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第四章 ゲームの終わり
5、怒れる男は
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「ふぅー、お腹痛かった」
店のトイレを借りて用を足した俺は、スッキリしたお腹を押さえて廊下に出た。
そこでふと、何かおかしいぞと疑問に思って首を傾げたが、違和感の正体がやっと分かって声を上げた。
「あれっ……いない?」
店内から奥のトイレまでは一本道だった。
トイレに入った時、中には誰一人おらず、個室も空いていた。
腹痛でトイレに駆け込んだので、セインの存在がすっかり頭から抜けていた。
セインという男は手洗いに立ったと聞いていた。
トイレにいないのだとしたら、セインはどこへ行ってしまったのだろう。
周りを確認すると、店の奥は他に厨房へ抜ける道と、従業員用の勝手口があった。
厨房は関係者でなければ可能性が低い。
となると勝手口だが、よく見るとわずかに戸が開いていて、外から入ってきた風でカタカタと揺れていた。
俺が来る前にトイレを済ませたセインは、外の風に当たろうと勝手口から外へ出た。
考えられない話ではない。
しかしまだバーに到着してすぐなのに、夜風を恋しがるのはどうもおかしい気がする。
何か目的があって外へ出た。
それしか考えられなくて、吸い寄せられるように俺は勝手口の扉に手をかけた。
「…………………だ」
「……は…………も……」
風に乗って人の話し声が聞こえてきたので、戸を開けようとしていた手を止めた。
話しているのがセインなのかどうかも分からない。
どうしようか迷っていたら、ボソボソとした話し声が急に大きくなった。
「それでは……シュネイルは……!」
聞こえてきたその言葉に体がビクッと動いて反応してしまった。
ロティーナの口から聞いて、リカードにありえないと笑われたその名は、すっかり頭から抜けていた。
それが急に線が繋がったみたいに頭の中に飛び込んできて、動揺した俺は思わず戸を押してしまい、ギギっと使い込んだ金具の音が鳴ってしまった。
「誰だ!?」
鋭い声が響いて慌てた俺は急いで近くのドアを開けて中に飛び込んだ。
そこは厨房だったが、店員の姿はなかった。
なぜかすごくヤバい気がして、そのまま這いずって調理台の身を隠した。
そのまま息を殺して静かに隠れていたが、辺りは静かだった。
しばらくして、俺は何をしているんだと呼吸を整えて、厨房から抜け出した。
なぜあの名前が出てきたのか。
聞き間違いではないか。
頭の中に色んな情報がぐるぐると回って処理しきれず、フラフラしながら店内に戻るとそこにはリカードとロティーナ、そしてセインの後ろ姿があった。
「シリウス、遅いわよ。長すぎでしょう」
「お腹は大丈夫? 帰った方がいい?」
いくらなんでも長すぎるトイレに二人から心配されてしまった。
俺は緊張で心臓がドクドクと揺れているのを感じながら、三人が座っているテーブルに近づいた。
「大丈夫、ちょっとお昼を食べすぎたみたいだ」
安心させるように笑いながら席に着いた俺は、目の前に座っている男に目線を注いだ。
「この子がさっき言っていた幼馴染のシリウスよ。リカードとは友人で今日は二人で店に来たのよね?」
「シリウスです。先ほど友人のロティを見かけて声をかけたんですが、腹痛で席を外していました」
セインはフードを外していた。
黒髪に浅黒い肌、緑色の目をした男だった。
なるほどロティーナが夢中になるだけあって、男らしい顔立ちで目を引くカッコ良さがあった。
「セインと言います。……ところで、腹を痛めていたのに飲みに来られたのですか? この店の常連ではないですよね?」
「そっ……それは……」
驚いた。
いきなりそんな質問をされると思わなかったので、答えを用意していなかった。しかも独特な雰囲気があって、まるで尋問されているような威圧感がした。
「ここに来る前は平気だったんだよな。店に入ったら突然腹が痛くなったって。今日は近くの店で買い物して、たまたまこの店にしたんだ。二人で飲んで帰るのはいつものことなんだよ」
俺の慌てっぷりに機転を利かせたリカードが、肩を組んで飲み仲間なんですと陽気にアピールしてきた。
俺もそれに合わせてヘラヘラと笑って頭をかいた。
「………失礼しました。どうも細かいことが気になる性格でして」
どっかの刑事さんみたいな台詞を吐いた後、セインは酒の入ったグラスを手に持ってぐっと傾けた。
俺もリカードは目を合わせて、セインに見えないように合図を送った。
スタートに躓いたが、いよいよリカードの質問攻撃が始まる合図だった。
「二人は常連だって言っていたけど、いつも二人で飲んでるの?」
「ええ、最近はそうね」
「セインさんは、仕事は? この辺で働いてんの?」
「そうですね。普段は町の店や貴族相手に、手紙や荷の運送をやっています」
「へぇ、そりゃ大変な仕事だ。俺も仕事は馬車の運転だし似たような仕事だからね。貴族相手は気難しくてやり辛いし困ったもんだよなぁ」
仕事について深く語らないと言っていたが、聞けばそれなりには教えてくれた。
その後も矢継ぎにリカードは仕事の話を掘り下げようとしたが、核心に触れようとすると、そんなようなものですと言って上手いこと濁してきた。
なるほど一筋縄ではいかない男だ。
そして俺は先ほどの勝手口の外で聞こえた会話が、どうしても気になっていて頭から離れなかった。
声は聞こえていたが、緊張とショックでセインと同じものなのかというのが判断できない。
それでもあの名前が出てきたのが偶然だとは思えなくて、俺はリカードの質問に淡々と答えるセインをじっと見ていた。
「貴方は?」
「え?」
「リカードさんの仕事は聞きましたが、貴方は何をされているんですか?」
突然矛先が俺に向けられて息を呑んだ。
予定ではリカードが仕事の話を聞きながら、出身地まで掘り下げていく手筈になっていた。
まさか俺に興味なんて持たないだろうと思っていた。とりあえず、考えていた設定を口にすることにした。
「カフェの店員です」
正確には元だが、何にする? とリカードに聞かれて思いついたのはコレだった。
まさか詳しい仕事内容を聞かれることはないだろうが、これなら質問されてもボロが出る心配はない。
リカードは似合いそうだなんて言って笑っていた。
「カフェ……」
セインはカフェと聞いて、初めてじっと俺のことを見てきた。
何か思い入れのある仕事なのかしらないが、興味があるのかな、なんて軽く考えていた。
「シリウスさん、………同じ仕事をしているご兄弟はいらっしゃいますか?」
「へ?」
「トム、という名前だったりしませんか?」
心臓がドキッと飛び跳ねた。
頭の中にバイト時代に来た客の顔を思い浮かべた。
近所の人くらいしか来なくて、セインのような目立つ男が来たら絶対に覚えていそうだったが、記憶になかった。
「いや、突然すみません。町のカフェでシリウスさんと似たような特徴でトムという名前の店員がいると聞いたことがありまして……」
まさか、トムの名前が知られているなんて思わなかった。あの店は有名店でもないのに、どういうことなのかサッパリ分からない。
こんなところで動揺してはいけない。気持ちを立て直して、偶然というやつだろうと無理矢理納得させた。
「そう……ですが、俺に兄弟はいないです。よくある顔ですから、はははっ」
「セインさん、その話、詳しく聞かせてほし……うぐっ!」
さっさと終わらそうとしたのに、余計なところを聞こうとしてくるリカードを肘で打って、そろそろ本題に入ることにした。
「それにしても、お二人は付き合ってるのかな? うっ……羨ましいな、俺はモテないから、ははは」
リカードがこの台詞を言うと言っていたが、どう考えても嫌味か嘘をつくなとツッコまれる事態になるので、俺が言うしかなかった。
演技になった途端に棒読みで、口を引き攣らせて喋る俺を、ロティーナは呆れた目で見てきた。
そしてセインが何と返すのか、わずかに希望を持った目でセインに視線を向けたのが見えた。
「いえ……、飲み仲間です」
さすがにこの質問は向こうも動揺したようだった。セインは気まずそうに目を伏せて答えた。
改めて聞かされた言葉に、ロティーナはショックを受けた顔をした。
そして俺もまた、ズドンと胸が重くなってしまった。
二人で寄り添って店内に入ってきた時は、聞いていたより距離が近く感じた。
リカードの質問に答えながら、セインは時々ロティーナと視線を合わせていた。
それは疎い俺にだって分かる、熱い視線に思えた。
ロティーナの心配は杞憂で、ただシャイな人なのではと思い始めていた。
それが飲み仲間。
友人ですらない。
この場所で酒を飲むだけの関係、自分を好きでいてくれる女性を適当に繋ぎ止めて、そんな薄っぺらい関係だとわざわざ口にしたこの男に俺は怒りが湧いてきてしまった、
ショックを受けたロティーナの顔を見たら、まるで自分が傷ついたように胸が痛くなった。
俺自身、トロくて臆病なのに自分がこんなに熱い人間だなんて思っていなかった。
頭が完全に怒りに染まって、自分でも出したことがないくらいの低い声が出てきた。
「……へぇ、そうか。だったらさ、他のやつにロティを奪われても構わないよな? お前はただの飲み仲間なんだからよ」
リカードは俺が予定にないことを言い出したのでポカンとした顔で固まっていた。ロティーナも同じく驚いていた。
「ええ、そう、ですね…………、あの、用事を思い出しました。失礼します」
「セインっっ」
俺の言葉に答えたセインは逃げるように立ち上がって、出口に向かって歩いて行ってしまった。
途中まで追いかけたロティーナだったが、セインのあまりの速さに追いつけなくて転んでしまった。
一度振り返ってロティーナを見たセインだったが、ロティーナを助けることなく、頭を振るようにしてそのまま店から出て行ってしまった。
バタンと安っぽい木の扉が閉まる音がやけに大きく響いた。
ロティーナを助けに行ったリカードの姿を見ながら、だんだん冷静になった俺は、大変なことをしてしまったと頭を抱えた。
□□□
店のトイレを借りて用を足した俺は、スッキリしたお腹を押さえて廊下に出た。
そこでふと、何かおかしいぞと疑問に思って首を傾げたが、違和感の正体がやっと分かって声を上げた。
「あれっ……いない?」
店内から奥のトイレまでは一本道だった。
トイレに入った時、中には誰一人おらず、個室も空いていた。
腹痛でトイレに駆け込んだので、セインの存在がすっかり頭から抜けていた。
セインという男は手洗いに立ったと聞いていた。
トイレにいないのだとしたら、セインはどこへ行ってしまったのだろう。
周りを確認すると、店の奥は他に厨房へ抜ける道と、従業員用の勝手口があった。
厨房は関係者でなければ可能性が低い。
となると勝手口だが、よく見るとわずかに戸が開いていて、外から入ってきた風でカタカタと揺れていた。
俺が来る前にトイレを済ませたセインは、外の風に当たろうと勝手口から外へ出た。
考えられない話ではない。
しかしまだバーに到着してすぐなのに、夜風を恋しがるのはどうもおかしい気がする。
何か目的があって外へ出た。
それしか考えられなくて、吸い寄せられるように俺は勝手口の扉に手をかけた。
「…………………だ」
「……は…………も……」
風に乗って人の話し声が聞こえてきたので、戸を開けようとしていた手を止めた。
話しているのがセインなのかどうかも分からない。
どうしようか迷っていたら、ボソボソとした話し声が急に大きくなった。
「それでは……シュネイルは……!」
聞こえてきたその言葉に体がビクッと動いて反応してしまった。
ロティーナの口から聞いて、リカードにありえないと笑われたその名は、すっかり頭から抜けていた。
それが急に線が繋がったみたいに頭の中に飛び込んできて、動揺した俺は思わず戸を押してしまい、ギギっと使い込んだ金具の音が鳴ってしまった。
「誰だ!?」
鋭い声が響いて慌てた俺は急いで近くのドアを開けて中に飛び込んだ。
そこは厨房だったが、店員の姿はなかった。
なぜかすごくヤバい気がして、そのまま這いずって調理台の身を隠した。
そのまま息を殺して静かに隠れていたが、辺りは静かだった。
しばらくして、俺は何をしているんだと呼吸を整えて、厨房から抜け出した。
なぜあの名前が出てきたのか。
聞き間違いではないか。
頭の中に色んな情報がぐるぐると回って処理しきれず、フラフラしながら店内に戻るとそこにはリカードとロティーナ、そしてセインの後ろ姿があった。
「シリウス、遅いわよ。長すぎでしょう」
「お腹は大丈夫? 帰った方がいい?」
いくらなんでも長すぎるトイレに二人から心配されてしまった。
俺は緊張で心臓がドクドクと揺れているのを感じながら、三人が座っているテーブルに近づいた。
「大丈夫、ちょっとお昼を食べすぎたみたいだ」
安心させるように笑いながら席に着いた俺は、目の前に座っている男に目線を注いだ。
「この子がさっき言っていた幼馴染のシリウスよ。リカードとは友人で今日は二人で店に来たのよね?」
「シリウスです。先ほど友人のロティを見かけて声をかけたんですが、腹痛で席を外していました」
セインはフードを外していた。
黒髪に浅黒い肌、緑色の目をした男だった。
なるほどロティーナが夢中になるだけあって、男らしい顔立ちで目を引くカッコ良さがあった。
「セインと言います。……ところで、腹を痛めていたのに飲みに来られたのですか? この店の常連ではないですよね?」
「そっ……それは……」
驚いた。
いきなりそんな質問をされると思わなかったので、答えを用意していなかった。しかも独特な雰囲気があって、まるで尋問されているような威圧感がした。
「ここに来る前は平気だったんだよな。店に入ったら突然腹が痛くなったって。今日は近くの店で買い物して、たまたまこの店にしたんだ。二人で飲んで帰るのはいつものことなんだよ」
俺の慌てっぷりに機転を利かせたリカードが、肩を組んで飲み仲間なんですと陽気にアピールしてきた。
俺もそれに合わせてヘラヘラと笑って頭をかいた。
「………失礼しました。どうも細かいことが気になる性格でして」
どっかの刑事さんみたいな台詞を吐いた後、セインは酒の入ったグラスを手に持ってぐっと傾けた。
俺もリカードは目を合わせて、セインに見えないように合図を送った。
スタートに躓いたが、いよいよリカードの質問攻撃が始まる合図だった。
「二人は常連だって言っていたけど、いつも二人で飲んでるの?」
「ええ、最近はそうね」
「セインさんは、仕事は? この辺で働いてんの?」
「そうですね。普段は町の店や貴族相手に、手紙や荷の運送をやっています」
「へぇ、そりゃ大変な仕事だ。俺も仕事は馬車の運転だし似たような仕事だからね。貴族相手は気難しくてやり辛いし困ったもんだよなぁ」
仕事について深く語らないと言っていたが、聞けばそれなりには教えてくれた。
その後も矢継ぎにリカードは仕事の話を掘り下げようとしたが、核心に触れようとすると、そんなようなものですと言って上手いこと濁してきた。
なるほど一筋縄ではいかない男だ。
そして俺は先ほどの勝手口の外で聞こえた会話が、どうしても気になっていて頭から離れなかった。
声は聞こえていたが、緊張とショックでセインと同じものなのかというのが判断できない。
それでもあの名前が出てきたのが偶然だとは思えなくて、俺はリカードの質問に淡々と答えるセインをじっと見ていた。
「貴方は?」
「え?」
「リカードさんの仕事は聞きましたが、貴方は何をされているんですか?」
突然矛先が俺に向けられて息を呑んだ。
予定ではリカードが仕事の話を聞きながら、出身地まで掘り下げていく手筈になっていた。
まさか俺に興味なんて持たないだろうと思っていた。とりあえず、考えていた設定を口にすることにした。
「カフェの店員です」
正確には元だが、何にする? とリカードに聞かれて思いついたのはコレだった。
まさか詳しい仕事内容を聞かれることはないだろうが、これなら質問されてもボロが出る心配はない。
リカードは似合いそうだなんて言って笑っていた。
「カフェ……」
セインはカフェと聞いて、初めてじっと俺のことを見てきた。
何か思い入れのある仕事なのかしらないが、興味があるのかな、なんて軽く考えていた。
「シリウスさん、………同じ仕事をしているご兄弟はいらっしゃいますか?」
「へ?」
「トム、という名前だったりしませんか?」
心臓がドキッと飛び跳ねた。
頭の中にバイト時代に来た客の顔を思い浮かべた。
近所の人くらいしか来なくて、セインのような目立つ男が来たら絶対に覚えていそうだったが、記憶になかった。
「いや、突然すみません。町のカフェでシリウスさんと似たような特徴でトムという名前の店員がいると聞いたことがありまして……」
まさか、トムの名前が知られているなんて思わなかった。あの店は有名店でもないのに、どういうことなのかサッパリ分からない。
こんなところで動揺してはいけない。気持ちを立て直して、偶然というやつだろうと無理矢理納得させた。
「そう……ですが、俺に兄弟はいないです。よくある顔ですから、はははっ」
「セインさん、その話、詳しく聞かせてほし……うぐっ!」
さっさと終わらそうとしたのに、余計なところを聞こうとしてくるリカードを肘で打って、そろそろ本題に入ることにした。
「それにしても、お二人は付き合ってるのかな? うっ……羨ましいな、俺はモテないから、ははは」
リカードがこの台詞を言うと言っていたが、どう考えても嫌味か嘘をつくなとツッコまれる事態になるので、俺が言うしかなかった。
演技になった途端に棒読みで、口を引き攣らせて喋る俺を、ロティーナは呆れた目で見てきた。
そしてセインが何と返すのか、わずかに希望を持った目でセインに視線を向けたのが見えた。
「いえ……、飲み仲間です」
さすがにこの質問は向こうも動揺したようだった。セインは気まずそうに目を伏せて答えた。
改めて聞かされた言葉に、ロティーナはショックを受けた顔をした。
そして俺もまた、ズドンと胸が重くなってしまった。
二人で寄り添って店内に入ってきた時は、聞いていたより距離が近く感じた。
リカードの質問に答えながら、セインは時々ロティーナと視線を合わせていた。
それは疎い俺にだって分かる、熱い視線に思えた。
ロティーナの心配は杞憂で、ただシャイな人なのではと思い始めていた。
それが飲み仲間。
友人ですらない。
この場所で酒を飲むだけの関係、自分を好きでいてくれる女性を適当に繋ぎ止めて、そんな薄っぺらい関係だとわざわざ口にしたこの男に俺は怒りが湧いてきてしまった、
ショックを受けたロティーナの顔を見たら、まるで自分が傷ついたように胸が痛くなった。
俺自身、トロくて臆病なのに自分がこんなに熱い人間だなんて思っていなかった。
頭が完全に怒りに染まって、自分でも出したことがないくらいの低い声が出てきた。
「……へぇ、そうか。だったらさ、他のやつにロティを奪われても構わないよな? お前はただの飲み仲間なんだからよ」
リカードは俺が予定にないことを言い出したのでポカンとした顔で固まっていた。ロティーナも同じく驚いていた。
「ええ、そう、ですね…………、あの、用事を思い出しました。失礼します」
「セインっっ」
俺の言葉に答えたセインは逃げるように立ち上がって、出口に向かって歩いて行ってしまった。
途中まで追いかけたロティーナだったが、セインのあまりの速さに追いつけなくて転んでしまった。
一度振り返ってロティーナを見たセインだったが、ロティーナを助けることなく、頭を振るようにしてそのまま店から出て行ってしまった。
バタンと安っぽい木の扉が閉まる音がやけに大きく響いた。
ロティーナを助けに行ったリカードの姿を見ながら、だんだん冷静になった俺は、大変なことをしてしまったと頭を抱えた。
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