コスモス・リバイブ・オンライン

星海から訪れる侵略者

人機一体の心得

　そろそろＰリインの投与する準備をしなきゃ。
何かがマザーから飛び出し、雪華に体当たりを仕掛けてきた。
　Ｐリインに意識を向けていたせいで、反応が遅れてしまった。
躱し切れない。……だったら。


　体当たりを受けた雪華は大きく吹き飛ばされた。
宙で姿勢制御し、足から着地する。

『大丈夫！？』
「はい。Ｐリインは無事ですよ」
『そっちじゃなくて、マルヴェちゃんのことなんだけど』
「私ですか？」

　おかしいことを言う。
確かに派手に吹き飛ばされたかのように見えたかもしれないけど、自分から跳ぶことで衝撃を逃がしてある。
　機体へのダメージは最小限で済んでいるし、着地も上手く行った。戦闘続行に支障はない。
それぐらいよく観察すれば分かるはず。お兄さんは修業が足りない。


「新個体。ここまで来たのに」

　体当たりを仕掛けてきたのは今まで見たことのないＺだった。
飛行個体、上位個体、アルマジロ型のどれとも違う。
　この個体のデータはない。
どんな攻撃を仕掛けてくるか不明。まずは観察から。


　ダガーを構え、一挙手一投足を観察する。

『後ろ！』

　お兄さんの警告通り、背後で影が動いた。
大きくサイドステップを踏み、距離を取る。
　影の正体は通常個体だった。
動き出したのはこの個体だけじゃない。周囲の通常個体もこちらへ向かってきている。
マザーが姿を変えてから、ずっと沈黙を保ってたのに。


『ぴぎゅ、ぴぎゅぁ。ぴぎ！』
「えっと、何でしょうか？」
『あれが通常個体に指示を出してんだって』

　ということはあれは指揮個体ってことかな。
厄介な。


　これまでのＺも連携行動を見せていたが、指揮個体が介在したことにより、その連携が高次元な物に昇華している。
攻撃は常に多方向から。隙を見つけても、他の個体が即座にカバーに入ってくる。
　救いなのは指揮個体は積極的に攻撃に参加しないこと。
通常個体への命令と攻撃参加は両立させることはできないのかも。


　指揮個体と交戦したのは短時間だったけど、あいつの戦闘力は通常個体よりも確実に上。
上位個体より少し強いくらいかな。
でも、雪華ならば打倒は可能だ。
　だけど、それは一対一の場合。
通常個体を相手取りながらでは、きつい。


　目の前のＺの爪を受け流し、その腕を根元が斬り落とす。
切断するとき、ダガーからミシッと嫌な音が聞こえた。
　見ると、刀身に亀裂が走っている。
ダガーの耐久力に任せた無茶な使い方を何度かしてしまったからそのせいかもしれない。
たぶん、もう一回斬ったら、そこから折れてしまう。


　ダガー無しじゃ攻撃手段が減ってしまう。
状況を打開するには指揮個体を狙うしかない。
　ダガーに頼らない蹴りなど格闘攻撃は可能だけど、Ｚ相手だと打撃はあんまり有効じゃない。
Zの打撃に対する耐性は斬撃よりも高い。
　おそらく、ゴブリンやオークなどを餌にしていたからだろう。
あのモンスターの主な攻撃手段は打撃だったので。


『援護に！くっ、邪魔だよ！』

　敵から目を離したくないから、目を向けることはできないけど、お兄さんはたぶん飛行個体に阻まれているんだと思う。
おそらくユラお姉さん、ヴィニアさんも似たような状況だろう。
　地上部隊がここまで来るのは不可能。援護を期待するだけ無駄。
私一人で切り抜けるしかなさそう。


　でも、武装はダガーとパイルガンのみ。
ダガーはボロボロ。パイルガンの弾数も僅か。
　今の雪華の武装は貧弱そのもの。
本当は雪華のバックパックに寒冷地仕様の兵装を搭載されているんだけど、そのスペースにＰリインを詰め込んであった。


　こうなれば、イチかバチか指揮個体へ特攻する。
それしか手が残されていない。

『情けないのう。その程度か？』
「……お爺ちゃん」

　覚悟を決めた時、お爺ちゃんが通信に現れた。
お爺ちゃんから投げかけられたのは激励ではなく、叱咤だった。
叱咤は稽古の時にも飛ばされるけど、その言葉には普段はない棘があった。


『それでもＳＶコンバット使いか。修業不足だぞ』
「私だって頑張ってる！」
『武器は自らの手足と同じ。それはロボットでも同じではないのか？今のお前はどうだ？モーションコントロールという便利な道具を手に入れて、その意識がおろそかになっていないか？』
「うっ！」

　図星だった。
このシステムは自分が体を動かした通りに機体を動かしてくれる。
それは機体と一体化しているという錯覚を起こしていた。


　そう。錯覚。
私と雪華は一つになっていない。
　呼吸を整え、構えを取る。

「ごめんなさい。あなたを見ていませんでした」

　今度こそ、機体と一つに。
人機一体。それを体現して見せる。