水色オオカミのルク

月芝

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70 カラスの配達人

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 皿の上にのった干し魚を、ウマそうについばんでいたのは、黒カラスのセンバ。
 その首からは小さな袋がヒモでぶら下げられてあります。
 これは西の森の魔女が造った魔法の小袋。小さな見た目ですが荷車一杯ほども荷物が入る優れもの。
 以前に野ウサギの兄弟たちと、魔女エライザのところを訪ねた際に貸し出された品です。ルクから返しておいてと頼まれたので、返そうとしたのですが、「いいから、おまえが持っていな」と言われて、ズルズルとそのままに。
 おかげでていよくこき使われているセンバ。
 いまでは森の配達人です。
 今日は野ウサギの末妹のティーから託された手紙を届けに、西の森の魔女宅にやってきました。
 クスリのお礼としてティーが手紙をしたためてから、彼女とエライザは手紙のやりとりをするようになり、文通友だちになりました。
 その関係でセンバも西の森へと飛んでくる機会がグンとふえました。

「いま返事を書いてしまうから、コレでも食べてちょいと待ってな」と言われてふるまわれた干し魚。

 魚は干すと塩味が濃くなりパサパサになるので、あまりスキではないセンバ。ですがエライザさんのところのは、ウマ味があって香りもよく、肉もやわらかい。あまり塩辛くないので、センバも大満足です。

 しばらくして封書を手に戻ってきたエライザ。

「手紙ではだいじょうぶと書いてるけど、あの子の体のほうはどうだい?」
「ティーですかい。元気も元気。毎日、ガァルの旦那と走り回ってるよ」

 森の便利屋として日々、奔走している小さな野ウサギの女の子と、少女のからくり人形の姿を思い浮かべて、そう答えたセンバ。

「バロニア王国のカラクリ人形か……。まさかアイツが造ったモノで、まだまともに動くヤツが残っていたとはねえ」

 しみじみといった感じで、もらしたエライザの言葉にセンバは「ひょっとしてお知り合いで?」

「あぁ、同門だよ。かつては同じ師に学んで机を並べた仲さ。もっともあっちは後継者に選ばれてからは、たいへんだったみたいだがね」
「へー、エライザさんほどのお人の師匠から後継者に選ばれたってことは、さぞや優秀な方だったんでしょうねえ」

 センバの言葉を聞くなり、くつくつ肩をふるわして笑いだした黒髪の老婆。
 老いてなお英知をたたえる瞳に涙を浮かべるほど。
 何がそんなにおかしかったのかと、小首をかしげる黒カラス。

「わるい、わるい。クラフトのヤツが優秀だって? とんでもない! 史上最低のポンコツ魔法使いだったよ」
「へっ?」
「なにせアイツは、ただの人間だったからね。魔法使いじゃないから魔力はないんで、魔法のまの字も使えやしない。でもね、頭はよかったよ。あと発想もおもしろかったな」

 過ぎ去りし日々を懐かしむかのように語るエライザ。
 てんで魔法が使えないくせに、最強の魔法使いの弟子になってしまった男の苦労話を聞いて、とっても気の毒がったセンバなのでした。

 ティーへの手紙や細々とした荷物を預かった黒カラス。
 それらを魔法の小袋に収めて、いよいよ飛び立とうというときに、思い出したのは水色オオカミのルクのこと。

「そうそう、言い忘れてやした。ルクは星の都から北の方へと向かったみたいですよ」

 星の都と聞いて、エライザはほんのいっしゅんだけ表情をくもらせましたが、センバはそれには気づきません。
 なおセンバがどうして、水色オオカミの行方を知っていたのかというと、それは渡り鳥の連中からの、また聞きです。トリたちの飛ぶ距離はとても広く、それだけ彼らの情報網も広大なのです。
 なにせルクは冬の晴れたときの澄んだ青空のような毛の色をしていますので、空の上から見ていると、わりと目立ちます。自然とトリたちのウワサにもなろうもの。
 おかげで遠く離れていても友だちの動向がわかるというわけです。

「そうかい。あの子は元気でやっているようだね」
「ええ、きっと毎日、風のように駆けていることでしょうよ。それじゃあ、あっしはこれで」

 そう言って飛び立つカラスを見送る魔女エライザ。
 遠ざかる背中をぼんやりと眺めつつ、ふと口から出た独り言は、「そういえばルクやセンバらと知り合ってからこっち、なんとなく空を見上げる機会がふえたかねぇ」

 空はからりと晴れており、今日はいい陽気。
 家の中にこもっているのはもったいないと思ったエライザは、そのまま畑の方へと向かいました。


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