天地天命【本編完結・外伝作成中】

アマリリス

文字の大きさ
37 / 164
第三章 母子草

友の涙

しおりを挟む
 玄華と千玄は、銀龍殿を出て自殿に戻ってきた。
 千玄は部屋に入るなり尋ねる。
「玄華様、先程の玄枝様のお話はいったい…」
「千玄これは私の推測だけど、義母上には黄一の前に、もう一人お子がいたかもしれないわ」
「それは黄一様はご存じでっ?」
「いいえ、知らなかったと思うわ」
「では何故、そうだと思われたのですか?」
「私も詳しくは分からないけど、時々真夜中にね、お一人で墓所へ行かれているみたいなの… 黄一や義父上の墓所なら、わざわざ真夜中に行かないわ…」
「そのこと玄枝様には?」
 玄華は顔を横に振って言う。
「だからあなたも、この事には触れないでね」
「承知しました」
 千玄が思い出したかのように言う。
「そういえば玄華様、黄星様が亡くなられた二年後に、黄龍家の者の転生を感知されておりませんでしたか?」
「えぇでもあれから二十年近く経っているのに、存在が何処にもないのよ?」
 言いながら首を傾げる玄華に、千玄は目で訴えて頷く。
「義母上の最初のお子だと…?」
「はい、九虎様の側室入りは、玄枝様の最初の子が亡くなられた後なのでは?」
「子を亡くされた事で、何かあったのかしら? でも義母上には聞けないわ…」
「そうですね…」
 千玄は腕を組み瞬きをしながら首を傾げ、玄華はぷくっと膨らました頬を、指でとんとん小突きながら聞ける者を探す。黄龍殿の侍女達に当時の事を知っている者が居たとしても、それを探し回っていると知られては困る。かといって、玄一や玄七には今は聞けない。聞いた所で話すかもわからない。
 玄華ははっとして指を止める。
朱音しゅおん様ならっ、当時の事をご存じかもしれないわ!」
「そういえばお二人は友であります! では近々壁宿へ里帰りされては?」
「そうね! 久し振りに玄音にも会いたいわ!」
 玄華と千玄は表情を明るくさせ、ぴょんぴょん飛び跳ねる。
「玄音もきっと喜びます!」
「そうね! あっ……コホン、先に黄怜の様子を待ちましょう、義母上にも焦りは禁物と言われたばかりなのに…」
「…そうでした」
 玄華は舌を出し頭をコツンと軽く拳で叩き、千玄も苦笑いで頷く。
「玄華様、霊魂での転生なら女子のはずでは? 何故に男子なのでしょうか?」
「義母上でも分からないのであれば、志瑞也に直接聞くしか…志瑞…也」
「玄華様…」
 二人は手を取り合う。
「千玄ありがとう…」
「いいえ…」
「志瑞也は…私を覚えているかしら?」
「きっと、覚えているかと…」
「優しくて…良い子で、淋しがり屋で…泣き虫… 家族思い…私の子… 黄怜…うううっ…」
 玄華は千玄に抱きついた。二十三年の時を待ち続け、その言葉を玄華がどれ程待ち侘びていたか、この世に生きている存在を感じられた瞬間だった。
「玄華様よく…お耐えになりました…」
 千玄もまた夫と子を亡くし、悲しみに耐える玄華を見守り続けていたのだ。
「玄華様、ぐすっ…まだこれからですよ」
「えぇ…ぐすっ、あの時のように、もうあの子を失わないわ」
 玄華は涙を拭って頷く。
「まだ不明なことが多いので、慎重になさって下さい」
「えぇ、ありがとう千玄…」
「はい…」

 暫くして東宮領域で妖魔が災厄を起こし、蒼龍家で事を落着できたと通達が入った。だが、体調が回復した黄理が責務に戻った矢先、南宮領域の軫宿しんしゅく翼宿よくしゅく張宿ちょうしゅくで同時に妖魔が災厄を起こし、統括している朱雀家だけでは人手が足りないと黄理に速達が届いた。黄理は急ぎ白虎家と蒼龍家に応援要請を出した。その三領域が東宮領域に近いことから玄枝、玄華、千玄は不安を抱えたのだった。

 黄理からの要請であれば、第二宗主蒼凰か蒼万が南宮領域へ向かうはずだ。もしそれが蒼万なら、黄怜の側から離れてしまうのでは。玄華は不安から顔を取り繕うことができず、自室に籠りきっていた。千玄はその様子を見兼ねて、少しでも外に出るよう勧める。他の侍女達も心配していると分かり、玄華は気を紛らわそうと自殿の庭園を散策していた。
 千玄が走ってきた。
「玄華様!」
「千玄どうしたの?」
「黄虎様がお見えです」
「黄虎が?」
「玄華様は体調が優れぬことになっておりますので、お見舞いにいらしたようです」
「まぁわざわざ」
 言いながら、玄華は強張った顔を温めるため頬を捏ねた。
 その様子に千玄は微笑んで言う。
「茶菓子を用意して、庭園でお待ちいただいております」
「わかったわ」
 玄華は黄虎の元へ急足で向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

【完結】禁断の忠誠

海野雫
BL
王太子暗殺を阻止したのは、ひとりの宦官だった――。 蒼嶺国――龍の血を継ぐ王家が治めるこの国は、今まさに権力の渦中にあった。 病に伏す国王、その隙を狙う宰相派の野心。玉座をめぐる見えぬ刃は、王太子・景耀の命を狙っていた。 そんな宮廷に、一人の宦官・凌雪が送り込まれる。 幼い頃に売られ、冷たい石造りの宮殿で静かに生きてきた彼は、ひっそりとその才覚を磨き続けてきた。 ある夜、王太子を狙った毒杯の罠をいち早く見破り、自ら命を賭してそれを阻止する。 その行動をきっかけに、二人の運命の歯車が大きく動き始める――。 宰相派の陰謀、王家に渦巻く疑念と忠誠、そして宮廷の奥深くに潜む暗殺の影。 互いを信じきれないまま始まった二人の主従関係は、やがて禁じられた想いと忠誠のはざまで揺れ動いていく。 己を捨てて殿下を守ろうとする凌雪と、玉座を背負う者として冷徹であろうとする景耀。 宮廷を覆う陰謀の嵐の中で、二人が交わした契約は――果たして主従のものか、それとも……。

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

あなたの隣で初めての恋を知る

彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

処理中です...