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星海から訪れる侵略者

レギュレーション

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 マルヴェさんの試験を開始。
その結果、問題が発生した。関節部への負荷が想定を遥かに超えている。
 マルヴェさんの実力がケルヴィンFuの性能を上回っているのが原因だ。
ケルヴィンFuがマルヴェさんの挙動に付いてこれていない。


 彼女のパイロットとしての技量はモーションコントロールシステム抜きでも高い。
反射神経、状況判断能力ともに優れている。
だけど、彼女の勝率はスポーツ部門でもそこまで高くなかった。
 理由を聞くと、修業の一環なのだそうだ。
コスモス・リバイブでも修業するとは。


 彼女が使うことが許されているのは旧式のみ。しかも、二世代前の機体。
スクラップ工場でタダ同然の値段で手に入れたそうだ。
 旧式機を使うのは、修業の一環らしい。
勝率が高くなると、さらにハンデを付けるそうだ。
それでも勝率が上がっていくのだから、彼女の技量の高さが伺える。


 今、彼女に課せられた枷はそれだけじゃない。
試合前にコロッセオの外周を五周し、疲労困憊の状態で試合に出るそうだ。
 常に万全の状態で戦えると考えるのは傲慢。
極限状態でも戦えるように備えることが大事。
毎度のことながら、SVコンバットって。


 彼女の動きに合わせて、ケルヴィンを再調整する。
そのための協力者をケルヴィンさんが集めてくれた。
 ハンタークラン【一矢】
彼らは剣闘士ではなく、モンスター狩りを専門としたクランだ。
剣闘士ではないため、コロッセオ側との距離は遠く、僕らに協力しても問題ないそうだ。


 一矢は総勢14名。その内の半数がメカニックで、残りはパイロットだ。
メカニック陣はケルヴィンFuの調整を、パイロット陣は模擬戦を買って出てくれた。
彼らの協力があったけど、残り時間が少なすぎる。
大したことはできなかったけど、一戦だけならば機体も持つだろう。
 

 試合は明日。
今日はレギュレーション違反をしていないかの検査だ。
レギュレーション違反で不戦敗ということにはならないはず。
ケルヴィンさんによれば、ナンパ男は公衆の面前で敗北させることにこだわっているそうだ。

 コロッセオから派遣されてきた三人の検査員たちが、僕らのケルヴィンを調べている。
彼らの作業を監視していると、一人の男が懐から箱を取り出し、それを機体の内部に仕込んだ。


「問題なしです」

 なにか怪しげな物を仕掛けた癖に白々しい。

「いいえ、大ありですよ」
「は?何か問題でも……ぎゃあ!」

 スタンガンを使い、彼らを気絶させた。
一人だけじゃなくて、全員を気絶されたのは残り二人も共犯だったからだ。
一人は僕らの注意を引き付け、もう一人は作業を隠すための壁になっていた。


 三人を別々の部屋に運ぶ。
一人ずつ尋問したいところだけど、あんまり時間を掛けられない。
彼らの帰還が遅くなれば、不審がられてしまうからだ。


 尋問を担当するのはユラさんとアローさん、アウラさん、そしてフォード副艦長、コスモス・リバイブではヴェルリーヤさんの三組が行う。
 僕が見学しているのはアウラさんの尋問だ。

「こんなことをしてタダで済むと思ってるのか!」
「それはこっちの台詞なんですけどね」

 彼らが仕掛けた箱なんだけど、調べてみると、爆弾だった。
大した威力はないが、試合中に爆発したら、間違いなく機体は行動不能になるだろう。
それにパイロットが死んでた可能性もゼロではない。


 喚いている男に用意しておいたカプセルを無理やり飲ませる。

「何を飲ませた!?」
「貴方たちが仕掛けた物と同じ物ですよ」
「まさか、爆弾か!」
「安心してください。威力は弱いですよ。ただ体内で爆発すれば、臓器に穴は開くでしょうね。そうなれば、人間なんて……」

カプセルのことを説明すると、男はようやく自分の立場に気付いたみたいだ。
察しが悪いよね。


「助けてくれ!俺もこんなことやりなかったんだよう!逆らったら、俺たちもどんな目に遭うか」

 男は命乞いを始めた。
 彼に飲ませたのは爆弾じゃない。ただのカプセルだ。
本物の爆弾なんて、飲ませるわけがない。
 カプセルは体に全く害はなく、何もしなくても、いずれ体外に放出される。
でも、彼がそれを知る手段はない。せいぜい、震えてろ。


「やりたくなかったよね。分かってるわ」

 アウラさんは諭すような優し気な声で男に語り掛ける。
彼女が醸し出す雰囲気と声色は優しく、引きずり込まれそうな錯覚を覚えた。

「アナタの知ってることを全部教えて。そうすれば、ちゃんと帰れるから」

 男は涙ながらに自身の知ることを語り出した。
なんか拷問とかするよりも質が悪い気が……
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