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絆と禁忌

星の獣

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 今日はケルン製造装置の引き渡し日、この日に備えて、BHボンドのブランクケルンの予備は大量に作っておいた。
しかし、引き渡しは中止になってしまった。
 原因は飲兵衛たちのせいだ。
彼らはマイグラントからケルン製造装置から取り外す作業を担当だった。
こいつらは飲み会にぶっ通しで参加し、


 作業に入ったのは予定日から遅れること三日。
予定外の作業の遅れで、何人かはキレていたりする。
 飲兵衛たちは昔の映画に出てくるゾンビのようなノロノロとした動きと顔色で作業を進めていた。
彼らは二日酔いの状態異常になっているのだ。


 二日酔いはマイナーポーションで治療可能だけど、あげるつもりはない。
ウラノス教にも売らないように手を回してある。
作業をサボっていた罰だ。この程度済んだのは感謝してほしい。
もっと過激な罰や罰金刑を提案した人だっていたんだから。


「スワロ様。お客様です」
「誰?どうでもいい人なら追い返して」
「皇帝様です」
「皇帝が?」

 皇帝を待たせるのはまずい。
皇帝を待たせている部屋に急ぐ。


「お待たせして申し訳ありません」
「ここは其方の城だろう。城の主ならへこへこするな。もっと堂々としたまえ」

 二日酔いゾンビと同じかそれ以上の量を飲んだはずなのに、彼らと違って生気に満ち溢れていた。
最初に感じた王者の風格も取り戻している。


 皇帝は護衛を連れてきていなかった。

「お一人ですか?」
「うむ。兵団の連中は撒いてきた。今頃、血眼になって捜索しているだろうな」

 豪快な笑い声を上げているが、兵団の人達が可哀想だ。
皇帝に気付かれないようハンドサインを壱に送る。これで兵団に連絡が行くはずだ。


「何故ここに?」
「聞きたいことがあるのだ。遺跡で見たものを話してくれないか?」

 それは僕にとっても好都合だ。
遺跡の壁画の謎は解明されていない。皇帝ならば、何か手がかりを握っているかもしれない。


 枚数が多いので、重要そうな壁画を中心に見せていく。

「これはおそらく神話の一説だな」
「神話?」
「イドに古くから伝わる神話だ。少しマイナーだが、歴代の皇帝はみな知っている」

皇帝は語り出す。


その者、彼方より来訪せし、災厄。
その者、生きとし生けるもの、全ての敵。
人、敗北し、我ら滅びん。
星の獣、眠りより目覚め、災厄を祓わん


 とりあえず、滅びたのに何で今も人間がいるのというツッコミは胸の中に仕舞っておく。
たぶん、どっかに生き残りがいたんだろう。

「星の獣というのは?」
「おそらく守護獣様のことだろう」

 守護獣とはイドが窮地に陥った時、目覚める獣だそうだ。
 どのような姿をしていたのかは定かではないらしい。
その想像図の数は千以上を越えており、その中でも一番へんてこなのは人間の姿をした想像図だそうだ。
ちなみにその想像図は共和国産。あの国は人こそが頂点だと考えているらしい。


「こちらでも研究したい。データを譲ってはもらえないだろうか?勿論、対価は支払う」
「いいですよ。ですが、対価はいりません」

 壁画の写真はすでに掲示板に投稿されているので、簡単に手に入る。
掲示板はプレイヤーにしか見れないけど、プレイヤーが仲介すればいいだけだ。


「そうはいかん。無償では帝国の威信に関わる。受け取れ」

 皇帝は自身の服に取り付けられていた装飾品を引き千切り、僕の手に乗せた。
袖に付いていたボタンで、台座には大きな宝石が嵌められていた。
 

「国宝ではないが、それなりの価値があるだろう。遠慮なく金銭に変えてくれ」

 鑑定してみないことには分からないけど、おそらくはルビーなどのコランダム系。
このサイズだから、相当な値が付くはず。
 貰いすぎな気がしたので、ヒヒのデータも渡しておこう。
皇帝はその報酬として、もう片腕のボタンも渡そうとしてきたが、それは全力で拒否した。


「其方はこの星の人間ではないのだろう?」
「御存じでしたか」

 獣耳カチューシャを外す。

「良くできておる」
「自信作ですから」

 皇帝は興味深そうにカチューシャを眺めていた。


「製法を譲ってはもらえないだろうか?」
「いいですけど、何に使うんですか?」

 皇帝によると、事故などで欠損したために獣耳がない人がいるらしい。
特に元軍人に多いそうだ。
 生きるのには支障はないが、獣耳はイド人にとって、アイデンティティーの一つ。
それを失ったことによって、精神に異常をきたす者もいるらしい。
皇帝はそのケアに使いたいそうだ。


 思念波制御型はチャネが必要なので、初期案の脳波制御型の設計図を譲ることにした。
毛の感触や色の調整方法などもちゃんと記されている。
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