八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった

根上真気

文字の大きさ
上 下
78 / 163
過去と今

ep78 集客アップ魔法大作戦②

しおりを挟む
 *

 噴水のある駅前広場に来た。
 快晴の休日というのもあり、人通りは非常に多い。

「さて、始めるか」

 ヤソミちゃんの合図に、エマちゃんがやや緊張気味に噴水の前で手鏡をかざした。

「うまくいくかな......」

「練習もしたんだしきっと大丈夫だよ」

 フェエルくんが安心させるように微笑んだ。
 噴水のまわりには人工的な小さい池があり、キラキラと鏡のように太陽を反射している。
 そう。鏡のように。

「......よしっ。あーしならできる!」

 覚悟を決めたエマちゃんが、魔法を発動した。

「〔映像共有ミラーリング〕」

 池からパァーッと光が放たれ、宙に大きな映像が映しだされた。
 まるで駅前広場に見えないスクリーンが存在するかのように。

「エマちゃんの鏡魔法に、こんな使い方があるなんで......」

 魔法のスクリーンに投映されたものは......ジェットレディがうちのパンを美味しそうに頬ばる姿。
 これはエマちゃんの能力を応用した、魔法の広告!

「で、できた......」

「エマちゃんスゴイよ!」
 わたしは心底感動した。

「〔映像共有ミラーリング〕は前からできたことだけど、まさか池を利用して鏡魔法ができるなんて思ってもみなかった」

「それもヤソガミくんのアイディアなの?」

「悔しいけど、あいつスゴイよ。だってヤソガミはあーしの映像共有これも知らなかったんだよ?なのにこんなこと思いつくなんてさ」

「そ、そうなんだ。さすがだね」

「昔さ?ジェットレディがインタビューで言っていたこと思い出したよ。優れた魔術師には柔軟な発想が必要だって」

 水を鏡に見立てて鏡魔法を展開する......エマちゃんの鏡魔法の可能性が一気に広がった気がする。
 おそらく鏡のように写す性質の物なら水以外でも可能なはず。

「エマちゃんの魔法...進化したんだね!」

「魔力は相変わらず弱いけどな。今も、かなりしんどい...」

 エマちゃんは辛そうだけど、おかげで駅前にいるたくさんの人々が広告映像に見入っている。
 
「あれ、ジェットレディだよね?」
「パンを旨そうに食べてるよな」
「めちゃめちゃ美味しそうなんだけど」
「どこの店のパンなんだ?」

 ここでヤソミちゃんがわたしたちに次の合図を送ってきた。
 いよいよここからはわたしたちの番。

「まずは、ぼくからだね」

 フェエルくんが葉っぱと剪定せんていバサミを手に持って、ハサミで葉っぱに切れ目を入れた。

「〔零れ桜ケラスス〕」

 フェエルくんの手元から緑色の光が放たれるとともに、一枚の葉っぱが一息のうちに、むくむくと満開の桜の木へと変貌を遂げる。

「ミアちゃん!」

 次はわたしの番。
 パン切り包丁をサッと構える。
 それに合わせてエマちゃんが快活に微笑みかけてきた。

「あーしに遠慮しないで思いっきりやれし」

「えっ」

「魔術演習の授業でも、あーしに遠慮してたし」

「そ、それは」

「ミャーミャーってさ。ずっとあーしに合わせてばっかだったろ?あーしが無理にそうさせていたんだもんな。ホントにゴメン」

 エマちゃんの目はいつになく澄んでいた。

「エマちゃん......」

 ここ最近ですっかり変わったよね。
 ううん、違う。
 これが本来のエマちゃんなんだよね。
 本来の自分を取り戻したんだよね。
 ズルいよ。
 そんなエマちゃんを見せられたら......わたし、もう我慢できない。 

「エマちゃん!わたしね?」

「うん」

「ムカついているんだ」

「うん。そうだよな」

「気がついたらいつの間にか立ち直っていて、前向きになっていて、わたしのこと助けようとまでして......エマちゃんは本当に勝手だよ!」

「ミャーミャー......」

「でもね?今のエマちゃんを見て、わたし気づいたよ」

「??」

「あんなことがあっても立ち直って進んでいくエマちゃんに、嫉妬しているんだ」

「は??」

 エマちゃんは目をいてびっくりする。

「ミャーミャーが?あーしに?」

「うん。それでもうひとつ気づいたんだ」

 まだ面食らっているエマちゃんにわたしはハッキリ言った。

「わたし、エマちゃんに負けたくないんだ。わたしだって、ジェットレディみたいな国家魔術師になりたい」

 わたしの言葉を聞いて、次第にエマちゃんの唇が上がった。

「そっか。じゃあ今度こそ本当に、一緒に目指して頑張るかっ!」

 自然と、反射的に、わたしたちはニカッと快活に笑い合った。
 その瞬間、梅雨が明けるようにモヤモヤとしたものが一気に吹き飛んだ。
 そしてわたしはアルマをぎゅっと強く握り、キッと前を向いた。

「〔あたたかなウェルヌス春風ウェントゥス〕」

 パン切り包丁をびゅんと振り抜く。
 ぶわぁっと暖かな風が巻き上がる。
 満開の桜が震えるように激しく散り乱れる。

「おおお!!」

 大勢の歓声が沸き起こった。
 駅前広場を覆い包むように、桜の花びらが鮮やかに舞い踊る。

「キレイ~!」

 突然の広告映像。
 桜吹雪。
 立て続けに起こるサプライズに目を奪われる人々。

「よし!今だ!」

 絶好のタイミングで大量のチラシを持ったヤソミちゃんが飛び出した。

「キャットレーパン工房ねこパンち!です!!」

 驚異的な身体能力で、ヤソミちゃんは嵐のような疾風迅雷のチラシ配りを展開する。

「ジェットレディが食べているのは当店のパンですぅ!桜吹雪も当店の演出ですぅ!」

 あっという間にそこらへんの人たち全員の手にチラシが行き渡った。
 間もなくエマちゃんが力尽き、広告映像が途絶える。
 桜吹雪もおさまると、にわかに駅前の人々が歩きだした。

「キャットレーパン工房ねこパンち!か。行ってみようかな」
「おいパン買いにいこうぜ」
「ママ~パン食べたい!」
「じゃあ今から行こうね」

 わたしたちは互いに視線を交わし合い、「よし」と微笑み合った。
 だけどほっとしている暇はない。

「ミア!ひと足先に戻れ!店がお客さんでごった返すぞ!」

 ヤソミちゃんの声に、わたしは風の勢いで店に戻っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...