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動乱編

ep158 絶望

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「!!」

 俺たちは恐怖に立ちすくんだ。
 なんと魔法陣からズズズズッと出てきたのが、大怪鳥プテラスよりも遥かにデカい、巨大な魔鳥獣だったから。

「あ、あれは......プテラスキング!」

 俺の吐いた固有名詞はフェエルとミアをさらに戦慄させた。

「ぷ、プテラスキングって......」

「Bランクの魔獣だよね!?」

 額から冷や汗を流しながら俺は頷いた。

「前にヤソジマで見たから確かだ」

「あっ、でもそれってヤソみんが倒したんじゃ?」とフェエル。

「いや、あの時も結局のところジェットレディに助けてもらったんだ」

「そ、そうなんだ」

「アレの強さはケルベロスと同等だと思う」

「同じBランクだもんね......」

「空を飛んでいる分、ケルベロス以上かもしれない」

「で、でも、あんな大きいのがいきなり空に出てきちゃったら、さすがに国家魔術師が気づいてすぐ来てくれるんじゃない?」

 フェエルはそう言ったが、そんなことはロテスコもわかってやっているはずだ。

「な、なんだあれは!?」

「ゼノだ!!」

「巨大魔獣だ!!」

 通りを歩いていた人々もプテラスキングを見上げて仰天した。
 こんな街中でアレが暴れたら、その被害はさっきの魔犬どころじゃない。
 確実に死者が何人も出る。
 何よりまず俺たちが殺されてしまう!
 俺は危機感を爆発させてひたすら頭をフル回転させた。
 なにかこの場を切り抜ける方法はないか、必死に模索していると、不意に黒ずくめの仮面男がロテスコに喋りかけた。
 
「オイおっさん。それは予定外だぞ。さすがに国家魔術師が誰かしら来ちまう」

「これは実験だ。Bランク〔魔改造ゼノ〕のな」

「だったらさっさとやれ」 

「このエトケテラのロテスコ様に命令するな。このガキが」

「オイおっさん。なんならテメェから殺すぞ」

 黒ずくめの仮面男がロテスコに手をかざした。
 その手にはバチバチと電気のような光がほとばしっている。

「お、落ち着け。冗談だよ冗談」

 ロテスコは慌てて手を横に振る。
 それから再びこちらに向き直って、ビシッとステッキを突きつけてきた。

「このロテスコの名に於いて命ずる。プテラスキングよ。あのガキどもに恐怖と絶望を与えてやれ!」

 わずかな間を置き、プテラスキングの眼が危険にギランと光ったかと思うと、その巨大な口がバカァッと開かれた。
 間もなくその口内に、強烈なエネルギーの塊が生成し始められる。
 
「マズイ!みんなすぐに少しでも遠くへ逃げるんだ!」

 俺はそう叫ぶと同時に飛び出した。
 街の人たちを避難させないと!

「みなさん今すぐにここから離れて逃げてください!!」

 もうダメかもしれない。
 俺もみんなも街の人たちも。
 だけど、できる限りは尽くしたい......!

「!!」

 俺は必死にまわりの人たちへ避難を促しながら視界にそれを確認した。
 いきなり道路脇にある木が周囲の建物を覆うように不自然な成長をしたのを。

「フェエルの魔法!?」

 フェエルはそれらの木の一本に剪定バサミを突き刺していた。

「こうすれば瓦礫がれきや破片での被害を減らせると思って!」

「でもお前は...」

「ぼくの気持ちもヤソみんと一緒だよ!ミアちゃんもエマちゃんも」

 俺はハッとして振り向いた。
 ミアは風魔法で、逃げる人たちの背中を押す追い風を発生させていた。
 エマは俺と同じように避難を促していた。

「みんな!」

 こんなことをしていてももう無駄かもしれない。
 だけどやるしかないんだ。
 俺もみんなも、人々を脅威から守る国家魔術師を目指す者として!

「このロテスコ様の邪魔をしたあのヒーロー気取りの娘が悪いんだからな。死ね!」

 ロテスコが叫ぶ。
 直後、プテラスキングの口から巨大なエネルギー弾が街に向けて発射された。
 絶望の閃光が俺たちと街を照らす。
 誰もがもう終わったと思った。
 それはまさしく生と死の狭間。
 もうひとつの閃光が、絶望を斬り裂く。

「〔魔法剣マギラディウス〕」

 それは美しい弧を描き、華麗なまでに凄まじく 風を切って空を疾った。
 プテラスキングから放たれた絶望の閃光は、真っ二つに割れて、霧のように霧散した。

「なっ!?」

 ロテスコの驚声が上がる。
 俺たちの視線は一箇所に集中する。
 突如として現れた美麗なる救世主に。
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