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参 悔恨
第25話 遠乗り
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「え……」
「だから、兄上手配しといたから。感謝しろよ? いい思い出が作れるように、俺と蒼月とで、苦労して手配したんだから」
紫苑に先導されると聞いて、由良は愕然とした。
しかも、もう一人供が付くと言う。
「そんな、紫苑様はお忙しいと……!」
ははーんと、御影は意地悪く笑った。
「あのさあ、由良。逃げる気だっただろ。心配しなくても、由良の馬術じゃ飛影のだーれもふり切れないって。この俺が長の代行を承知してまでお膳立てしてやったんだから、楽しんでくること」
「!」
知っていて――!?
何もかも知っていて、あえて手伝ったのか。
今日まで隠しおおせたつもりでいたけれど、何もかも知られた上で、泳がされて――!
由良は悔し涙を浮かべて御影を見た。
どうしたらいいのだ。この上、どうしたら!
「鬼!」
由良はだんだんと、御影の胸を叩いた。
小柄な御影と言えど、由良よりはさすがに高い。
力任せにこぶしを叩きつけても、御影はよろけもしなかった。
「どうして長を継いで下さらないのです! 代行できるなら、継げるでしょう!? 面倒くさいからと、いやだからと、そんな理由で由良の一族を――魂留離を滅ぼすのですか!!」
御影は黙って由良を見ていた。それから、わずかに笑った。
「――ああ、そうだ」
「ひ――」
ひどい、と言いかけた由良の肩を、御影が強くつかんだ。
いつになく狂気じみた目が、由良を見る。
「俺が鬼だ。恨むなら俺を恨めよ? 兄上の退路を断って、由良を追い詰めてるのは俺なんだから――。兄上に長を継がせるためなら、由良なんて死んでいい。――死ね!」
由良は息を呑み、震える身で御影を見た。
御影の瞳は真に冷たくて、冗談ではないのだと、本気なのだと痛感させた。
本気で言うのだ。本気で、人に死ねと――!
「……っ……」
由良は震える手で懐刀を抜くと、御影に突きかかった。
「あなたが! あなたさえいなくなれば――!!」
そうだ。どうして気付かなかったのか。御影さえいなくなれば――!
御影は狙いすまして由良の腕を取ると、捻り上げた。
「当たりだな、由良。俺を殺せたら……」
由良がたまらず落とした刀を、御影が拾う。
「――帰れる。とはいっても、由良なんかに俺は殺せないけどな! これは預かっとく」
「あ……!」
御影はカラカラと笑った。
「ま、どうやったら俺を殺せるか、あと五日あるから考えればいい。無理だって忠告しといてやるけど」
去りかけてふと、御影は由良を顧みた。
「遠乗り、やめる?」
由良は黙り込んだまま、ただかぶりをふった。
御影のそばにいたくない。
御影は無理だと笑うが、逃げられる可能性だって、なくはない。
この怒りを、忘れてはいけないと思った。これをなくしたら、もう絶望しか残らない。
それは、許されないから――!
「だから、兄上手配しといたから。感謝しろよ? いい思い出が作れるように、俺と蒼月とで、苦労して手配したんだから」
紫苑に先導されると聞いて、由良は愕然とした。
しかも、もう一人供が付くと言う。
「そんな、紫苑様はお忙しいと……!」
ははーんと、御影は意地悪く笑った。
「あのさあ、由良。逃げる気だっただろ。心配しなくても、由良の馬術じゃ飛影のだーれもふり切れないって。この俺が長の代行を承知してまでお膳立てしてやったんだから、楽しんでくること」
「!」
知っていて――!?
何もかも知っていて、あえて手伝ったのか。
今日まで隠しおおせたつもりでいたけれど、何もかも知られた上で、泳がされて――!
由良は悔し涙を浮かべて御影を見た。
どうしたらいいのだ。この上、どうしたら!
「鬼!」
由良はだんだんと、御影の胸を叩いた。
小柄な御影と言えど、由良よりはさすがに高い。
力任せにこぶしを叩きつけても、御影はよろけもしなかった。
「どうして長を継いで下さらないのです! 代行できるなら、継げるでしょう!? 面倒くさいからと、いやだからと、そんな理由で由良の一族を――魂留離を滅ぼすのですか!!」
御影は黙って由良を見ていた。それから、わずかに笑った。
「――ああ、そうだ」
「ひ――」
ひどい、と言いかけた由良の肩を、御影が強くつかんだ。
いつになく狂気じみた目が、由良を見る。
「俺が鬼だ。恨むなら俺を恨めよ? 兄上の退路を断って、由良を追い詰めてるのは俺なんだから――。兄上に長を継がせるためなら、由良なんて死んでいい。――死ね!」
由良は息を呑み、震える身で御影を見た。
御影の瞳は真に冷たくて、冗談ではないのだと、本気なのだと痛感させた。
本気で言うのだ。本気で、人に死ねと――!
「……っ……」
由良は震える手で懐刀を抜くと、御影に突きかかった。
「あなたが! あなたさえいなくなれば――!!」
そうだ。どうして気付かなかったのか。御影さえいなくなれば――!
御影は狙いすまして由良の腕を取ると、捻り上げた。
「当たりだな、由良。俺を殺せたら……」
由良がたまらず落とした刀を、御影が拾う。
「――帰れる。とはいっても、由良なんかに俺は殺せないけどな! これは預かっとく」
「あ……!」
御影はカラカラと笑った。
「ま、どうやったら俺を殺せるか、あと五日あるから考えればいい。無理だって忠告しといてやるけど」
去りかけてふと、御影は由良を顧みた。
「遠乗り、やめる?」
由良は黙り込んだまま、ただかぶりをふった。
御影のそばにいたくない。
御影は無理だと笑うが、逃げられる可能性だって、なくはない。
この怒りを、忘れてはいけないと思った。これをなくしたら、もう絶望しか残らない。
それは、許されないから――!
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