
 あのままぼんやりとしていたら、自分も同じ運命をたどっていたことでしょう。
 視界が斜めにゆっくりとズレていく。
 部屋の中に居ながらにして、自分の居るところから上の建物の部分だけがずり落ちていく。
 姿をあらわした青い空。落ちていく建物の半身。城全体をゆるがすほどの衝撃と振動。鳴りひびくに破砕音。もうもうと舞い上がる粉塵。
 まるで現実味のない奇妙な状況下に置かれて、頭が混乱しルクはわるい夢でも見ているような気分でした。ですがこれはまぎれもない現実。そして目のまえに立つのは、こんなことを平然とやってのけてしまうような相手。
 光の物理攻撃と闇の精神攻撃を合わせ持つ魔女。
 絶対防御なんてなくても、充分すぎるほどに強い。
 まるで隙のない強敵をまえにして、内心ではあせりを禁じ得ないルク。
 だがその茜色の瞳には、まだまだ闘志が宿ったまま。なんとか弱点はないものかと知恵を絞り、目を凝らし、相手を観察する。
 おかげで気がつけました。
 ほんのわずかながらも、レクトラムの身におきているいくつかの変化に。
 それはとてもとても小さなモノ。
 普通であれば異変でもなんでもありません。ですがそれが白銀の魔女王とあらば話がかわってきます。
 ルクの瞳がとらえたのは、レクトラムの額に浮かんだ汗。これまでずっと涼しい顔をして表情をほとんど崩すこともなかったというのに。
 それに気のせいか呼吸が浅く速くなっているような……。

 ……ひょっとして疲れてる?

 そんな疑惑をルクは抱きました。
 強い魔法を行使すれば、それだけ魔力が消費される。さっきの光の破刃とかとんでもない破壊力でした。ふれた対象を滅する光の手もそうですが、あんなモノをポンポンと使いつづけていれば、そりゃあ消耗もするかと、ルクはひとりごちる。
 それもそのはずです。
 ルクは知りませんでしたがラナの手によって、地下の古時計がこわされたことにより、レクトラムの刻は動き始めていたのです。
 固定化されて、いくらつかっても減ることのなかった魔力も、湯水のごとく使えばドンドンと目減りしていきます。カラダだって疲労していくばかり。
 ひさしく忘れていた感覚に、じきに彼女は苦しめられることになります。
 ですがそれを表に出すことは、彼女の誇りが許さない。
 いつだって悠然とかまえ、だれよりも気高くうつくしくあれ。
 それが白銀の魔女王レクトラムなのですから。
 そして彼女が自分らしくあろうとすればするほどに、自身を追い詰めていくことになり、戦いの勝敗を左右することになろうとは、この時はまだレクトラムもルクも夢にもおもいませんでした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

処理中です...