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150 罰
しおりを挟むフランクさんはヘリオを許すという選択をとりました。
なぜなら、もしも過去の罪を暴き立てて糾弾したところで、待っているのは望まぬ未来なのですから。
サイズ村は辺境であるがゆえに、罪人に対する処罰は自分たちの裁量権にゆだねられています。
ちょっとした盗み程度ならばともかく、人を殺めて金品をうばい、あまつさえその悪評をバラまいて、まんまと婚約者まで手に入れたなんてことが発覚したら、どんな目にあうかわかったものではありません。しかも結果として当人だけでなく、村中を巻き込んで彼の両親をも死へと追いやっている。
両親の件に関しては村のみんなにも罪がありますが、だからこそよけいに危険なのです。素直に自分たちの罪を認めることなく、きっと自分たちもだまされていたと言って被害者面をし、すべての責任をヘリオ一人になすりつけることでしょう。
ですがそれだけでは終わりません。
罪人に対する責めは、残された加害者家族にもおよびます。
きっとフランクさんの両親が受けた苦しみなんて、比べものにならないくらいのヒドイ目にあうことでしょう。
それはつまりジルさんや、その子どもたちが苦しむことを意味しています。
そう、フランクさんが案じていたのは、ジルさんや二人の幼子たちのことなのです。
ヘリオなんてどうでもいい。でもそれだけは絶対にさけなければいけない。
また、もしもジルさんが本当のことを知ってしまったら、どうなることでしょうか? 信じていたモノすべてが、まやかしの上に築かれていたと気づいたとき、平然としていられるほど人の心は強くありません。彼女の心がこわれてしまうかもしれない。
愛した女性のそんな姿なんて、断じて見たくない。
だからこその、許すという選択。
でも、やったことに対する罰はちょっぴりヘリオに与えるつもり。
それがオマケです。
その相談をしている最中、ルクが心配したのは村人たちのこと。
「でもだいじょうぶかな? 行商人さんがフランクさんの都での活躍について、酒場でけっこう吹聴してたって、ネズミさんたちが言っていたよ」
「あー、そいつはたぶん心配いらないとおもう。なにせ人間ってのはね、受け入れがたい事実をありのままに受け入れられるほど、心に余裕がないからね」
「?」
「話を聞いた連中はね、きっとこう考えるだろうさ。『フランクのやつ、成功に浮かれて道を踏み外したんだな』ってね」
女に転んで音楽への道も故郷も婚約者も、何もかも放り出した半端者。
いまさらすべてウソで、ほんとうは一流の楽士になっていたとはとても認められない。だってそれを認めることは、自分たちの愚かさを認めることになるのだもの。そんなのはとてもたえられない。だから自分たちでかってに、物事の順序を都合よく入れ替えてしまうとフランクさんは言いました。
それが成功ゆえの失敗という物語。
村人らの頭の中では、才能を鼻にかけたナマイキな若者が、都会でちょっと成功したぐらいでかんちがいをしたあげくに、身をもちくずして破滅したという絵物語が描かれているそうです。
「まっ、世の中、そんなもんだよ」とはフランクさん。これにはどうにも承服しかねる水色オオカミの子どもなのでした。
オマケが実行されたのは、数日後の夜更けのこと。
あの日以来、昼間以外はずっとおびえて、家にひきこもっていたヘリオ。ちっとも飲みに出かけません。いつもと様子がちがうので、家族がどうしたのかと心配しても、もちろん答えようがありません。なんのかんのと適当ないい訳を口にするばかり。
ですが村の男衆総出の会合があって、どうしても夜に出かけなければならないのが、その日でした。
だからしぶしぶ出かけた帰り道。
一人になりたくなかった彼は、「この頃、目の具合がよくなくて、夜はあまり見えないんだ」とか言って、近所の人に自分の家にまでついてきてもらうようにしました。
なのに気がつけば、すぐ隣にいたはずの連れの姿はどこにもなく、手にしていたランプの火が、ふっと消えて真っ暗闇に。
こわくなっておもわず駆け出しそうになったところ、足が一歩も動きません。それどころか急に両腕までもが重くなって、あまりの重さについには立っていられなくなり、地面に四つん這いの格好にて、ぬいとめられたかのようになってしまいました。
首も固まってしまったのか、まるで動きません。
そんな彼の耳には、背後からヒタヒタと近づいて来る、何者かの足音が聞こえていました。
人の足音とはまるでちがう。そしてその何者かが近寄るほどに、満ちていく冷気。まるでここだけ急に真冬になったかのよう。
吐く息は白くなり、カチカチと歯が鳴るのをとめられないヘリオ。
なにがなんだかわからずに、ただただおそれるばかり。
気がついたら、いつしか足音がしなくなっており、何者かの気配も消えています。
カラダはあいかわらず動きませんけれども、ヘリオをちょっとだけホッとしました。
が、そのときです。
彼の耳元でささやかれたのは、こんな言葉。
『山をけがした大罪人ヘリオよ。山の神はたいそうお怒りだ。だが高潔なる魂を持つフランクの願いにより、命ばかりはかんべんしてやろう。そのかわりにおまえは今夜のことも、友にした悪行の一切をも、死ぬまでだれにも話してはならぬ。一生、心に重荷を抱えたまま、妻にも子にも悟られることなく過ごすのだ。もしも罪の意識にたえかねて欠片でももらしたら、そのときは……』
ゴトリと音がして、なんとか目だけを動かして、そちらを見たヘリオは声にならない悲鳴をあげました。
そこにはまるで自分を模したような氷の像が転がっていたから。ただし首と胴がはなればなれの姿にて。
それが意味するところは一目瞭然。
恐怖のあまり神経が耐えきれなくなったヘリオは、ついにそこで気を失いました。
オマケを終えたルクがチカラをとくと、ヘリオの手足や首を拘束していた冷たくないふしぎな氷や、地面に転がる氷の像もしゅるりと姿を消しました。
あとは後頭部にコツンと一撃を受けて、昏倒していた連れの男性の顔にバシャッと冷たい水をかけ、退散するばかり。
なおこれらの筋書きはすべてフランクさんが考えました。
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