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一番可愛いあなたへ 2
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店内に入るとすぐにピンクのメイドに案内された。この服装にちょっとした落ち着きを感じる。無意識に第二の家だと認識していたらしい。八月の後半に来店して、もう間もなく一ヶ月なのだから、時間の濃厚さと過ぎる早さを痛感する。
カウンター向こうから差し出されたオムライスは、オムレツを割るタイプのものだった。『今日もシようね』と書かれた落書きに、下腹部の奥がじんと痺れた。俺のすべてが、めいくんを求めてしまっていた。
「ご主人クン、お返事は?」
ナイフを手渡されて、文字を避けるように表面を切った。とろとろの卵がアンバランスに崩れ、ケチャップライスを覆っていく。
「……いい、よ」
「もう期待してる~! うんうん、寝ないようにいっぱい食べてね」
めいくんは俺からナイフを奪い、代わりにスプーンを手に持たせた。早く食べろ、と視線で言われ、一口分掬う。舌触りの良い黄身の触感に、優しい味付けのケチャップライスの組み合わせすら、彼なりの献身の現れのように感じた。
「美味しい。めいくんの手料理、好きだよ」
褒めるにしては、ずいぶん重みのある言葉になっていた。自分の好意を伝えるのは手こずっている分、そこにすべての想いを託す。
「ご主人クンのために作ってあげてるんだから、当然でしょ」
どうやら気付かれずに済んだみたいだ。いつもの自信満々な表情に安堵して、同時に落胆もする。
俺はどうしたいんだろう。初めての恋愛に、勝手が分からない。
「お弁当は美味しかった?」
「美味しかったよ。朝言われた通りで、量もちょうど良かった」
「少しずつ量を増やして、胃袋おっきくしようね~」
にこにこと微笑む彼を撫でようとして、スプーンが宙に浮いた。そうだ、今は食事中で、しかも人前だ。俺はいつから、こんな大胆になってしまったんだろう。
軌道修正をして、オムライスをまた口に運んだ。やっぱり、めいくんの作ってくれた食事は美味しい。
家に着くなり、めいくんはピンクのキーケースを取り出した。有名ブランドのロゴが入っているそれは、落ち着いた柔らかな色合いで、中に鍵は一本しかない。
視線に気付いてかあざとく顔横へ持って行った。
「ご主人クン用のキーケースだよ……!」
俺とめいくんの自宅の鍵は、分けられているのだろうか。互いの間にある埋まることのない溝を感じて、一人がっかりした。
「うん、嬉しいよ」
「嬉しくなさそう……」
「え、いや、そんなことは」
言い訳をする前に合い鍵を乱暴に差し込み、部屋の中へ入っていった。黒のエナメル靴は感情を表すように、左右が揃えられていない。後から直そうと、隅の方に脱ぎ捨てて、その背中を追いかける。
「きっと、何かおれに黙っていることがあるのね」
ベッドの上に腰を掛けて、めいくんは床を指で示した。
「シスターめいくんが、懺悔を聞いてあげる」
座れ、と暗に命令されていた。垂れ目は怪しく輝いており、彼に変えられた身体は大人しくその指示に従ってしまう。
正座で彼の姿を見上げた。白と黒のシンプルなシスター服は膝ほどの丈で、白の薄いニーハイと合わせるとぱっと見は禁欲的な雰囲気がある。喉元の黒いリボンは、帰る前にりっちゃんさんに調整してもらっていたのが、妬けた。俺にもそれくらい出来ると、主張したくなってしまった。そんな傲慢な思いが、自分のために可愛くいてくれる喜びより勝ってしまっている。
彼は足を組んで、俺を見下す。スカートは揺れ動き、筋肉質な白い太股が晒された。
「えっち」
あざ笑って、目元を緩める。到底シスターとは思えない、いやらしい雰囲気にくらっと来た。
「ほら、懺悔して」
そう言われても、と話題を探して、昼間の件に思い当たった。
「前に、お酒の話をしたよね」
「そうね」
表情に、何の変化もない。
「俺が弟だと思い込んでたのって、めいくん?」
聞いた瞬間に、素早く顔が背けられた。赤茶から出ている耳は赤く、ピアスが熱されてしまいそうなほどだった。
「……覚えてたんだ」
「断片的には、ね」
今は嘘をついた方が得策だと思った。本当は顔も思い出せないほどに記憶はないけど、情報を引き出すなら乗っかった方がいい。
う~、と小さく呻いて、それからちらっと一度こちらに向き直り、また逸らされる。
「やだ、思い出さないで。私服のおれ、可愛くなかったらどうしよう……」
「どんなめいくんも、可愛いよ」
可愛い、しか伝えられない自分がもどかしかった。
「……ど、どれくらい?」
期待するように、ちらちらとこちらを見ている。これ、酔っているときの俺が何か言ったのかな、それとも単に試されているだけなのかな……。
前までは妹や弟に重ねていたけれど、もうこの子は自分にとって特別な存在だ。
「俺にとって、めいくんが一番可愛いよ」
こんな言い方だって、前の自分では恥ずかしかっただろうし、言わされているように感じていただろう。でも、これは間違いなく自分の意志で、伝えたくてしょうがない。
めいくんはようやくこっちを見て、無邪気に微笑んだ。
「……有クンは、いつもおれの欲しいものをくれるのね。じゃあ、本当に約束守ってくれるんだ!」
「やく、そく……?」
「うん、やくそく! 覚えてるんでしょ?」
これは、忘れてないよな、と脅されてる。曖昧に頷けば、やっぱり、と嬉しそうに身体を揺らし始めた。完全に言い出せない雰囲気になってきた。
「もしも破ったら、ちゃんと報いを受けてね」
恐ろしい言葉を、音を弾ませて発された。ご褒美がもらえるとわくわくしている子どものような姿に、彼に拡張されつつある胃が痛む。
酔った俺は、何を約束したんだ!
本人は上機嫌に、おいで、と俺を手招きした。混乱から動けずにいれば、早く早くと急かし初め、訳が分からないまま指示に従う。
組んでいた足が解かれ、その隙間に入るように誘導された。
「シスターめいくんから、赦しを与えま~す」
禁欲的な白いニーハイが股間の間に落とされた。そのまま指先に柔く引っかかれ、無意識に腰が揺れた。布越しの物足りない感覚がじわじわと蓄積していくのが、もどかしい。
見上げれば、心を読んだかのようにもう片足が中心の輪郭をなぞった。五本の指が沿うよう上下したり、それぞれがからかうように掻いたりと、熱が上る手助けをしている。
でも、足りない。
「懺悔はおしまい? これだけでいいの?」
口を開いた瞬間に、親指が先端をぴんと弾いた。
「ぁあっ……! め、めいくん、直接、触れてほしっ」
「素直ね~。いいよ、赦しを与えてあげる。見ててあげるから脱いで。座ったまま、情けなく赦しを請うの」
軽く踏んで、両足が離れた。威圧的に足を組み、こちらの一挙一動を監視している。羞恥心がくべられて、下腹部の良くない熱は強くなっていく。視線が突き刺さることすら快感に変わっていて、自分の手の震えが恥じらいからなのか興奮からなのか、分からなくなっていた。
「あはは、ご主人クンはベルトを外すのも下手ね~。おれにお世話されて、自立力がなくなったのかな。そんなご主人クンも、手が掛かって可愛い!」
焦らせるような言い回しを選んでいるのは、彼の声色で分かった。外れないもどかしさが、欲望を更に高めていく。
ようやく外せて顔を上げれば、ねっとりとした視線とかち合った。身体の内側から痺れが沸き上がり、波打つように広がっていく。
年下の、しかも自分が好きだと自覚している相手に、こんな哀れな姿を晒している。見られたくないけど、じっくりと見ていて欲しい。
身体を引いて、見せつけるようにチャックを降ろした。中途半端なところまでスラックスを下げて、パンツのゴムに手を掛ける。彼から視線を逸らせないまま下にずらせば、押さえつけられた反動から陰茎がお腹に当たった。
「ふ、触れて、くださいっ」
「赦しましょ~!」
両足は先端を包み、指も使って揉み上げた。先走りが潤滑油になり、ぬちゃぬちゃと音を立てている。快楽に溶かされてしまいそうなのに、何故か射精にはほど遠く、ずっと強い刺激だけが与えられている。絶頂を求めて腰を振るのを止めれなかった。
「いつにも増して必死で可愛い! どう、気持ち言い?」
「きもち、いっ、けどっ!」
「おれの足だけでも楽しいみたいね~。寂しいから、罰も与えま~す」
「えっ、そん、あぁっ、えっ……!?」
先端を擦る速度が上がり、飛び散るように快楽が弾けた。
「ぁあー……!」
足を押し上げるようにしょわっと吹き上がり、背骨が抜かれるような脱力感に襲われる。射精にも、この間の我慢させられたときにも、どちらにも似ている激しい快感が駆け抜けた。快楽に耐えきれず、足には変な力が籠もり、めいくんの足裏にすり寄った。陰茎は未だ立ち上がったままで、媚びるように擦ると、残っていたものがまた吹き上がって、彼も床も汚した。
息は整えられず、ただ快楽を必死に貪っている。
「ごめ、なさっ、ひとりでっ」
「寂しいな~」
俺を責めていたものが透明な液体の上に落ち、水音を立てた。絶頂の証に羞恥心が沸き、まだ触れられていない胎内が疼く。
長い指先が、形の良い唇をなぞった。
「ご主人クンだけ気持ち良くなって、暇で寂しいおれを慰めて?」
シスター服の上を這うように身体を持ち上げ、唇を重ねた。俺が落ちないように抱き寄せられ、そのまま舌を絡め合った。片手を背中に回し、混じり合いを深めていく。音を立てるたびに、互いが触れるたびに、彼の存在を強く感じた。
視界の端で、ピアスが揺れていた。空いていた手を伸ばして、いくつものアクセサリーに彩られた耳の縁を撫でた。驚いて離れようとする彼に必死に食らいつけば、動きがぎこちないながらも、俺の行動を許容される。
ほんのり熱い金属の上を、指の腹が滑っていく。皮膚に触れるとぴくっと震え、恨めしそうにこちらを睨んでいた。穴とピアスの境界を探れば耐えきれなくなったのか、舌を緩く噛まれる。
向かい合うと、垂れ目は怒りから釣り上がっていたが、怖いとはまったく思えなかった。
「……触らないで」
ふん、と顔を逸らされ、目の前に現れた愛おしい曲線にそっと唇を落とした。
「触らないでって言った!」
子どもっぽい言い回しで怒られた。胸に沸く愛おしさが、彼にまでバレてしまいそうだった。
言葉で伝えるのを諦めたのか、荒々しく唇を塞がれる。口内を蹂躙し気が済んだのか、むすっとしながら離れていく。
「……なんで触ったの?」
「理由を言っても、怒らない?」
「もう怒ってる」
頑張って精一杯睨みつけているようだが、照れに負けた彼の表情はこちらに何も伝えれていなかった。拗ねる物言いに嫌だったわけではないと直感し、素直な気持ちを伝えた。
「めいくんの私服って、シンプルだったでしょ」
「その話しないで」
「あの姿のめいくんも、違う可愛い一面が見れて好きだよ。だから、本来の君の趣味なのかな、って思ったら、ピアスの一つひとつが愛おしくて、触っちゃった。本当に嫌だったら、もう触れないから」
めいくんは俺の言葉を咀嚼するように、自分の耳に触れた。目が泳いで、それから拗ねていたことを忘れたように柔く笑みを浮かべた。
「たまになら、いいよ。許してあげる」
「ありがとう、めいくん」
「……もっと触っていいよ」
小さく呟いて、耳を掴み広げた。包むように手を重ね、親指の腹でそっと撫でる。ん、と漏らし、もっとと強請っていた。
「有クンだけ、特別」
無防備な姿を、俺にだけ見せてくれている。唇が、勝手に思いを音に乗せた。
「好きだよ、めいくん」
言葉に反応して、頭の重みが押しつけられた。うっとりとこちらを見て、すり寄られる。
「おれも、あ、有クンのこと、好き! えへへ、こう言うと、ちゃんと嬉しいのね」
ちゃんと、嬉しいのね……?
「これから、もっと好きって言ってあげる! だから有クンも、可愛い、偉い、だけじゃなくて、好きって言ってね」
思わず、手が止まる。前から感じていた、好きの意味の違いを、突きつけられた。めいくんにとっての好きは、コミュニケーションの延長線上にしかないらしかった。
「嬉しいから、有クンのこと、もっと癒してあげる!」
そのままベッドに押し倒され、互いに快楽を貪り合った。気持ちはあの一言に持っていかれたままでも、身体は素直にめいくんを求め、受け入れた。
繋がっている間、俺を覆っているシスター服の胸元のリボンが解けそうになっているのに気付いた。手を伸ばしたけれど、指から端が逃げていき、俺では結び直すことが叶わなかった。
カウンター向こうから差し出されたオムライスは、オムレツを割るタイプのものだった。『今日もシようね』と書かれた落書きに、下腹部の奥がじんと痺れた。俺のすべてが、めいくんを求めてしまっていた。
「ご主人クン、お返事は?」
ナイフを手渡されて、文字を避けるように表面を切った。とろとろの卵がアンバランスに崩れ、ケチャップライスを覆っていく。
「……いい、よ」
「もう期待してる~! うんうん、寝ないようにいっぱい食べてね」
めいくんは俺からナイフを奪い、代わりにスプーンを手に持たせた。早く食べろ、と視線で言われ、一口分掬う。舌触りの良い黄身の触感に、優しい味付けのケチャップライスの組み合わせすら、彼なりの献身の現れのように感じた。
「美味しい。めいくんの手料理、好きだよ」
褒めるにしては、ずいぶん重みのある言葉になっていた。自分の好意を伝えるのは手こずっている分、そこにすべての想いを託す。
「ご主人クンのために作ってあげてるんだから、当然でしょ」
どうやら気付かれずに済んだみたいだ。いつもの自信満々な表情に安堵して、同時に落胆もする。
俺はどうしたいんだろう。初めての恋愛に、勝手が分からない。
「お弁当は美味しかった?」
「美味しかったよ。朝言われた通りで、量もちょうど良かった」
「少しずつ量を増やして、胃袋おっきくしようね~」
にこにこと微笑む彼を撫でようとして、スプーンが宙に浮いた。そうだ、今は食事中で、しかも人前だ。俺はいつから、こんな大胆になってしまったんだろう。
軌道修正をして、オムライスをまた口に運んだ。やっぱり、めいくんの作ってくれた食事は美味しい。
家に着くなり、めいくんはピンクのキーケースを取り出した。有名ブランドのロゴが入っているそれは、落ち着いた柔らかな色合いで、中に鍵は一本しかない。
視線に気付いてかあざとく顔横へ持って行った。
「ご主人クン用のキーケースだよ……!」
俺とめいくんの自宅の鍵は、分けられているのだろうか。互いの間にある埋まることのない溝を感じて、一人がっかりした。
「うん、嬉しいよ」
「嬉しくなさそう……」
「え、いや、そんなことは」
言い訳をする前に合い鍵を乱暴に差し込み、部屋の中へ入っていった。黒のエナメル靴は感情を表すように、左右が揃えられていない。後から直そうと、隅の方に脱ぎ捨てて、その背中を追いかける。
「きっと、何かおれに黙っていることがあるのね」
ベッドの上に腰を掛けて、めいくんは床を指で示した。
「シスターめいくんが、懺悔を聞いてあげる」
座れ、と暗に命令されていた。垂れ目は怪しく輝いており、彼に変えられた身体は大人しくその指示に従ってしまう。
正座で彼の姿を見上げた。白と黒のシンプルなシスター服は膝ほどの丈で、白の薄いニーハイと合わせるとぱっと見は禁欲的な雰囲気がある。喉元の黒いリボンは、帰る前にりっちゃんさんに調整してもらっていたのが、妬けた。俺にもそれくらい出来ると、主張したくなってしまった。そんな傲慢な思いが、自分のために可愛くいてくれる喜びより勝ってしまっている。
彼は足を組んで、俺を見下す。スカートは揺れ動き、筋肉質な白い太股が晒された。
「えっち」
あざ笑って、目元を緩める。到底シスターとは思えない、いやらしい雰囲気にくらっと来た。
「ほら、懺悔して」
そう言われても、と話題を探して、昼間の件に思い当たった。
「前に、お酒の話をしたよね」
「そうね」
表情に、何の変化もない。
「俺が弟だと思い込んでたのって、めいくん?」
聞いた瞬間に、素早く顔が背けられた。赤茶から出ている耳は赤く、ピアスが熱されてしまいそうなほどだった。
「……覚えてたんだ」
「断片的には、ね」
今は嘘をついた方が得策だと思った。本当は顔も思い出せないほどに記憶はないけど、情報を引き出すなら乗っかった方がいい。
う~、と小さく呻いて、それからちらっと一度こちらに向き直り、また逸らされる。
「やだ、思い出さないで。私服のおれ、可愛くなかったらどうしよう……」
「どんなめいくんも、可愛いよ」
可愛い、しか伝えられない自分がもどかしかった。
「……ど、どれくらい?」
期待するように、ちらちらとこちらを見ている。これ、酔っているときの俺が何か言ったのかな、それとも単に試されているだけなのかな……。
前までは妹や弟に重ねていたけれど、もうこの子は自分にとって特別な存在だ。
「俺にとって、めいくんが一番可愛いよ」
こんな言い方だって、前の自分では恥ずかしかっただろうし、言わされているように感じていただろう。でも、これは間違いなく自分の意志で、伝えたくてしょうがない。
めいくんはようやくこっちを見て、無邪気に微笑んだ。
「……有クンは、いつもおれの欲しいものをくれるのね。じゃあ、本当に約束守ってくれるんだ!」
「やく、そく……?」
「うん、やくそく! 覚えてるんでしょ?」
これは、忘れてないよな、と脅されてる。曖昧に頷けば、やっぱり、と嬉しそうに身体を揺らし始めた。完全に言い出せない雰囲気になってきた。
「もしも破ったら、ちゃんと報いを受けてね」
恐ろしい言葉を、音を弾ませて発された。ご褒美がもらえるとわくわくしている子どものような姿に、彼に拡張されつつある胃が痛む。
酔った俺は、何を約束したんだ!
本人は上機嫌に、おいで、と俺を手招きした。混乱から動けずにいれば、早く早くと急かし初め、訳が分からないまま指示に従う。
組んでいた足が解かれ、その隙間に入るように誘導された。
「シスターめいくんから、赦しを与えま~す」
禁欲的な白いニーハイが股間の間に落とされた。そのまま指先に柔く引っかかれ、無意識に腰が揺れた。布越しの物足りない感覚がじわじわと蓄積していくのが、もどかしい。
見上げれば、心を読んだかのようにもう片足が中心の輪郭をなぞった。五本の指が沿うよう上下したり、それぞれがからかうように掻いたりと、熱が上る手助けをしている。
でも、足りない。
「懺悔はおしまい? これだけでいいの?」
口を開いた瞬間に、親指が先端をぴんと弾いた。
「ぁあっ……! め、めいくん、直接、触れてほしっ」
「素直ね~。いいよ、赦しを与えてあげる。見ててあげるから脱いで。座ったまま、情けなく赦しを請うの」
軽く踏んで、両足が離れた。威圧的に足を組み、こちらの一挙一動を監視している。羞恥心がくべられて、下腹部の良くない熱は強くなっていく。視線が突き刺さることすら快感に変わっていて、自分の手の震えが恥じらいからなのか興奮からなのか、分からなくなっていた。
「あはは、ご主人クンはベルトを外すのも下手ね~。おれにお世話されて、自立力がなくなったのかな。そんなご主人クンも、手が掛かって可愛い!」
焦らせるような言い回しを選んでいるのは、彼の声色で分かった。外れないもどかしさが、欲望を更に高めていく。
ようやく外せて顔を上げれば、ねっとりとした視線とかち合った。身体の内側から痺れが沸き上がり、波打つように広がっていく。
年下の、しかも自分が好きだと自覚している相手に、こんな哀れな姿を晒している。見られたくないけど、じっくりと見ていて欲しい。
身体を引いて、見せつけるようにチャックを降ろした。中途半端なところまでスラックスを下げて、パンツのゴムに手を掛ける。彼から視線を逸らせないまま下にずらせば、押さえつけられた反動から陰茎がお腹に当たった。
「ふ、触れて、くださいっ」
「赦しましょ~!」
両足は先端を包み、指も使って揉み上げた。先走りが潤滑油になり、ぬちゃぬちゃと音を立てている。快楽に溶かされてしまいそうなのに、何故か射精にはほど遠く、ずっと強い刺激だけが与えられている。絶頂を求めて腰を振るのを止めれなかった。
「いつにも増して必死で可愛い! どう、気持ち言い?」
「きもち、いっ、けどっ!」
「おれの足だけでも楽しいみたいね~。寂しいから、罰も与えま~す」
「えっ、そん、あぁっ、えっ……!?」
先端を擦る速度が上がり、飛び散るように快楽が弾けた。
「ぁあー……!」
足を押し上げるようにしょわっと吹き上がり、背骨が抜かれるような脱力感に襲われる。射精にも、この間の我慢させられたときにも、どちらにも似ている激しい快感が駆け抜けた。快楽に耐えきれず、足には変な力が籠もり、めいくんの足裏にすり寄った。陰茎は未だ立ち上がったままで、媚びるように擦ると、残っていたものがまた吹き上がって、彼も床も汚した。
息は整えられず、ただ快楽を必死に貪っている。
「ごめ、なさっ、ひとりでっ」
「寂しいな~」
俺を責めていたものが透明な液体の上に落ち、水音を立てた。絶頂の証に羞恥心が沸き、まだ触れられていない胎内が疼く。
長い指先が、形の良い唇をなぞった。
「ご主人クンだけ気持ち良くなって、暇で寂しいおれを慰めて?」
シスター服の上を這うように身体を持ち上げ、唇を重ねた。俺が落ちないように抱き寄せられ、そのまま舌を絡め合った。片手を背中に回し、混じり合いを深めていく。音を立てるたびに、互いが触れるたびに、彼の存在を強く感じた。
視界の端で、ピアスが揺れていた。空いていた手を伸ばして、いくつものアクセサリーに彩られた耳の縁を撫でた。驚いて離れようとする彼に必死に食らいつけば、動きがぎこちないながらも、俺の行動を許容される。
ほんのり熱い金属の上を、指の腹が滑っていく。皮膚に触れるとぴくっと震え、恨めしそうにこちらを睨んでいた。穴とピアスの境界を探れば耐えきれなくなったのか、舌を緩く噛まれる。
向かい合うと、垂れ目は怒りから釣り上がっていたが、怖いとはまったく思えなかった。
「……触らないで」
ふん、と顔を逸らされ、目の前に現れた愛おしい曲線にそっと唇を落とした。
「触らないでって言った!」
子どもっぽい言い回しで怒られた。胸に沸く愛おしさが、彼にまでバレてしまいそうだった。
言葉で伝えるのを諦めたのか、荒々しく唇を塞がれる。口内を蹂躙し気が済んだのか、むすっとしながら離れていく。
「……なんで触ったの?」
「理由を言っても、怒らない?」
「もう怒ってる」
頑張って精一杯睨みつけているようだが、照れに負けた彼の表情はこちらに何も伝えれていなかった。拗ねる物言いに嫌だったわけではないと直感し、素直な気持ちを伝えた。
「めいくんの私服って、シンプルだったでしょ」
「その話しないで」
「あの姿のめいくんも、違う可愛い一面が見れて好きだよ。だから、本来の君の趣味なのかな、って思ったら、ピアスの一つひとつが愛おしくて、触っちゃった。本当に嫌だったら、もう触れないから」
めいくんは俺の言葉を咀嚼するように、自分の耳に触れた。目が泳いで、それから拗ねていたことを忘れたように柔く笑みを浮かべた。
「たまになら、いいよ。許してあげる」
「ありがとう、めいくん」
「……もっと触っていいよ」
小さく呟いて、耳を掴み広げた。包むように手を重ね、親指の腹でそっと撫でる。ん、と漏らし、もっとと強請っていた。
「有クンだけ、特別」
無防備な姿を、俺にだけ見せてくれている。唇が、勝手に思いを音に乗せた。
「好きだよ、めいくん」
言葉に反応して、頭の重みが押しつけられた。うっとりとこちらを見て、すり寄られる。
「おれも、あ、有クンのこと、好き! えへへ、こう言うと、ちゃんと嬉しいのね」
ちゃんと、嬉しいのね……?
「これから、もっと好きって言ってあげる! だから有クンも、可愛い、偉い、だけじゃなくて、好きって言ってね」
思わず、手が止まる。前から感じていた、好きの意味の違いを、突きつけられた。めいくんにとっての好きは、コミュニケーションの延長線上にしかないらしかった。
「嬉しいから、有クンのこと、もっと癒してあげる!」
そのままベッドに押し倒され、互いに快楽を貪り合った。気持ちはあの一言に持っていかれたままでも、身体は素直にめいくんを求め、受け入れた。
繋がっている間、俺を覆っているシスター服の胸元のリボンが解けそうになっているのに気付いた。手を伸ばしたけれど、指から端が逃げていき、俺では結び直すことが叶わなかった。
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