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第三章 母子草
友の涙
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玄華と千玄は、銀龍殿を出て自殿に戻ってきた。
千玄は部屋に入るなり尋ねる。
「玄華様、先程の玄枝様のお話はいったい…」
「千玄これは私の推測だけど、義母上には黄一の前に、もう一人お子がいたかもしれないわ」
「それは黄一様はご存じでっ?」
「いいえ、知らなかったと思うわ」
「では何故、そうだと思われたのですか?」
「私も詳しくは分からないけど、時々真夜中にね、お一人で墓所へ行かれているみたいなの… 黄一や義父上の墓所なら、わざわざ真夜中に行かないわ…」
「そのこと玄枝様には?」
玄華は顔を横に振って言う。
「だからあなたも、この事には触れないでね」
「承知しました」
千玄が思い出したかのように言う。
「そういえば玄華様、黄星様が亡くなられた二年後に、黄龍家の者の転生を感知されておりませんでしたか?」
「えぇでもあれから二十年近く経っているのに、存在が何処にもないのよ?」
言いながら首を傾げる玄華に、千玄は目で訴えて頷く。
「義母上の最初のお子だと…?」
「はい、九虎様の側室入りは、玄枝様の最初の子が亡くなられた後なのでは?」
「子を亡くされた事で、何かあったのかしら? でも義母上には聞けないわ…」
「そうですね…」
千玄は腕を組み瞬きをしながら首を傾げ、玄華はぷくっと膨らました頬を、指でとんとん小突きながら聞ける者を探す。黄龍殿の侍女達に当時の事を知っている者が居たとしても、それを探し回っていると知られては困る。かといって、玄一や玄七には今は聞けない。聞いた所で話すかもわからない。
玄華ははっとして指を止める。
「朱音様ならっ、当時の事をご存じかもしれないわ!」
「そういえばお二人は友であります! では近々壁宿へ里帰りされては?」
「そうね! 久し振りに玄音にも会いたいわ!」
玄華と千玄は表情を明るくさせ、ぴょんぴょん飛び跳ねる。
「玄音もきっと喜びます!」
「そうね! あっ……コホン、先に黄怜の様子を待ちましょう、義母上にも焦りは禁物と言われたばかりなのに…」
「…そうでした」
玄華は舌を出し頭をコツンと軽く拳で叩き、千玄も苦笑いで頷く。
「玄華様、霊魂での転生なら女子のはずでは? 何故に男子なのでしょうか?」
「義母上でも分からないのであれば、志瑞也に直接聞くしか…志瑞…也」
「玄華様…」
二人は手を取り合う。
「千玄ありがとう…」
「いいえ…」
「志瑞也は…私を覚えているかしら?」
「きっと、覚えているかと…」
「優しくて…良い子で、淋しがり屋で…泣き虫… 家族思い…私の子… 黄怜…うううっ…」
玄華は千玄に抱きついた。二十三年の時を待ち続け、その言葉を玄華がどれ程待ち侘びていたか、この世に生きている存在を感じられた瞬間だった。
「玄華様よく…お耐えになりました…」
千玄もまた夫と子を亡くし、悲しみに耐える玄華を見守り続けていたのだ。
「玄華様、ぐすっ…まだこれからですよ」
「えぇ…ぐすっ、あの時のように、もうあの子を失わないわ」
玄華は涙を拭って頷く。
「まだ不明なことが多いので、慎重になさって下さい」
「えぇ、ありがとう千玄…」
「はい…」
暫くして東宮領域で妖魔が災厄を起こし、蒼龍家で事を落着できたと通達が入った。だが、体調が回復した黄理が責務に戻った矢先、南宮領域の軫宿、翼宿、張宿で同時に妖魔が災厄を起こし、統括している朱雀家だけでは人手が足りないと黄理に速達が届いた。黄理は急ぎ白虎家と蒼龍家に応援要請を出した。その三領域が東宮領域に近いことから玄枝、玄華、千玄は不安を抱えたのだった。
黄理からの要請であれば、第二宗主蒼凰か蒼万が南宮領域へ向かうはずだ。もしそれが蒼万なら、黄怜の側から離れてしまうのでは。玄華は不安から顔を取り繕うことができず、自室に籠りきっていた。千玄はその様子を見兼ねて、少しでも外に出るよう勧める。他の侍女達も心配していると分かり、玄華は気を紛らわそうと自殿の庭園を散策していた。
千玄が走ってきた。
「玄華様!」
「千玄どうしたの?」
「黄虎様がお見えです」
「黄虎が?」
「玄華様は体調が優れぬことになっておりますので、お見舞いにいらしたようです」
「まぁわざわざ」
言いながら、玄華は強張った顔を温めるため頬を捏ねた。
その様子に千玄は微笑んで言う。
「茶菓子を用意して、庭園でお待ちいただいております」
「わかったわ」
玄華は黄虎の元へ急足で向かった。
千玄は部屋に入るなり尋ねる。
「玄華様、先程の玄枝様のお話はいったい…」
「千玄これは私の推測だけど、義母上には黄一の前に、もう一人お子がいたかもしれないわ」
「それは黄一様はご存じでっ?」
「いいえ、知らなかったと思うわ」
「では何故、そうだと思われたのですか?」
「私も詳しくは分からないけど、時々真夜中にね、お一人で墓所へ行かれているみたいなの… 黄一や義父上の墓所なら、わざわざ真夜中に行かないわ…」
「そのこと玄枝様には?」
玄華は顔を横に振って言う。
「だからあなたも、この事には触れないでね」
「承知しました」
千玄が思い出したかのように言う。
「そういえば玄華様、黄星様が亡くなられた二年後に、黄龍家の者の転生を感知されておりませんでしたか?」
「えぇでもあれから二十年近く経っているのに、存在が何処にもないのよ?」
言いながら首を傾げる玄華に、千玄は目で訴えて頷く。
「義母上の最初のお子だと…?」
「はい、九虎様の側室入りは、玄枝様の最初の子が亡くなられた後なのでは?」
「子を亡くされた事で、何かあったのかしら? でも義母上には聞けないわ…」
「そうですね…」
千玄は腕を組み瞬きをしながら首を傾げ、玄華はぷくっと膨らました頬を、指でとんとん小突きながら聞ける者を探す。黄龍殿の侍女達に当時の事を知っている者が居たとしても、それを探し回っていると知られては困る。かといって、玄一や玄七には今は聞けない。聞いた所で話すかもわからない。
玄華ははっとして指を止める。
「朱音様ならっ、当時の事をご存じかもしれないわ!」
「そういえばお二人は友であります! では近々壁宿へ里帰りされては?」
「そうね! 久し振りに玄音にも会いたいわ!」
玄華と千玄は表情を明るくさせ、ぴょんぴょん飛び跳ねる。
「玄音もきっと喜びます!」
「そうね! あっ……コホン、先に黄怜の様子を待ちましょう、義母上にも焦りは禁物と言われたばかりなのに…」
「…そうでした」
玄華は舌を出し頭をコツンと軽く拳で叩き、千玄も苦笑いで頷く。
「玄華様、霊魂での転生なら女子のはずでは? 何故に男子なのでしょうか?」
「義母上でも分からないのであれば、志瑞也に直接聞くしか…志瑞…也」
「玄華様…」
二人は手を取り合う。
「千玄ありがとう…」
「いいえ…」
「志瑞也は…私を覚えているかしら?」
「きっと、覚えているかと…」
「優しくて…良い子で、淋しがり屋で…泣き虫… 家族思い…私の子… 黄怜…うううっ…」
玄華は千玄に抱きついた。二十三年の時を待ち続け、その言葉を玄華がどれ程待ち侘びていたか、この世に生きている存在を感じられた瞬間だった。
「玄華様よく…お耐えになりました…」
千玄もまた夫と子を亡くし、悲しみに耐える玄華を見守り続けていたのだ。
「玄華様、ぐすっ…まだこれからですよ」
「えぇ…ぐすっ、あの時のように、もうあの子を失わないわ」
玄華は涙を拭って頷く。
「まだ不明なことが多いので、慎重になさって下さい」
「えぇ、ありがとう千玄…」
「はい…」
暫くして東宮領域で妖魔が災厄を起こし、蒼龍家で事を落着できたと通達が入った。だが、体調が回復した黄理が責務に戻った矢先、南宮領域の軫宿、翼宿、張宿で同時に妖魔が災厄を起こし、統括している朱雀家だけでは人手が足りないと黄理に速達が届いた。黄理は急ぎ白虎家と蒼龍家に応援要請を出した。その三領域が東宮領域に近いことから玄枝、玄華、千玄は不安を抱えたのだった。
黄理からの要請であれば、第二宗主蒼凰か蒼万が南宮領域へ向かうはずだ。もしそれが蒼万なら、黄怜の側から離れてしまうのでは。玄華は不安から顔を取り繕うことができず、自室に籠りきっていた。千玄はその様子を見兼ねて、少しでも外に出るよう勧める。他の侍女達も心配していると分かり、玄華は気を紛らわそうと自殿の庭園を散策していた。
千玄が走ってきた。
「玄華様!」
「千玄どうしたの?」
「黄虎様がお見えです」
「黄虎が?」
「玄華様は体調が優れぬことになっておりますので、お見舞いにいらしたようです」
「まぁわざわざ」
言いながら、玄華は強張った顔を温めるため頬を捏ねた。
その様子に千玄は微笑んで言う。
「茶菓子を用意して、庭園でお待ちいただいております」
「わかったわ」
玄華は黄虎の元へ急足で向かった。
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