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12月◎日、獣神王、そして狸親父と狐と鼓

60.描々懇々、心の的当て。

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 ――青春してんなぁー。

 アタシの青春時代といえば、結婚ラッシュだ。
 小さい頃から辰兄しんにぃと花梨ちゃんがくっつくかと思っていたら、花梨ちゃんはネットゲームで出会ったつとむくんと結婚して驚いた。

 その後すぐに辰兄は京子ちゃんと。
 少しして女性に興味が無さそうだった煌兄こうにぃが、弟子の雪子ちゃんと結婚。
 その辺りで茉兄まつにぃが海外からの連絡で、結婚の報告をしていたっけなァ。

 そんなアタシは、青春どころか絵世界大戦の準備で忙しかった。

『芸術は爆炎だ!』
『おやめなさいな、龍馬りゅうまさん』
『この絵世界の無法状態を、爆炎で懲らしめ統一すべきである!』
『制裁は悲しみと憎しみを生むだけで、纏まりゃしないよ』
『胡蝶は黙っとれ!』
『だからそういう圧力では纏まらないと言っておるんだ!』

 龍馬さんと師匠の喧嘩もこの辺りから激しくなり、龍馬さんは何かに取り憑かれた様に人が変わり出していた。

 この時の喧嘩と比べたら、今目の前の喧嘩なんて、可愛いもんだな――


「ほら、オメェらこんな所で、喧嘩なんかしたら他のお客様に迷惑だろー?」
「先生! 今までどこに行ってたんですか!」

 トラが自分自身の取り合いをされている状況を忘れて、アタシの心配をしてくれた。
 ふふ、可愛いやつだなー。

「んーなんだァ、大人には色々とやらなきゃいけないことがあんだよ。さてそれより兎と亀の争いなら競走だが、兎とカエルの争いなら相撲か的当てだ」
「え?」

 トラは、何の話か分からず首を傾げる。
 御伽噺のウサギとカメは有名な話だが、超獣流の元になった鳥獣戯画では、兎と蛙が相撲や的弓まとゆみで戯れている。

「ということで!」

 アタシは指を鳴らす。
 メイド喫茶の空間を止め、結界を張る。

 ジュラの妖力をばら撒くがてら、この三人で遊んでもらおうかねぇ。

「サァサァ寄ってらっしゃい、見てらっしゃい! 只今より的当て大会を始めるよォー!」
「先生どうしたの……」
「ヨーコちゃん?」

『……的当てかぁ、文化祭の屋台で使えそうだな、明日孟々さんに……』

 トラのやつァ能天気だなー。

「ルールは簡単! トラのしんぞうを射止めた方が勝ち!」
「は?」
「制限時間は10分間、先手は櫻。守りはジュラ。勝った方はトラとの一日デート権だー!」
「面白いわね」
「絶対負けまセン!」
「ちょっといきなりそんな事言われても!」

 青春に縁の無かったアタシよりも、トラが鼻の下を伸ばして青春を謳歌しだしたのが個人的に気に食わないので、勝手に的にさせてもらった。

「結界を張ったから、いくらでも妖力を使っていいぞー」
「妖力なんか食らったら一発アウトじゃねぇか!」
「大丈夫デスヨ、アタシが守りますから!」

 うんうん。
 ジュラも暗い顔をしなくなった様で安心した。
 あともう一踏ん張りってところだな……

「では、よーい始めッ!」

 狐火を合図に皆が獣神化し、トラが逃げ始める。
 トラが厨房へと逃げ、その後を櫻が追いかけ、アタシは狐火をカメラにして高みの見物。

「虎之助、観念なさい」

 後ろを向いて、しゃがみながら震えるトラ。
 弓道を嗜む櫻は、弓を放つ。
 トラの背中に突き刺さり、ドサリと倒れる。

「吹き替え……?」

 トラが以前、慶相手に身代わりを出した様に、同じ手に引っ掛かる櫻。

「虎之助、あの時から随分と上手く描ける様になったのね。動くなんて私ビックリした……けどね、私はそう簡単に騙されない」

 櫻は振り向きざまに矢を放つ。
 矢の先は妖術で止められたメイドちゃんではなく、メイドに変装をしたトラだった。

 あ、こりゃ一本あったかな?

 矢はトラの背中に当たる直前に、装甲姿のジュラが護っていた。

「はい。ざんねんデシタ、ウサギさん。言ったデショウ、アタシは先輩の鎧になるって……」
「重い女はモテないわよ。重いは二つの意味でね、ふふ……」
「うるさいッ! アナタの方がオモイデス!」

 二人は言い争う。

「はい、十分経過ー。交代だぞー」
「先輩! あとでさっきのコス、写真撮らせてクダサイ!」
「先生、俺帰っていいですか……?」
「ダメに決まってるだろ、よーい始めッ!」

 またしてもトラは逃げ出す。
 今度はジュラが攻撃、櫻が守り。

「ふふん、ワタシの魅惑のマシンガンで先輩のハートを撃ち抜きマ……ッ!」

 櫻はくノ一の様に、ジュラに目隠しをして、慣れた手つきで亀甲縛りをして吊し上げる。

「なッ⁉︎ ……こ、こんなのヒキョーですぅッ!」
「言ったでしょ、私は宝剣となるの。攻撃は最大の防御、は認めない。……虎之助いまのは笑うところよ」
「笑えない……っす」
「あらそう? はい紅茶」

 慣れた手つきで紅茶を注ぐメイド。
 震えながら紅茶を啜るトラ。

「はい、十分交代ー」

 その後もずっと泥試合。
 櫻の鋭い口撃に、鋼鉄のハートのジュラ。
 弓と鉄砲の的となったトラは涙目になりながら逃げ続ける。


 気づけば日も暮れ出した。


「偽物でも虎之助を射抜いた私の勝ちね……」
「ワタシの魅力で先輩のハートを射抜いたから、ワタシの勝ちデス!」
「貴女……バカなの?」
「あー! バカって言った方がバカなんデスヨ!」

 ……この試合は、ただただ遊ばせているわけではない。
 ジュラは絵世界での稽古が短い割に何故妖力が多いのか、妖力を沢山使用させてようやく分かった。
 ジュラの背負ってるリュックの中に、偽物の筆宝が入っている。

 この筆宝を作ったのは、おそらく辰兄の指示で茉兄が……


「こんなところで遊んでいたのか、ジュラ」


 アタシの心配は的中した。
 ばら撒いた妖力を嗅ぎつけ、結界を張っている店に入ってくる小太りなおじさん。

 亀鶴茉里きかくまつり

 そう、ジュラの狸親父がやって来た――
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