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第四章 叶わない願いはないと信じてる
第102話 ヒロインを解き放て【後編】
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「私はどうなってもいい、サイファを人質に取るのはやめて、お願いよ!」
僕はキリっと唇を噛んだ。
僕は、デゼルを守るために闇主になったのに。
どうして僕は、デゼルが殺されておかしくない時に、何もできないんだろう。
「へぇ、本当にどうなってもいいの? たとえば、ここにいる闇主たちの魅了を解かれて、いつかのようにマワされても?」
「京奈!? そんな、何のために!」
「あなたの言葉が嘘か本当か確かめるためによ。動かないで、デゼル。動いたらサイファの目をえぐって、腕を切り落とすわよ」
「京奈、やめて!」
左手を腰に当てたケイナ様が、右手を胸に当てて微笑んで見せた。
この仕種、覚えてる。エリス様だ。
ケイナ様は命を懸けて愛した人をユリシーズに奪われた絶望のあまり、エリス様をその身に降ろしてしまったのかな。
「デゼル、私、あなたが生きていてくれて嬉しいの。まずは、『月齢の首飾り』と『ネプチューンの緑石』を渡してもらおうかしら」
「――『月齢の首飾り』は渡せるよ。でも、『ネプチューンの緑石』はまだ、渡せない。まだ、魔物にされたままの人達がたくさんいるの。緑石がないと助けてあげられないの」
目をつり上げたケイナ様が、デゼルに光魔法を放った。
「きゃあっ」
僕をつかまえた光の使徒は、ケイナ様のこの言いようにも、このなさりようにも、まるで、動じないんだ。
ケイナ様、僕にかけたのと同じ、災禍【Lv9】の魔法で光の十二使徒を支配しているのかもしれない。
なんて、悲しい――
以前の光の使徒は、それぞれ、彩は違えど美しいオーラをまとっていたのに。
光の聖女であるケイナ様を助けてくれるはずだった光の十二使徒を、ケイナ様は自ら、邪神エリス様に献上してしまったんだ。
デゼルはすごく頑張ったんだね。
その魂を悪魔に売り渡すよう、エリス様はデゼルにも苛烈な災禍の洗礼を浴びせかけたけど、デゼルは最後まで、エリス様をその身に降ろすことを拒んだんだ。
「這いつくばって私に命乞いをしなさいよ! この期に及んで、その上から目線、何様のつもり!?」
デゼルは言われるまま、地面に両手をついて、這いつくばってケイナ様に命乞いをした。
「お願い、京奈。サイファを見逃して。月齢の首飾りは渡します。ネプチューンの緑石も、魔物に変えられたみんなを元に戻せたら、シナリオ通りに必ず渡すから。どうか、信じて」
「そうじゃあ、ナイッ!!!」
「きゃあッ!」
ケイナ様は、なぜ怒るんだろう。
僕には、わからなかった。
怒り狂ったケイナ様が放った、さっきよりも強力な光魔法がデゼルを撃った。
デゼルは悲鳴をあげただけ、零れた涙を袖で拭っただけで、耐えて――
痛い思い、怖い思い、つらい思いをしてるデゼルのために、僕にできることって何だろう。
ガゼル様になら、わかったのかな。
「あなた、よくも私を馬鹿にしてッ! 何なのよ、その言い方!? それじゃあ、まるで、私が悪役みたいじゃないの。あなたが悪役令嬢なのに! 私こそは聖女様なのに! あなたの目には、絶望と無力感と卑屈さがァ~ッ! 足りィ~ッ! ナイッ!!」
……。
たとえ聖女であっても、神様を降ろすのは危険だって、マリベル様が仰っていたのは、こういうこと?
人の魂に、神の魂を受け容れるほどの器はないから、どうかすると、魂が壊れてしまうんだね。
ケイナ様は、きっと、もう、ケイナ様でもエリス様でもないんだ。
まるで、光の聖女の残骸のよう――
「あなたは私を馬鹿にしてる。あなたは私を蔑んでる。なんで、ここで『魔物に変えられたみんな』とやらが出てくるワケ? 余裕しゃくしゃくじゃないのよ! 穢され尽くした汚物だという自覚が、足りィ~ッ! ナイッ!!」
ガゼル様なら――
デゼルの足手まといになるまいとして、自決? しそうな気がする。
ガゼル様は本当に立派な方だけど、デゼルの足手まといになる自分を許せないんじゃないかな。そういうところは、デゼルとよく似てるんだ。
デゼルもきっと、つかまったのがデゼルだったら、僕の足手まといになるまいとして、自決してしまうと思うんだ。
だって、デゼルはそのために、僕に月齢の首飾りをかけさせたがるんだから。
でも、僕がそうするわけにはいかない。
デゼルとエトランジュが絶対に泣くよ。
僕は、二人を残して死ぬわけにはいかないんだ。
僕はキリっと唇を噛んだ。
僕は、デゼルを守るために闇主になったのに。
どうして僕は、デゼルが殺されておかしくない時に、何もできないんだろう。
「へぇ、本当にどうなってもいいの? たとえば、ここにいる闇主たちの魅了を解かれて、いつかのようにマワされても?」
「京奈!? そんな、何のために!」
「あなたの言葉が嘘か本当か確かめるためによ。動かないで、デゼル。動いたらサイファの目をえぐって、腕を切り落とすわよ」
「京奈、やめて!」
左手を腰に当てたケイナ様が、右手を胸に当てて微笑んで見せた。
この仕種、覚えてる。エリス様だ。
ケイナ様は命を懸けて愛した人をユリシーズに奪われた絶望のあまり、エリス様をその身に降ろしてしまったのかな。
「デゼル、私、あなたが生きていてくれて嬉しいの。まずは、『月齢の首飾り』と『ネプチューンの緑石』を渡してもらおうかしら」
「――『月齢の首飾り』は渡せるよ。でも、『ネプチューンの緑石』はまだ、渡せない。まだ、魔物にされたままの人達がたくさんいるの。緑石がないと助けてあげられないの」
目をつり上げたケイナ様が、デゼルに光魔法を放った。
「きゃあっ」
僕をつかまえた光の使徒は、ケイナ様のこの言いようにも、このなさりようにも、まるで、動じないんだ。
ケイナ様、僕にかけたのと同じ、災禍【Lv9】の魔法で光の十二使徒を支配しているのかもしれない。
なんて、悲しい――
以前の光の使徒は、それぞれ、彩は違えど美しいオーラをまとっていたのに。
光の聖女であるケイナ様を助けてくれるはずだった光の十二使徒を、ケイナ様は自ら、邪神エリス様に献上してしまったんだ。
デゼルはすごく頑張ったんだね。
その魂を悪魔に売り渡すよう、エリス様はデゼルにも苛烈な災禍の洗礼を浴びせかけたけど、デゼルは最後まで、エリス様をその身に降ろすことを拒んだんだ。
「這いつくばって私に命乞いをしなさいよ! この期に及んで、その上から目線、何様のつもり!?」
デゼルは言われるまま、地面に両手をついて、這いつくばってケイナ様に命乞いをした。
「お願い、京奈。サイファを見逃して。月齢の首飾りは渡します。ネプチューンの緑石も、魔物に変えられたみんなを元に戻せたら、シナリオ通りに必ず渡すから。どうか、信じて」
「そうじゃあ、ナイッ!!!」
「きゃあッ!」
ケイナ様は、なぜ怒るんだろう。
僕には、わからなかった。
怒り狂ったケイナ様が放った、さっきよりも強力な光魔法がデゼルを撃った。
デゼルは悲鳴をあげただけ、零れた涙を袖で拭っただけで、耐えて――
痛い思い、怖い思い、つらい思いをしてるデゼルのために、僕にできることって何だろう。
ガゼル様になら、わかったのかな。
「あなた、よくも私を馬鹿にしてッ! 何なのよ、その言い方!? それじゃあ、まるで、私が悪役みたいじゃないの。あなたが悪役令嬢なのに! 私こそは聖女様なのに! あなたの目には、絶望と無力感と卑屈さがァ~ッ! 足りィ~ッ! ナイッ!!」
……。
たとえ聖女であっても、神様を降ろすのは危険だって、マリベル様が仰っていたのは、こういうこと?
人の魂に、神の魂を受け容れるほどの器はないから、どうかすると、魂が壊れてしまうんだね。
ケイナ様は、きっと、もう、ケイナ様でもエリス様でもないんだ。
まるで、光の聖女の残骸のよう――
「あなたは私を馬鹿にしてる。あなたは私を蔑んでる。なんで、ここで『魔物に変えられたみんな』とやらが出てくるワケ? 余裕しゃくしゃくじゃないのよ! 穢され尽くした汚物だという自覚が、足りィ~ッ! ナイッ!!」
ガゼル様なら――
デゼルの足手まといになるまいとして、自決? しそうな気がする。
ガゼル様は本当に立派な方だけど、デゼルの足手まといになる自分を許せないんじゃないかな。そういうところは、デゼルとよく似てるんだ。
デゼルもきっと、つかまったのがデゼルだったら、僕の足手まといになるまいとして、自決してしまうと思うんだ。
だって、デゼルはそのために、僕に月齢の首飾りをかけさせたがるんだから。
でも、僕がそうするわけにはいかない。
デゼルとエトランジュが絶対に泣くよ。
僕は、二人を残して死ぬわけにはいかないんだ。
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