四角い世界に赤を塗る

朝顔

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⑮ 優しいキス

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 ダーレンと街に出かけてから、二人のお出かけは日常になった。
 ロランが外に買い物に行くと言えば、ダーレンは付いてくるようになったし、ダーレンが出かけたいと言えば、ロランを同行して外へ出るようになった。
 ルーラーが付いてくることもあるが、だいたいは護衛騎士が馬に乗って前後を警備しながら移動する。
 そして、馬車の中では二人きりになる。
 二人きりになると、どちらともなく手を重ねて、次に唇を重ねる。
 窓のカーテンを閉めてしまえば、そこは二人だけの濃厚な世界になった。

「はぁ……はぁ……あっ……ダーレンさ……ま」

 座席に座ったロランの足元に、ダーレンは膝をついていて、ロランの股間に顔を埋めていた。
 ロランのモノを口に含み、舌で転がしながら、後ろに指を入れて丁寧に広げる。
 ダーレンはこちらのレッスンも、教えたことをすっかり覚えてくれた。
 ダーレンが与えてくれる快感に、ロランは翻弄されていた。
 痺れるくらい気持ちいいが、ソコは舐められている間に硬くなっても、すぐに萎えてしまう。
 しばらく使うことのなかった体、捨てられた恐怖、ダーレンに対しての拭えない罪悪感、様々なものが込み上げてきて、達するまでには至らない。
 中途半端なロランを見ても、ダーレンは何も言わず、萎えたソコを愛して、優しく後ろをほぐしてくれる。

「ロラン、可愛いね……ナカ、とろとろになったよ」

「ん……はぁ……ぁ……」

「挿入っていい?」

 口に手を当てたロランが、こくこくと頷くと、ダーレンは興奮した目になって下着をくつろげた。
 今度はダーレンが座席に座り、ズボンを脱いだロランがその上にまたがると、後ろに何度か擦り付けられた後、ズブっと容赦なく太いモノが挿入ってきた。

「んんっ……あっ……」

 ダーレンのモノは大きくて、反り返った卑猥な形をしている。
 奥まで挿入されると、いいところが擦られて、視界が歪むほど感じてしまう。
 達することはできなくとも、ダーレンとのセックスは気持ちよかった。
 受ける側になることはほとんどなく、痛いだけでいい思いをしたことがなかった。
 それが嘘のように、全身グスグズになって溶けてしまう。

「あ、くっ……はぁ、ん…、あっ……」

 始めの頃は馴染むまで時間がかかったが、今では毎日のように体を重ねているので、すっかり形を覚えてしまい、少しほぐせば簡単に深く挿入るようになった。

 足で体を支えたロランは、ダーレンの肩に手を乗せて、腰を動かし始める。
 周囲には、ガラガラと車輪の音が響いていたが、それに負けないくらい、二人が繋がる音が響き渡る。
 バチバチと肉がぶつかる音がして、ロランは顎を持ち上げながら快感に喘いだ。

「ロラン……可愛い……す……き……好きだよ」

 興奮したダーレンの目は、いつもの青色がもっと深い色に変わる。
 その目を見つめてると、首の後ろを掴まれて、ぐいっと引き寄せられた。

「ん…………ぅぅ……ふぅ…………んん」

 口を舐められて強引に舌をねじ込まれたら、上も下も繋がって、たまらない快感で頭は染まってしまう。
 くちゅくちゅと音を立てて、ダーレンに唇を吸われる。
 そうすると、後ろが疼いて中のダーレンを締めつけた。

「くっ……ロラン……っ」

 ダーレンが掠れた声を上げたら限界が近いことが分かる。
 ロランはダーレンの耳に舌を這わせて、ガブリと甘噛みした。

「……ううっ!」

 はぁはぁと息を吐いたダーレンが、腹の奥で爆ぜたのが分かった。
 ドクドクと熱い放流を感じて、ロランは息を吐いて体をぶるりと震わせた。

「……はぁ……ロラン……とまらな……」

 若さからか、ダーレンは一度では終わらない。
 ロランが耳元でいいですよと答えると、今度はロランの足を持ち上げて、上下し始めた。
 ナカで果てても萎えることなく、もっとガチガチに硬くなるので、信じられないくらいだ。
 気がつけば女にされたのはロランの方で、抜け出せなくなったのもきっと……
 そこまでまで考えて、首を振ったロランは、ダーレンの名前を呼んで声を漏らしながら、激しい律動に体を任せた。

 



 少し湿った風を感じると、あぁ海風だと思ってしまう。
 潮の匂いが鼻に入ってきたら、もう間違いなくここは海だと分かった。
 馬車の窓を開けて外に顔を出すと、真っ青な海が広がっている光景が目に飛び込んできた。

「もう少しで到着です。あの崖の向こうにあるのが、ホルヴェイン家の所有している別荘です」

 ルーラーが目を閉じたまま淡々と説明している横で、ダーレンはつまらなそうに口を尖らせていた。

 夕食時にダーレンがロランと海に行きたいと言い出した時、ルーラーは怪訝な顔をしたが、ロランは嬉しかった。
 ちょうど制作していた絵が、どうも上手くいかなくて煮詰まってしまい、気分転換がしたいと思っていた。
 ルーラーは自分も一緒に行くことを条件に、旅行の日程を組んでくれた。
 最初は飛び上がって喜んでいたダーレンだったが、ルーラーが同じ馬車に乗ると分かってから、一気に機嫌が悪くなった。
 おそらくいつものように、馬車の中でロランと甘い時間が過ごせると思っていたのだろう。
 ルーラーはダーレンの隣に座って、急なことなので他に確保できませんでしたので、ご辛抱くださいと言った。
 他に滞在用の荷を積んだ荷馬車や、護衛騎士の馬や荷物と、大移動になるので、急遽であれば仕方がない。
 前の席に座ったロランは、ぷんぷんしているダーレンと、氷のように顔を崩さないルーラーを見比べながら、微笑ましく眺めてしまった。

 ロランが育った村の近くにも海があった。
 時々、荷馬車の荷台に乗せられて漁村へ行き、漁村に住んでいる親戚の家を訪ねて、野菜と魚を交換したり、漁の手伝いをしたりして、食事を分けてもらった。
 潮の匂いを嗅ぐと、何も知らず、無邪気に走り回っていたその頃を思い出す。
 窓から外を眺めながら、平和な光景にすっかり気が緩んでいた。


「ロランー、こっちこっちー!」

 白い砂浜を子供のようにかけて行ったダーレンが、振り返って手を振ってきた。
 片手に靴を持ちながら、ズボンの裾をめくっていたロランは、ダーレンに手を振り返した。
 この辺り一帯は王都からも程近く、貴族に人気の観光地だと聞いたが、今は旅行シーズンではないので、他に人はいなかった。
 確かに風が冷たくて、海水浴には少し寒い。
 しかし、降り注ぐ日差しが暖かいので、裸足で走り回ると心地よく感じた。

「ロラン、遅いよ」

「すみません、靴に砂が……もう諦めて裸足になりました」

「ここにお城を作ろう。僕達よりもずっと大きいやつ」

 そう言ってダーレンが砂を集め始めたので、ロランは分かりましたと笑って、遊びに付き合うことにした。
 砂を山のように集めてから、お城の土台造りに取り掛かる。
 砂遊びは子供の頃によくやったが、そんな記憶などすっかりなくしていた。
 久々にやってみると、なかなか楽しくて、汗を流しながらお城を作ってしまった。
 ふと気がついて周囲を見渡してみると、護衛の騎士達が砂浜の入り口に座って、それぞれ休憩しているところが見えた。
 王都とは違い、襲撃してくるような敵がいないからか、静かでのんびりした時間が流れていた。

 城作りが終わって、二人で砂浜に座って休憩を取ることにした。
 寄せては返す波の音が美しい。
 水平線を眺めた後、目を閉じたロランは、こんな世界があるんだなと、心が癒されていくのを感じていた。

「ロラン、元気になった?」

「え?」

「最近、お部屋にこもってずっと絵を描いているでしょう。時々外の椅子に座って、思い詰めた苦しそうな顔をしていたから……」

「見て……いらっしゃったのですね。実は今描いている絵を、公募展の一次審査に出そうか迷っていまして……」

「展覧会に出すの!? すごい! きっと一番になれるよ」

 条件なしの公募展には、まず一次審査があった。
 作品を提出して、展覧会に出られる画力、基準を満たしているかが審査される。
 それを通れば無事に作品として展覧会に出展されるが、一度戻ってきて再提出となる。
 展覧会までの間に、作品はそれぞれ修正が可能だ。
 一次審査からガラリと変えてくる人もいるし、何一つ変えずにそのまま出す人もいる。
 展覧会が開催されたら、審査員が票を入れて、最優秀作品と優秀作品、入賞作品を選ぶ。
 どの公募展でも優秀賞は、ある程度名前の知られた画家が選ばれていて、無名の、工房に属していない絵描きが選ばれることなどほとんどない。
 もし一次審査が通ったなら、一番は難しくとも、入賞だけは希望があるかもしれないとロランは思っていた。

「絶対出したほうがいいよ。僕、応援する」

 ダーレンはロランの背中を叩いて、ニコッと笑った。
 その笑顔を見たら、ずっとどんよりと広がっていた雲が一気に消えて、青空を見たような気持ちになった。
 目の前には美しい海が広がっているというのに、それよりももっとダーレンの瞳は、言葉にならないくらい美しかった。

「好きです」

 何も考えず、真っ白な頭のまま、ダーレンを見つめたら、思いもよらない言葉が出てしまった。
 口にしてから、自分は何を言ったのだろうと、ロランは口に手を当てた。
 否定するのもおかしな話なので、内心慌てていたが、軽く目を開いて驚いた顔をしていたダーレンは、次の瞬間、ふわりと微笑んだ。

「僕も、好き、大好き」

 トクトクと波の音に合わせて、心臓が鳴っていた。
 これは仕事で、ダーレンを騙して虜にするための演技だ。
 そう思うのに、心臓は痛いくらいに高鳴って、ロランの胸に広がっていたのは、甘酸っぱいくらいの喜びだった。
 かつて強烈に惹かれたガッシュとの恋愛でも、こんな気持ちになったことはなかった。
 熱さが込み上げてくる。
 早くこの熱を誰かと分かち合いたい……
 いや、誰か、じゃない……
 それは目の前にいる……

 見つめ合った瞬間、ゆっくりとお互い顔を近づけて、気がつくと唇を重ねていた。
 いつもみたいに欲情を煽るような激しいものではない。
 お互いの唇の柔らかさと、熱を感じる優しい口付け。
 それが、体中を満たして、繋がった場所から喜びが溢れてくる。
 味わったことのないもの。
 なんと言ったらいいのだろうと、キスをしながらロランはずっと考えていた。

 愛おしい

 胸に浮かんできた言葉が、そっと体に染み込んでいった。
 どこかから聞こえる海鳥の鳴き声を聞きながら、空が赤く染まるまで、ロランはダーレンと抱き合ってキスをした。
 
 

 
 
 
 

(続)
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