四角い世界に赤を塗る

朝顔

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㉓ 魂の伴侶

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 夕暮れの街、たくさんの買い物袋を抱えた人達が、家路へと急いでいる。
 前を歩く親子が、手を繋いで楽しそうに話をしていた。
 今日の夕食は何にしようか。
 そんな言葉が聞こえてくる光景は、温かくて美しかった。

 そんなオレンジ色に染まる街を、ロランはぼんやりした気持ちで歩いていた。
 なぜ、自分がここを歩いているのか、何度考えても答えが見つからず、周りの景色だけが変わっていた。

 ホルヴェイン家の一族会議で、ベロニカの依頼で無理やりダーレンを襲ったと告白したロランは、兵士に拘束されて、外へ連れて行かれた。
 そのままベロニカと同じ監獄行きになるのかと思っていたが、連れて行かれたのは監獄ではなく、近くにある王国兵士の待機所だった。
 そこでしばらく待たされた後、縄を解かれて、もういいぞと言われて外に放り出された。
 どういうことだと兵士に詰め寄ったが、お前に罪はないと連絡が入ったと言われて、ポカンとしている間に、さっさと帰れと言われて、扉を閉められてしまった。

 どういう事なのか、ロランは頭を働かせたが、思い浮かんだのは、ベロニカに罪を認めさせたので、ロランについては見逃してくれたのではないか、ということだった。
 短い間ではあるが、思いを寄せ合った仲だ。
 全部、嘘だったと分かったとしても、温情をかけてくれたのかもしれない。

 それならそれを、ありがたいと受け取って、二度とダーレンの邪魔にならないように、姿を消すべきだと思った。
 内通者の存在を察知していたダーレンは、味方であるルーラーやベネットの前以外では、幼い演技をしていた。
 もちろん、教師として潜り込んだロランの前でも、本当の姿は見せなかった。
 自分だって嘘をついて近づいたくせに、ロランの心臓はチクンと痛んだ。

 胸を押さえて歩くロランの前に、いかにも金持ちの貴族のご令息という、上等な服を着た男が歩いてくるのが見えた。
 両端に美しい女性を侍らせて、自身たっぷりなモテ男という顔で、カッコつけて歩いていた。
 ロランが抱いていた貴族の印象は、彼のような男だった。
 歩いてくる男よりも、ダーレンはずっと美しくてカッコいい。
 ダーレンが後継者として選ばれたのは間違いないだろう。
 元から遠い存在であったが、はるか遠い存在になってしまった。
 
 女性達と笑いながら歩いていく貴族の男とすれ違った。
 ダーレンが社交界に出たら、あんなものではすまない。
 大勢の女性達に囲まれて、全員からうっとりとした目で見つめられるだろう。
 そしてダーレンはその中から、好みの女性を選び、二人は結婚して…………

 想像が膨らみすぎて、頭痛がしてしまった。
 ダーレンを助けるために、金のためで、愛していないと嘘をついたが、胸が張り裂けそうだった。

 ダーレンの本当の姿を知った今でも、気持ちは変わらない。
 導いてくれた優しい手、大きな胸、あの温もりが欲しくて、ロランは自分の腕を抱いた。

「……寂しいよ」

 街の大橋まで歩いてきたロランは、欄干から下を覗いた。

 ここで、消えてしまおうか

 そんな思いが頭に浮かんできた。
 てっきり罪に問われて、投獄されるものだと思っていた。
 裁かれる覚悟をしていたのに、何もないところに放り出されてしまった。

 罰して欲しい

 ダーレンを傷つけてしまった自分を、ロランは罰して欲しかった。

 誰も罰してくれないなら自分で……

 欄干に手をかけた時、頭の中に声が響いた。
 ぼんやりと顔を上げたロランは、辺りを見回したが、自分を見ている人はいなかった。
 幻聴かと思った時、また頭の中で自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。

 気がつくと、何かに導かれるように、ロランの足は橋を渡り、その後も止まる事なく歩き続けた。

 なぜ自分は……
 どこへ向かっているのか……

 訳が分からないうちに、ロランの足が向かったのは、よく見慣れた場所、町外れの貧民街にあるロランの自宅だった。
 わざわざ帰ろうとなど思っていなかった場所。
 残してきた荷物もなく、ゴミしか残っていないはずの、ボロボロの家。
 歩き慣れた路地に入ると、酒臭いにおいがした。
 ついこの前までの自分が道に転がっていて、その横を、ロランは無言で通り過ぎた。

 なぜ、どうして

 頭の中ではそう繰り返しているのに足は止まらない。
 ついに自宅の前まで来て、半分壊れたドアを開けた。
 中は薄暗く、埃っぽい臭いが鼻に入ってきた。

「なっ……!!」

 薄暗い中でもすぐに分かった。
 部屋の中央に置かれていたのは、布をかけられたキャンバスだった。
 それは、ロランがホルヴェイン家別邸の部屋に残してきたものだった。
 それがそっくりそのまま、移動されていた。

 ここにあるということは、身元を調べられて、邪魔だからと、わざわざ返されたということだろうか。
 それなら仕方がないと思ったが、なぜか心臓がバクバクと鳴り出して汗が止まらなくなった。
 汗を拭おうとロランはコートのポケットに手を入れた。
 急いで適当に羽織ったコートだったが、それはいつだったか、バロックと酒場で会った時に着ていたものだった。
 そしてポケットには、怪我をしたダーレンの口の元の血を拭った時のハンカチが、そのまま入っていた。
 洗い忘れていたが、ロランが折っていたハンカチを開くと、そこにはダーレンの血がまだ残っていた。

「え…………」

 その血はありえないくらい鮮やかな赤だった。
 かなり時間が経っているのに、今拭いたみたいに鮮やかなままの色で、その色を目にしたロランは、苦しくなってハァハァと荒く呼吸をした。

 変色しないのは人魚の血が濃いからなのか
 おかしい
 血を見た瞬間、甘い匂いが鼻に入ってきて、体が熱くなって止まらない。

 フラフラと歩いたロランは、キャンバスの前で立ち止まった。
 確かめないといけない。
 そう思って、覆われていた布に手をかけて、一気に取り払った。

「こっ……これは!?」

 それは間違いなくロランが描いた、別邸の庭、故郷の絵だったが、それだけではなかった。
 そこには鮮やかな赤があった。
 ロランが何か足りないと思っていた絵に、赤い色が付け加えられていた。
 もともと淡い配色だった庭に咲き誇る花々。
 それが全部、赤い色に塗り替えられていた。
 それを見たロランは、雷が落ちてきたような衝撃を覚えて、思わずこれだと声を上げた。

「完璧だ……。忘れることができないくらい、鮮明な故郷の記憶、これだ……これが足りなかった色だ……」

 ロランが震える指で赤い色に触れると、まだ乾いていない状態で、ロランの指に移った。
 その匂いを嗅いだロランは、目を大きく開いた。
 考えている場合ではなく、舌を出して、色がついた指を舐めた。

「血……血だ……、これはダーレンの……」

 覚えのある色と匂いを感じたロランは、衝撃で大きく息を吸い込んだ。
 恐ろしいというより、あまりに美しい色と、完璧になった作品を前にして、後退りしてしまった。

「はぁ……ハァハァ……熱い……」

 体が熱くて熱くてたまらなかった。
 心臓はドクドクと鳴って体中の血が騒ぎ出した。
 それは興奮と呼べるもので、気がつくとロランのソコがズボンの上からも分かるくらい、膨らんでいた。

「あっ……ハァハァ……ぁ……だめ……こんな……」

 まるで発情したように頭が茹でられて興奮が止まらない。
 ロランは、ズボンから自身を取り出して、自ら擦り始めた。

「はぉ……はぁ……あぁ……ひっ……ぁぁ……」

 はち切れそうに勃ち上がっていたソコは、軽く扱いただけで、ドクドクと白濁が溢れてきた。

「あっ、あっ、ああっ!! ……くっっ!」

 立ったまま自慰をして、ロランは達してしまった。
 床に向かって、びゅうびゅうと放った後、汚れてしまった自分の手を見たが、それだけでは全然治らない。
 後ろが疼いてしまい。濡れた手を自分の後ろに這わせた。

「……ぁ……あっ、んんっ、……んで、こんな……とまらな……」

 自分でもありえないことをしているのは、ぼんやりと理解しているが、ダーレンの血を感じたら、まるで盛りのついた犬のように、イキたくてたまらないのだ。

「足りな……、指じゃ……足りない……」

 自分で指を入れると、すでに中は潤んでいて、柔らかかった。
 奥まで欲しくてたまらないのに、指では全然届かない。

 指じゃない
 後ろが疼いて、欲しいと波打っている
 欲しいものは、もう決まっている

「ハァハァ……ダーレンさま……ほし……欲しいです……、おねが……ダーレンさ……ま」

 切ない声でダーレンの名前を呼ぶと、部屋の暗がりからクスクスと笑う声が聞こえてきた。

「やっと、名前を呼んでくれた」

「あ……うっ……っ」

「お部屋で寝ていてって言ったのに……。ロランがあんなところで発言するから、余計な時間がかかってしまったよ。すぐにこれを見せようと思ったのに」

 いつからそこにいたのか。
 暗がりから姿を現したのは、ダーレンだった。
 証言台に立った時の、立派な青年の姿そのままで、目を細めて微笑みながら歩いてきた。

「う…、……ごめ……な……さ」

「謝らなくていいんだよ。僕を助けようとしてくれたんでしょう? 可愛いロラン。健気な君を、あの場で押し倒してやりたい気持ちでずっと見ていたのに、こっちを見てくれなかったね」

「はぁ……は……ぁ……」

「それにひどいじゃないか。愛していないなんて言うなんて……。ちょっとショックだったよ。でもその後、しっかりロランは僕の半身だって、みんなに報告したから、もう逃げられないよ」

「逃げ……逃げたりなんか……」

「……する、つもりだっただろう? それとも橋から飛び降りようとした? でももう、そんなことは無理だよ。俺達は見えない鎖で繋がっているからね。ロランが何を考えているのか、俺には手に取るように分かる」

「あ………っっあっ…」

 近づいてきたダーレンに、指で顎を持ち上げられた。
 わずかに指先が触れただけなのに、体は快感でぶるりと震えて、達してしまいそうになった。

「感じすぎて辛いだろう。君はもう、俺の半身だ。完全体となって、血の魅了力は、他人には無効化したが、今度は半身となった者にだけ、効果を発揮するようになる。つまり、俺の血を目にして匂いを嗅げば、ロランは発情してしまうんだ。昔は馬鹿げた力だと思ったが、今になってみると、嬉しくてたまらない。俺だけが……ロランの特別な存在になったのだから」

 ダーレンの言葉がロランの頭の中をぐるぐると回っているが、話なんていらないと体は爆発しそうだった。
 近づいてきたダーレンに抱きついて、アソコを擦り付けた。

「いれて……お願い、……、挿入てくださ……これが……欲しい」

 ロランはダーレンのズボンを開いて、勝手に下着から目的のモノを取り出した。
 ダーレンのソコは、ロランと同じく硬くなっていて、凶器のように大きくて卑猥な形に変わっていた。

「あ……あぁ……すごい……」

「すっかり、メスの体になったね。俺達は繋がっているんだ。ロランが興奮すれば、一緒に熱くなる」

 近くの机にロランは手を乗せて、ダーレンに向けて誘うようにお尻を上げた。
 ダーレンはロランが欲しいといったソレを、後ろにあてがった後、一気にズブズブと挿入してきた。

「ああ……あ……あ……あ、あっ、ふぁ……いいっ」

 ダーレンが挿入ってきた瞬間、押し出されるように、ロランのソコは爆ぜて白濁が飛び出した。

「あぁ、何度ヤってもイケなかったのに、すごいじゃないか。俺のが挿入った途端、射精るなんて……。なんて可愛いんだ」

 パチンと尻を叩かれて、ダーレンは引き抜いた後、また深く挿入してきた。
 射精感がずっと続いて、止まらなくて、ロランは涎を垂らしながら、ひぃひいと喘いだ。

「ロラン? 聞いている? 俺の血を飲んだから、君は俺の半身になったんだよ。全部じゃないけど、心が繋がったんだ。だから、すごく気持ちいいよ。ロランも分かるだろう? 熱くて溶けてしまいそうなくらい、気持ちいい……」

 血を飲んだというのは、昨夜のことだろう。
 突然あんなことをするなんて、何か意味があるのかと思っていたが、ダーレンと繋がる特別な儀式のようなものだったのだろうか。
 しかし血を飲んだなら、それはベロニカも同じのはずだ。
 快感で朦朧とする意識の中で、ロランが考えていると、それも読み取ったのか、ダーレンがクスリと笑った。

「あれは、俺から勝手に奪ったから、意味はないんだよ。半身にできるのは、魂の伴侶だけ。深い絆で結ばれた相手じゃないといけないんだ。俺にとってそれはロラン、君だよ。だから上手く、君を半身にできて、完全体になることができた」

 ダーレンはナカの具合を確かめるように、グリグリと動かして腸壁を擦った。
 ロランはその度に絶頂を迎えて、背を反らし、顎を持ち上げて声にならない声を上げた。
 そんなロランを愛おしげに見つめたダーレンは、腰を打ち付けながら、ロランに話しかけてきた。

「完全体といっても、別に特別な力が使えるようになるわけではない。むしろ、今まで持っていた力を失くすんだ。やっと人間の仲間入りってやつ? でも、その代わり、半身だけは、血の効果を得ることができる……不思議だよね、それまでは通じない相手なのに……」

「つう……じな……い?」

「そうだよ。俺の血を見て匂いを嗅ぐと、誰もが気力をなくしてしまう。目を見て命令すれば、言う通りにさせることも……。でもね、ロランだけは、反応しなかった……だから分かったんだよ。君が、俺の半身だって」

 確かに、酒場でダーレンの血を拭った時、特に何も感じなかった。
 その他にも、転んだダーレンの膝を手当てしたこともあって、やけに赤い血だなとは思ったが、気力を失くすようなことはなかった。

 血に反応して、体がおかしなことになったのも、説明がつくので、ダーレンが言っていることは間違いなさそうだ。
 ダーレンの側にいたいとは思っていたが、何も言わずに無理やり血を飲ませて半身にするなんて、素直に飲み込める状況ではなかった。

 ロランの胸にモヤっと暗雲が立ち込めた時、ダーレンはピタリと腰の動きを止めた。

「だって……仕方がなかったんだ……。ロランの気持ちは命令されたもので、好きなのは自分だけで……。きっとベロニカを捕まえたら、ロランは離れて行ってしまう……。俺のことなんて本当は好きじゃないから……だからロランを鎖で繋いだんだ。俺から逃げられないように……」

「ちょっ……え?」

「半身になれば、相手がどこにいるか、感覚で分かるようになるし、長い距離、離れると、体が弱って死んじゃうんだ。だって一つじゃないといられない存在だから……。もう逃げられない……ロランは俺のものだ」

「…………」

 剥き出しの執着心を感じて、ロランは震えてしまった。
 怖いからじゃない。
 魂が共鳴して、求めていたものが手に入ったような、感動に思えた。
 繋がったところから、ダーレンの感情が流れ込んでくる。
 ロランのことを大切に思う気持ちと、激しい嫉妬に独占欲、愛おしくてたまらなくて、手放すくらいなら一緒に死にたいとまで感情がぐるぐると渦巻いていた。
 重すぎる感情に、驚いてしまったが、それはロランも同じような気持ちだった。
 それなのに、ダーレンには少しも伝わっていないことに気がついた。

「ごめ……ごめんね、ロラン……。好きで好きで……離したくなんて……」

「……か」

「え?」

「あた……ま、繋がったのに、どうして、おれ……気持ち、分からないんだ。ちゃんと……見てみろよ、俺の……頭ん中」

 どういう仕組みなのか分からないが、受け入れようと思わなければ、心の声は聞こえないのかもしれない。

 体を捩って後ろにいるダーレンの顔を見ると、ダーレンは大きく目を開いた。

「う………………うそ…………」

「嘘じゃない……ちゃんと……好きだ。俺だって……ダーレンが好き……だ……、ううっ……ぁぁ」

 ダーレンが息を吐いて、ビクビクを腰を揺らした。
 尻の奥が焼けてしまいそうな熱を感じた。

 ロランがもう一度好きだと言うと、まだ中にいるダーレンがぶるっと震えて熱を放った。

 その時、ロランの脳裏に自分の姿が見えた。
 今の自分、ではない。
 少し若い頃、昔の自分の姿だった。
 目に涙を溜めて、ごめんねと動いた口元を見て、ロランはあの日の記憶を思い出した。
 
 
 
 
 
 (続)
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