天地天命【本編完結・外伝作成中】

アマリリス

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第五章 彼岸花

懐かしい光景

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 黄虎達が来た翌日、玄華と千玄は先に白龍殿に、明日から北宮へ里帰りをする旨を伝えに行くも、黄理から朝一に黄虎が会いに来て、共に同行すると聞かされる。昨日の話では自分達の一日後だと聞かされていた玄華は、何が起きたのかと思いながらも「一緒に行けるのなら楽しみだわ」その場は取り繕い話を終わらせた。白龍殿を後に、急ぎ千玄と銀龍殿へと向かう。

 驚いた事に、庭園には既に茶菓子が用意され、玄枝が座っていた。
 二人は玄枝に駆け寄り会釈する。
「待っていましたよ、お掛けなさい」
「…はい」
 二人は色々疑問に思いながら腰掛け、玄枝が湯呑みを持つと、二人も緊張しながらいつものように茶を一口飲む。
 玄枝が湯呑みを置いて話しだす。
「昨夜黄虎と朱翔と話をしました」
 玄華は横目でちらっと千玄と見合わせ、微笑みながら尋ねる。
「お二人に会われたのですね?」
「北宮へ参ると聞いて、行くのをやめさせました」
「……」
「……」
 訳が分からず玄枝を見つめる。
「二人共ここに残ります」
「…あっ明日私達と共に同行すると、先程黄理からお聞きしましたが…」
 玄枝が茶を一口飲んで話す。
「玄一と玄七があの二人として共に同行します。こちらとしてもその方が都合が良いのです。長年郷へ帰らせていた者をまた戻したと噂が立たないよう、共に同行させ帰したことにします」
 玄華と千玄は視線を合わせ頷く。
「…わかりました、その間二人は…?」
「あの子の殿で隠れさせます」
 玄華は一瞬止まり沈んだ声で尋ねる。
「…黄虎は、辛くないでしょうか?」
「玄華、甘やかしては黄虎のためになりませんよ。黄虎にはこれから起こる事への心構えが必要です。あなたもです、わかりますか?」
 玄枝は時に厳しく、時に優しく、必要に応じて使い分けている。玄華に「黄虎は私に任せて、あなたはすべきことをしなさい」そう言っているのだ。
「はい、義母上」
「朱翔から少し聞いていると思いますが、昨夜色々明白になった事もあります。私も色々覚悟をしなければならないでしょう… 玄一も話の場にいたので、明日ここを出てから聞いて下さい。道中あの子のことも、二人から色々聞いてみると良いでしょう」
 玄一と玄七が戻ってきてから、玄華は一度も会っていない。二人からやっと話が聞ける嬉しさで、机の下で足先をぱたぱたと動かした。
「はい、ありがとうございます」
「長い間二人に会わせてあげれなくてごめんなさいね、長年の神足通で回復に時間が掛かってしまって…」
「いいえ、構いません」
 玄枝が悪戯に微笑んで尋ねる。
「朱翔にあの子のことを話したのですか?」
「あっ、はい…」
 玄華は舌をぺろっと出し目を細める。
 玄枝が笑ながら言う。
「彼の策に嵌りましたね」
「はい、私が動揺してしまい、取り繕えませんでした」
「あの子やり方で話を聞いたのなら、あなたには辛かったでしょう。でも今回はあなたにとって、良い薬になりましたね」
「はい」
 玄華は苦笑いする。
「あの子には私から薬を出しましたので、あなたに申し訳ない事をしたと思っているでしょう」
「そんな、彼のお陰で私も学べましたから」
 玄華と千玄は見合わせて微笑む。玄枝に薬を出されたのなら、朱翔の方が痛い思いをしたのだろうと、玄華は朱翔の落ち込んだ顔を想像した。
 玄枝がお茶を一口飲み、庭園の景色を眺めながら言う。
「何やら若者達が、皆で仲良く宝探しをしているようなので、私も少しお手伝いがしたくなりました」
 久々に見る玄枝の楽しそうな表情に、玄華と千玄は嬉しくなる。
「黄虎は皆を元気にしてくれる子です」
 玄枝は玄華に微笑みながら頷く。
「そうですね。あなたがあの子に目をかける気持ちが、良くわかるわ」
 黄虎と朱翔と接した事で玄枝は何かを感じたのか、とても穏やかな顔をしていた。
「玄華、千玄気をつけて行きなさい」
「はい、義母上」
 今日はいつもの緊張したお茶会とは違い、玄華は黄一と婚姻した当初を思い出した。慣れない中央宮で玄枝が気に掛け、よくこうして話をしていたあの頃を。
「あの子達を宜しくお願いします」
 玄華と千玄は頭を下げ自殿へと帰った。

 二人が帰った後、玄枝は一人座ったまま遠くの景色を眺めていた。
 玄一が近寄り話しかける。
「玄枝様、玄華様に全てお話して宜しいのですか?」
「構いません…」
「いかがされましたか?」
「気がかりなのは彼女です。彼女の契約の願いは恐らくあの子の死… それならばあの子が死んだ時に、彼女は取り込まれていたはずです」
 玄枝は机に肘を突き顳顬を指で押す。
「彼のお陰で、霊魂を喰われずに済んだからでは?」
「私もそう思いますが…」
「何か気になる事でも?」
「昨夜のあの二人の反応を見て、あなた何か気付きませんでしたか?」
 玄一は眉間に皺を寄せ思い返すが、首を傾げて言う。
「…いえ、私は何も」
 玄枝はやはりと思い話しだす。
「玄武家の者からすれば、知っていて当然の内容だから気付かないのでしょう。妖魔が血の味を覚える事については、繰り返されれば誰でも直ぐに気付きます。妖怪は元々雑食、妖魔は人を襲わないと思っていても、時に人の血肉の味を覚えた場合、襲う可能性があると思うでしょう… しかし邪術や契約の方法は、他神家の者は知る由もありません。怨霊はとてもずる賢い… もし彼女が契約の方法を知らずに結んでいたとしたら、事が起きた代償を背負っている可能性もあります」
 玄一は眉をひそめる。
「そっそれは、あの方は命を奪うつもりはなかったと? 玄枝様っ、お庇いになるのですかっ?」
 玄枝は顔を横に振り微笑んで言う。
「いいえ、関与している事実を庇うことはできません。ただ… 教えてくれたのは黄虎です」
「黄虎様が…ですか?」
「彼女の罪が明白になっても、殺すようなことをする人ではないと、昨夜私に目で訴えていました。彼女がやったと仮定すれば、全て繋がるのは黄虎も分かっています。だからこそ黄虎の望みを視野に入れると、今の内容が一つの可能性として見えてきたのです。それなら彼女の願いは、あの子の死ではなくなるのです」
「……だとしてもっ、私はっ」
 玄枝は憤りを隠せない玄一の手を取る。
「玄一、決めつけてはなりませんよ。どちらにせよ、怨霊があの子を狙っている事実は今も変わりません…」
「はい…」
 玄一の手を優しく包んで言う。
「久々にあの子とも会えます。あの子をお願いね」
「はい、玄枝様」
 そう言って、玄枝は微笑んで玄一の手を離し、お茶を一口飲んでまた遠くの景色を眺めた。
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