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動乱編
ep120 ライマスの思い
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何秒経っただろうか。
おもむろにライマスは、目を伏せたまま口をひらいた。
「ヤソガミ氏」
俺が視線を向けると、ライマスは顔を起こした。
妙な表情をしている。
「どうした?大丈夫か?」
「ひとつ、言いたいことがある」
「な、なんだよ」
「リア充を見せつけてくるの、止めてくれませんか?」
俺もエマも「は?」となる。
「いきなり何を言って...」
「ヤソガミ氏ぃぃ!!」
「!?」
「ヤソガミ氏がギャルとイチャつくのは構わん!しかし、それを余の眼前で見せつけてくることはないだろう!」
「なんのハナシだよ!」
俺より先にエマがツッコんだ。
頬と耳が紅らいでいる。
「そんなものを見せつけてくるぐらいならヤソミになって可憐な下着姿を見せつけてくれ!」
「やるかぁ!どさくさに紛れて何を言い出すんだ!!」
「そ、それに」
ライマスはおずおずとしながら声を落とした。
「自分のやり方といっても、余にできるのは、絵を描くことだけだから......」
「べつにいいだろ。それで」
エマが食い気味に言う。
「あーしの鏡魔法だって、結局は鏡で写したものを映し出すだけだし。でも、ヤソガミのおかげで水たまりを使った応用技術を発見したりして、この魔法にもまだまだ可能性があるんじゃないかって思った」
「それは、興味深い話ではあると思うが...」
「だーかーら!アンタの絵魔法?にも、まだまだ自分でも気づいていない可能性があるんじゃないかってこと!あーしの言いたいこと、わかった!?」
まるで幼い弟を躾けるお姉ちゃんのようなエマ。
意外な光景だった。
ライマスもライマスで、まさかエマからこんなふうに言われるとは思っていなかったようだ。戸惑いを隠せていない。
しかし、改めて考えてみて思った。
今のライマスにもっとも相応しい言葉をかけてやれる人間は、エマだ。
元特別クラスで、謂わば特異クラスに落ちてきたのが彼女なのだから。
エマ自身、それを理解しているからこそ、そういう役を買って出たんだろう。
いや、それも少し違うか。
今ならわかる。
普段は生意気なギャルだけど、エマは人を思う優しい心を持っている。
「ねえどーなの?返事しろし!」
グイグイと顔を近づけて迫るエマ。
それに対しライマスは、シャイな中学生男子のように赤面して狼狽している。
なんだかんだ容姿は可愛いエマに接近され、内心はまんざらでもないんじゃないか?
なとど穿った見方をしつつ、改めて俺から声をかけるタイミングのような気がした。
「なあ、ライマス」
「な、なんだ、ヤソガミ氏」
「お前の力を、俺に貸してくれ」
ライマスは一歩退がってエマから離れると、気を取り直したように表情を引き締める。
「わかった。余も、できる限りのことをしよう。ただ、ヤソガミ氏にひとつ頼みがある」
「頼み?」
何となく嫌な予感がする。
「この合同魔術演習を乗り切った暁には、寮で一日ヤソミになってくれないか?」
「お、おい、またどさくさに紛れて...」
「ま、待て!最後まで聞いてくれ!一緒にお風呂に入ってくれとも下着姿になってくれとも言わん!」
「本当か?」
「も、もっと簡単なことだ」
「じゃあ、なんだよ?」
「余のことを『おにーちゃん』と呼んでくれるだけでいい」
頭の中で想像してみた。
ヤソミになった俺が、ライマスのことを「おにーちゃん」と呼んでいる光景を。
「お、おえぇぇぇぇ」
「なっ!酷いぞヤソガミ氏!」
「そ、想像上でも、キツかった......」
吐き気を催してうつむく俺に、エマがぽんぽんと肩を叩いてきた。
顔を起こすと、彼女はにへらと笑う。
「それぐらいしてやれば?それでこいつが元気になるならいいんじゃね?」
「ちょっ!お前までなんだよ?」
「ついでにあーしのことも、おねーちゃんって呼んでいーよ?」
エマは悪戯っぽくキャハハと笑った。
まさかエマまでライマスに同調するとは。
もはや万策尽きたか、と溜息をつく俺に、ここまで傍観していた白兎がカラカラと笑い出した。
「もう諦めるんじゃな!」
「ちょっ、イナバまで!」
完全に詰んだ。
ライマスの前では極力ヤソミにはなりたくないと思っていたのに。
おもむろにライマスは、目を伏せたまま口をひらいた。
「ヤソガミ氏」
俺が視線を向けると、ライマスは顔を起こした。
妙な表情をしている。
「どうした?大丈夫か?」
「ひとつ、言いたいことがある」
「な、なんだよ」
「リア充を見せつけてくるの、止めてくれませんか?」
俺もエマも「は?」となる。
「いきなり何を言って...」
「ヤソガミ氏ぃぃ!!」
「!?」
「ヤソガミ氏がギャルとイチャつくのは構わん!しかし、それを余の眼前で見せつけてくることはないだろう!」
「なんのハナシだよ!」
俺より先にエマがツッコんだ。
頬と耳が紅らいでいる。
「そんなものを見せつけてくるぐらいならヤソミになって可憐な下着姿を見せつけてくれ!」
「やるかぁ!どさくさに紛れて何を言い出すんだ!!」
「そ、それに」
ライマスはおずおずとしながら声を落とした。
「自分のやり方といっても、余にできるのは、絵を描くことだけだから......」
「べつにいいだろ。それで」
エマが食い気味に言う。
「あーしの鏡魔法だって、結局は鏡で写したものを映し出すだけだし。でも、ヤソガミのおかげで水たまりを使った応用技術を発見したりして、この魔法にもまだまだ可能性があるんじゃないかって思った」
「それは、興味深い話ではあると思うが...」
「だーかーら!アンタの絵魔法?にも、まだまだ自分でも気づいていない可能性があるんじゃないかってこと!あーしの言いたいこと、わかった!?」
まるで幼い弟を躾けるお姉ちゃんのようなエマ。
意外な光景だった。
ライマスもライマスで、まさかエマからこんなふうに言われるとは思っていなかったようだ。戸惑いを隠せていない。
しかし、改めて考えてみて思った。
今のライマスにもっとも相応しい言葉をかけてやれる人間は、エマだ。
元特別クラスで、謂わば特異クラスに落ちてきたのが彼女なのだから。
エマ自身、それを理解しているからこそ、そういう役を買って出たんだろう。
いや、それも少し違うか。
今ならわかる。
普段は生意気なギャルだけど、エマは人を思う優しい心を持っている。
「ねえどーなの?返事しろし!」
グイグイと顔を近づけて迫るエマ。
それに対しライマスは、シャイな中学生男子のように赤面して狼狽している。
なんだかんだ容姿は可愛いエマに接近され、内心はまんざらでもないんじゃないか?
なとど穿った見方をしつつ、改めて俺から声をかけるタイミングのような気がした。
「なあ、ライマス」
「な、なんだ、ヤソガミ氏」
「お前の力を、俺に貸してくれ」
ライマスは一歩退がってエマから離れると、気を取り直したように表情を引き締める。
「わかった。余も、できる限りのことをしよう。ただ、ヤソガミ氏にひとつ頼みがある」
「頼み?」
何となく嫌な予感がする。
「この合同魔術演習を乗り切った暁には、寮で一日ヤソミになってくれないか?」
「お、おい、またどさくさに紛れて...」
「ま、待て!最後まで聞いてくれ!一緒にお風呂に入ってくれとも下着姿になってくれとも言わん!」
「本当か?」
「も、もっと簡単なことだ」
「じゃあ、なんだよ?」
「余のことを『おにーちゃん』と呼んでくれるだけでいい」
頭の中で想像してみた。
ヤソミになった俺が、ライマスのことを「おにーちゃん」と呼んでいる光景を。
「お、おえぇぇぇぇ」
「なっ!酷いぞヤソガミ氏!」
「そ、想像上でも、キツかった......」
吐き気を催してうつむく俺に、エマがぽんぽんと肩を叩いてきた。
顔を起こすと、彼女はにへらと笑う。
「それぐらいしてやれば?それでこいつが元気になるならいいんじゃね?」
「ちょっ!お前までなんだよ?」
「ついでにあーしのことも、おねーちゃんって呼んでいーよ?」
エマは悪戯っぽくキャハハと笑った。
まさかエマまでライマスに同調するとは。
もはや万策尽きたか、と溜息をつく俺に、ここまで傍観していた白兎がカラカラと笑い出した。
「もう諦めるんじゃな!」
「ちょっ、イナバまで!」
完全に詰んだ。
ライマスの前では極力ヤソミにはなりたくないと思っていたのに。
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