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第四章 叶わない願いはないと信じてる

第102話 ヒロインを解き放て【前編】

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 以前と違って、僕はデゼルが新しく覚えた上位魔法『聖なる衣』で守られているから、ケイナ様に操られてしまうことはないはずなんだけど。
 光の聖女も光の使徒も、そろって禍々しいオーラを放っているのを見て取って、僕は背筋が凍る思いがした。
 話し合う余地なんて、どこにもなかった。
 もう、光の聖女と十二使徒は、丸ごとエリス様の支配下なんだ。
 デゼルもすぐにそれと察したみたいで、急いで、空間跳躍クロノスの魔法で逃げようとしたんだけど、クロノスの魔法は発動しなかった。
 デゼルがクロノスを宣言した直後、硝子が砕けるような音がしただけで、たぶん、デゼルは魔法を封印されてしまったんだ。
 七年前、エリス様にすべての魔法を封印されたから、何をされても、闇主たちから逃げられなかったように。

誘惑テンプテーション――私達を追わせないで!」

 僕達を取り囲む光の使徒に、デゼルがまとめて誘惑の魔法をかけて、僕の手を引くようにして、囲みを突破しようと走った。
 誘惑の魔法はデゼルの魔法じゃなく、緑石の首飾りの魔法だから使えるみたいだ。

「イレイズ!」

 ケイナ様が聖杖を一振りすると、誘惑の魔法はまとめて解除されてしまって、近くにいた鮮やかな朱色の髪の少年が、僕に斬りつけてきた。
 ぞっとするほど身が軽くて、攻撃が速い。

「闇よ、我らを守れ!」

 僕の技術で凌げる剣さばきじゃないから、闇魔法でなんとか切り抜けようとしたけど、光の使徒が多すぎる。
 フィールドを闇に閉ざそうとした僕の魔法は、すぐ、見事な長いブロンドの、背の高い光の使徒に斬り祓われてしまった。
 一対一でも敵う気がしないのに、十二人もいる光の使徒から次々と、剣閃や魔法が飛んでくるんだ。
 いやだ。
 デゼルが僕を庇うんだ。
 光の聖女と十二使徒が相手じゃ、運命そのまま、デゼルが殺されてしまうよ。

 デゼル、彼らの攻撃を受けないで!!

 どうしたらって、考える時間さえなかった。
 僕はあえなく、いつかのようにとらわれてしまって。
 デゼルを殺されたくない。
 僕の目の前でデゼルを惨殺される、運命そのままの結末なんて見たくない!!

「デゼル、後ろ暗いことがあるから逃げるのかしら? 話も聞いてくれないなんて、つれないじゃない?」
「……京奈、どうして災禍エリスを封印しないの!? そのままじゃ、みんなに災禍が降りかかってしまうのに!」

 ケイナ様があきれた顔でデゼルを見た。

「あなた、まさか封印したの!?」
「もちろんよ!」
「私は聖女よ、ネル様も光の使徒様も、必ず、私がお守りしてみせる」
「え……」

 違う。災禍がふりかかる『みんな』は、ケイナ様が出会うすべての人々なんだ。
 死んでしまったあの子だって。
 あの子は聖サファイアの子供だったのに。
 聖サファイアの聖女様が、聖サファイアの子供を守らずに、敵国の皇帝と光の使徒だけを守って何になるの。

「降り注ぐ災禍から、京奈が守るから問題ないというの!? 無茶よ、みんなを四六時中なんて守れないよ!」
災禍エリス【Lv7】があるじゃない。そんなことより、あなたとサイファの心配をしたらどうなの? どうしてあげようかなァ」
「……京奈?」

 ぞくっと、僕の背筋を悪寒が駆け抜けた。
 災禍エリス【Lv7】は、七人もの犠牲を払って、ようやく一人を災禍から守れる魔法。
 いったい、陛下と光の使徒を守るためにケイナ様は何人――ううん、何十人の生贄を捧げたというの。
 どうして、そんなに平然と――
 生贄に捧げられたのは、ほとんどが、聖サファイアの人々のはずなのに。
 ネプチューン様も、目的のためなら帝国の人々の犠牲を厭わない。
 公家が公民を守ってくれるオプスキュリテ公国こそが、例外だというの?
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