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其の百十四 三身一体
しおりを挟む風雲雷鬼、その名の通りだとすれば天候を自在に操る鬼。
そんな眷属を従える伝説の大妖。今更ながらにその凄まじい力の片鱗を目の当たりにして、藤士郎はおもわず「むむむ」と唸らずにはいられない。でもだからこそ、こうも考えた。
「えー、これなら銅鑼がとっととやっつけてくれたらいいのに」
すると銅鑼は「ふんっ」と鼻を鳴らし「甘えんな。ほら、露払いはしてやったんだから、とっととけりをつけやがれ」とつっけんどん。
銅鑼の中での線引きがいまいちよくわからない。たぶん最初っから他力本願なのは駄目ということなのであろうが、藤士郎は「うーん」
しかしいまはそんなことを考えている時じゃない。せっかくのお膳立て、この好機を逃してなるものか。
そういうわけで藤士郎は、いよいよ俵藤太の弓・影打をかまえる。
だが狐侍は左腕を痛めている。これではとても矢は射られない。そんな窮地を覆すために藤士郎が考えた方法は足を使うこと。こちらもかなりぼろぼろではあるが、少しの間踏ん張るぐらいならばなんとか。
弓を横に寝かせて両足をぴんとのばして支えとし、無事な右腕にて弦を引き絞る。
長身痩躯を用いて、己を弩に見立てるという荒業。
けれども藤士郎は目もやられている。近くならばともかく離れた大百足の、それも弱点である左目を狙うのは、ほぼほぼ不可能。
そこで狐侍の目の代わりとなるのが心助の役割り。猫又は夜目が効く。ことの成否を握る重要な役どころにて、心助はやや緊張の面持ちではあるが、勇気を奮い立たせて挑む。
あとは銅鑼がそんな藤士郎たちの足代わりの輿となって動き、矢を射るための最適な場所を探る。
◇
招来された風雲雷鬼が起こす突風によって、毒の霧は払われ、地面に縫い留められるような格好にされた大百足。
上空の高見より戦場を俯瞰する銅鑼。太陽を彷彿とさせる燃える金の双眸が、ぎらりと光ったかとおもえば、すぐさま移動を開始する。
銅鑼が見極めていたのは風の流れ。いくつも発生しては離合を繰り返し、ぶつかり、渦となり、複雑な流れを形成している。そんな中にあって、大百足へと通じるひと筋の道となる箇所を探していたのだ。
その箇所をまんまと見つけた銅鑼。
「ここだ! おまえたちすぐに準備をしろ。合図を送る。いちにのさんっで放て!」
言われて弦をぎりぎり、めいっぱいに引く藤士郎。とたんに大きくしなった俵藤太の弓・影打。そこにすぐさま矢をつがえ、狙いを絞る心助。手早く射出角度の調整を終えたところで、銅鑼が数をかぞえ始める。
三の合図で「えいやっ」と弦を手放した藤士郎。
びぃんと弓が鳴き、勢いよく放たれた矢。荒れ狂う風を物ともせずに突き進む。だがそれでも周囲からあおられて、やや威力が落ちるかとおもわれたとき、それは起きた。
真冬の雪原を照らす月光にも似た淡い蒼光。
優しい光を帯びた矢。
まるでみずから意志を持ち、ずれを修正しているかのような身じろぎする。勢いも削れるどころか、逆に邪魔であるはずの風たちを味方につけてぐんと加速し、ついには大百足の左目へとずぶり突き立つ。
窮奇、狐侍、猫又、三身一体の攻撃が決まった!
喰らった大百足は絶叫、痛みのあまり長大な身をくねらせ地面をのたうちまわる。
効いている。弓は贋物だが矢は水神さまの加護がついた本物という話は、どうやら本当であったようだ。
だが敵はいまなお健在。
そこで藤士郎たちはすぐさま第二射を放つ。
しかし今度は矢が光らなかった。それでもどうにか的に当てることには成功する。
弱点である左目に二本の矢を立てられた大百足は、なおもしばらくじたばた暴れていたが、じきにその動きが鈍くなっていき、やがて口からぶくぶく泡を噴き、仰向けとなって腹を見せてひくひくり。
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