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動乱編
ep157 再会
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すでに空は茜色となっている。
俺たちは何となく解散もできず、ただ駅から遠ざかって歩いていた。
二十分ほど経ったころか、エマが立ち止まった。
「......なんかこのままバイバイするのイヤだし」
エマの言うとおりだった。
だが、あんな事件の後で、未成年の俺たちだけでこのままどこかに遊びに行くのもどうなんだろう。
「でも教頭先生からは早く帰りなさいって言われてるし......」
フェエルの気持ちも俺と同様だった。
「じゃあ、みんなでわたしんちに来る?」
そこへミアが提案してきた。
「確かにそれなら問題なさそうだな」
俺が賛同すると、フェエルもエマも明るく頷いた。
「じゃあ、ミアちゃんちに行こうか」
「ミャーミャーんちでパンパーティーしよっ!」
さっそくエマが嬉しそうにはしゃいだ。
その時だった。
「!?」
刹那、目の前に何かの閃光が疾ったと思ったら、俺たちの視界からエマの姿が消えてしまう。
さらに理解する間もなく畳みかけるように、俺たちの耳に何者かの声が届いた。
「!!」
俺たちは一瞬だけ視線を彷徨わせてから、すぐにその方向へ顔を向けた。
十数メートルほど先の三階建ての建物の屋根の上。
そこに二人の男の姿があった。
俺は目を剥いた。
ひとりは、口を押さえられてもがくエマを抱えた体格の良い黒ずくめの男。仮面を被っているので顔は見えない。
もうひとりは、趣味悪いスーツを着たチョビ髭の男。こっちは顔がわかる。そして、コイツは知っている。
そう。アイツだ!
「エトケテラのロテスコ!」
「ん?お前と会ったことあったかな?」
ロテスコは小首を傾げた。
そうか。コイツが覚えているのは俺ではなくヤソミなんだろう......などと考えた矢先。
「おいお前ら。背の低い、黒髪の、ヒーロー気取りの生意気な女子生徒がいるだろ。前におれの邪魔したヤツだ。そいつはどこだ。お前ら友達だろ?」
ロテスコの口からまさしくヤソミを指すであろう人物のことが言及された。
俺は理解する。
コイツはヤソミに復讐しようと俺たちの前に現れたんだ。
脱獄したことは知っていたけど、まさかこのタイミングで現れるなんて。
いや、そんなことはどうでもいい。
「エマを離せ!」
「この娘をか?だったらあの女を連れてこい」
「今、駅前には国家魔術師が集まっているはずだ。ここでこんなことしてたらまた捕まるんじゃないのか?」
これは駆け引きのセリフじゃない。
実際にそうだと思うからだ。
「わかってないな、ガキは」
ロテスコは髭をいじりながら吐き捨てた。
「どういうことだ?」
「そんなことも計算しないでやっていると思うか?」
「計算?」
「残念ながら、国家魔術師は今ここには来ない」
「なぜ言い切れる......あっ!」
コイツが今、この場所このタイミングなら大丈夫だと確信しているということは......さっきの事件に関係しているのか!?
「とはいえいつまでもとはいかん。さあ早くしろ。あの女はどこだ?」
ロテスコは濁った眼つきで俺たちを見下ろす。
「くそっ。どうすればいいんだ」
「ヤソみん。ぼく、アルマを持ってるよ」
フェエルが囁いた。
俺は首を横に振る。
「ダメだ。フェエルひとりじゃ危険すぎる」
「でも、このままじゃ......」
「わ、わたしも、戦うよ」
ミアも名乗り出てくる。
だが言葉とは裏腹にその声は震えていた。
俺はミアにも首を横に振って見せながら思考を回転させる。
なにか打開策はないだろうか。
今は御新札がないからヤソミにはなろうにもなれない。
いっそ交渉してみるか?
「き、きっと、またジェットレディが駆けつけてくれるよ」
ミアが願うように口にした。
でも、確かにそうだ。
今までそうやって俺は何度もあの人に救われてきた。
「そう...」と俺は言いかけ、はたとする。
今日、ジェットレディはリュケイオンにいないんだ。
「ミアちゃん。たしかジェットレディは......」
フェエルも気づくと、ミアに悲しい視線を送った。
ミアは「あっ」となり、自分の言ったことが希望的観測ですらないことに絶望する。
そうこうしているうちに、ロテスコがしびれを切らしてしまった。
「お前らがそういう態度なら仕方がないな」
ロテスコはステッキを宙にかざした。
すると空中にブゥーンと大きな魔法陣が現れる。
俺は即座にピンと来た。
あれは、大怪鳥プテラスを召喚する気だ!
「エベニーレ!プテラスキング」
案の定、ロテスコの召喚術が発動される。
このとき俺は気づいていなかった。
ロテスコの魔法陣が前回よりも大きかったこと、そしてロテスコが「プテラスキング」と唱えたことを。
俺たちは何となく解散もできず、ただ駅から遠ざかって歩いていた。
二十分ほど経ったころか、エマが立ち止まった。
「......なんかこのままバイバイするのイヤだし」
エマの言うとおりだった。
だが、あんな事件の後で、未成年の俺たちだけでこのままどこかに遊びに行くのもどうなんだろう。
「でも教頭先生からは早く帰りなさいって言われてるし......」
フェエルの気持ちも俺と同様だった。
「じゃあ、みんなでわたしんちに来る?」
そこへミアが提案してきた。
「確かにそれなら問題なさそうだな」
俺が賛同すると、フェエルもエマも明るく頷いた。
「じゃあ、ミアちゃんちに行こうか」
「ミャーミャーんちでパンパーティーしよっ!」
さっそくエマが嬉しそうにはしゃいだ。
その時だった。
「!?」
刹那、目の前に何かの閃光が疾ったと思ったら、俺たちの視界からエマの姿が消えてしまう。
さらに理解する間もなく畳みかけるように、俺たちの耳に何者かの声が届いた。
「!!」
俺たちは一瞬だけ視線を彷徨わせてから、すぐにその方向へ顔を向けた。
十数メートルほど先の三階建ての建物の屋根の上。
そこに二人の男の姿があった。
俺は目を剥いた。
ひとりは、口を押さえられてもがくエマを抱えた体格の良い黒ずくめの男。仮面を被っているので顔は見えない。
もうひとりは、趣味悪いスーツを着たチョビ髭の男。こっちは顔がわかる。そして、コイツは知っている。
そう。アイツだ!
「エトケテラのロテスコ!」
「ん?お前と会ったことあったかな?」
ロテスコは小首を傾げた。
そうか。コイツが覚えているのは俺ではなくヤソミなんだろう......などと考えた矢先。
「おいお前ら。背の低い、黒髪の、ヒーロー気取りの生意気な女子生徒がいるだろ。前におれの邪魔したヤツだ。そいつはどこだ。お前ら友達だろ?」
ロテスコの口からまさしくヤソミを指すであろう人物のことが言及された。
俺は理解する。
コイツはヤソミに復讐しようと俺たちの前に現れたんだ。
脱獄したことは知っていたけど、まさかこのタイミングで現れるなんて。
いや、そんなことはどうでもいい。
「エマを離せ!」
「この娘をか?だったらあの女を連れてこい」
「今、駅前には国家魔術師が集まっているはずだ。ここでこんなことしてたらまた捕まるんじゃないのか?」
これは駆け引きのセリフじゃない。
実際にそうだと思うからだ。
「わかってないな、ガキは」
ロテスコは髭をいじりながら吐き捨てた。
「どういうことだ?」
「そんなことも計算しないでやっていると思うか?」
「計算?」
「残念ながら、国家魔術師は今ここには来ない」
「なぜ言い切れる......あっ!」
コイツが今、この場所このタイミングなら大丈夫だと確信しているということは......さっきの事件に関係しているのか!?
「とはいえいつまでもとはいかん。さあ早くしろ。あの女はどこだ?」
ロテスコは濁った眼つきで俺たちを見下ろす。
「くそっ。どうすればいいんだ」
「ヤソみん。ぼく、アルマを持ってるよ」
フェエルが囁いた。
俺は首を横に振る。
「ダメだ。フェエルひとりじゃ危険すぎる」
「でも、このままじゃ......」
「わ、わたしも、戦うよ」
ミアも名乗り出てくる。
だが言葉とは裏腹にその声は震えていた。
俺はミアにも首を横に振って見せながら思考を回転させる。
なにか打開策はないだろうか。
今は御新札がないからヤソミにはなろうにもなれない。
いっそ交渉してみるか?
「き、きっと、またジェットレディが駆けつけてくれるよ」
ミアが願うように口にした。
でも、確かにそうだ。
今までそうやって俺は何度もあの人に救われてきた。
「そう...」と俺は言いかけ、はたとする。
今日、ジェットレディはリュケイオンにいないんだ。
「ミアちゃん。たしかジェットレディは......」
フェエルも気づくと、ミアに悲しい視線を送った。
ミアは「あっ」となり、自分の言ったことが希望的観測ですらないことに絶望する。
そうこうしているうちに、ロテスコがしびれを切らしてしまった。
「お前らがそういう態度なら仕方がないな」
ロテスコはステッキを宙にかざした。
すると空中にブゥーンと大きな魔法陣が現れる。
俺は即座にピンと来た。
あれは、大怪鳥プテラスを召喚する気だ!
「エベニーレ!プテラスキング」
案の定、ロテスコの召喚術が発動される。
このとき俺は気づいていなかった。
ロテスコの魔法陣が前回よりも大きかったこと、そしてロテスコが「プテラスキング」と唱えたことを。
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