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10月◯日 現実世界、そして異世界ならぬ絵世界

2.斯々然々、双子から逃げまして!

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 ――神様、仏様、皆々様、助けてください!
 斯々然々かくかくしかじか色々ありまして、
 
 学生服姿の執事とメイドから逃げています!――


「待てぇえッ! 虎之助ぇええッ‼︎」

 ……ころされる、殺されるッ‼︎
 事の発端は、天使カノ子ちゃんの指をミィが噛んだからだ!

 ミィは昔からカノ子ちゃんに懐かない。
 カノ子ちゃんもまた懲りない。
 いつもミィに攻撃され「いたーい」と笑っているけど、俺は全く笑えない。

 何故なら『痛い』と聞きつけ、俺の部屋に走り込む執事と、歩いてくるメイドがいるからだ。
 特に執事が執拗しつよういかり出す……


 ……どのくらい走っただろう。
 今日に限らず、猫を抱えて逃げる日々。
 血管の浮き出た、赤毛混じりの長身オールバックイケメンから今日も逃げる!


「いつもいつもカノ子お嬢様を傷つけやがってぇッ! 虎之助、早くその猫を渡しやがれぇええッ‼︎」

 やばいやばいやばい……!

 イケメンは、それはそれは大激怒。
 たつみ家の執事で、俺の一つ下の『鳳慶おおとりけい』くん!

「このドラ猫共、まちやがれぇッ!」

 俺は何も悪い事をしてねぇッ!
 実行犯ミィを抱えて逃げてるだけだ!
 追い詰められたネズミのように『窮鼠、イケメンを噛む』をしてやりたい!

 ……無我夢チューで走っていると、顔面にクッション材がぶつかった。

「いてっ! ご、ごめんなさい、余所見して走っチュ……ッ!」

 また言葉を噛んだ!
 だから人と話すのは嫌なんだ!

「虎之助、おはよう。あなたが今日も慶と遊んでいるから、御嬢様が探しているわ」

 目の前にはイケメンと瓜二つでありながら、女性らしさを兼ね備える短髪イケメン女子の『鳳櫻おおとりおう』さんが立っていた。


 ……待てよ。
 今のクッション材って、まさか人間の女性が持つとされる、おっ……え、マジか⁉︎

 走ったせいなのか、又は瓜二つの妹の甜瓜メロン二つを体感したせいか、俺の頬に汗が伝う。


「おー、よくやった、櫻‼︎」
「慶、朝からうるさい」
「うるさくねぇよ! そんな事より、そのドラ猫二匹に天罰を与えてやる‼︎」
「だめ。猫に罪はないの。……けど、罪があるとするならば、飼い主である虎之助」
「へ……?」

 表情を変えずに、イケメンメイドさんは何を言ってるのかな?

「よし、櫻がそーいうのなら仕方がねぇ。カノ子お嬢様を痛めた罪。虎之助だけに取ってもらうぜ!」
「虎之助。その猫をて観念なさい。……あ。駄洒落じゃないわよ?」
「え、いや、ぼくは…」
「あぁ? 小せぇ声で聞こえねぇんだよ!」
「……だから慶うるさい」
「俺はうるさくねぇ!」
「それに虎之助は私の声よりも大きい」
「なら櫻も大きな声で喋りやがれ!」
「だからうるさい」
「あぁんッ⁉︎」
「……あ、あのぉ……」

 双子の論争の挟みうち。
 逃げようにも逃げ道がなく困っていると、

「やめなさい! 慶、櫻!」
「「……はっ」」

 再び天使が降臨された。
 天使に仕える双子は、直様すぐさま乱れを整える。
 慶くんは俺と走って乱れた髪を。
 櫻さんは俺とぶつかりズレたリボンを。
 そして二人は天使に一礼をする。

「もうっ、どこに行ったか心配しちゃったよー」
「カノ子お嬢様、お指の怪我はもうよろしいのですか?」

 ヤンキー口調だった慶くんはひざまずき、執事の仕事を全うする。
 櫻さんは何一つ表情を変えずに、カノ子ちゃんの隣に位置を変えていた。

「こんなの怪我じゃないし、慶は大袈裟! でも、心配してくれてありがと!」
「そ、そんな、オレはおじょーさまのぉッ! ……わたくしは、お嬢様に仕える身として当然です」

 天使の微笑みが、狂犬を鎮めた。
 くそっ、このヤンキー野郎。
 ボロが出まくってるじゃねぇか!
 
「さっトラくん、遅刻しちゃうから皆で学校まで走ろーッ!」
「……う、ん……」

 荒げた息を整え返事をしたら……

「フシャーーーッ‼︎」

 眠りし獅子は、マタタビを貰ったかのように荒ぶり、フタタビ天使に噛みついた。


 あれ。


 今度は執事とメイドがしかと見ている現行犯。

 執念執事と冥土へいざなうメイドとの追いかけっこが再開された――
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