コスモス・リバイブ・オンライン

絆と禁忌

解放者

「これでも無理か」

　加速した状態でトライクスに背中に斬撃を加えたんだけど、あんまり効果がなかった。
増加装甲は貫通したが、その奥にある機獣本体へは大してダメージを与えられなかったのだ。
　この方法で撃墜するには数十回同じ場所に斬撃を与えなければならない。
他にもパイロットを狙う手があるが、難易度が高すぎる。
トライクスのコックピットは人間でいえば、喉ぼとけの辺り。下手に近づけば、噛み潰されてしまうのだ。
そんな危険を冒せない。

【シーカーＮｏ.６、スタンバイ完了。シーカーズ全機、スタンバイ完了】
「よし！」

　この知らせをずっと待っていた。
これまでの戦いはただの時間稼ぎ。全てはこれを発動するために足止めをしていたにすぎない。
　僕は正々堂々と戦うつもりなど更々なかった。
というか、正々堂々と戦っても勝てるわけがない。


「それじゃあ行くよ。テレパスコネクト、全リミッター解除、レベル５に移行！」

　レベル４ではシュライストのこの能力を最大限に発揮できないため、最大のレベル５に引き上げる。
シュライストの操縦をしながらなので、結構きつい。キャパシティギリギリだ。
さっさと始めよう。


「先に謝っておくよ、ごめんね。シーカーズ、システムロック解除。クラックテリトリー展開！」


◇暴竜、マルチラプターパイロット視点

「たった一人にここまでやられるとは」

　敵は単機。その単機に我ら暴竜は好き放題やられている。
マルチラプターの三分の一がやられており、プテラセプターに至っては全滅している。
機獣愛連合にぶち込む予定だったギガントダイナソーのサウルス砲も壊されてしまった。


　バルカン砲の砲門を空に向けようとするが、その動きが突如停止した。

「おい、どうした。動け！」

　操縦桿を動かしているのに、マルチラプターはピクリとも動かない。
何かしらの不具合が起きているみたいだ。

「クソっ！整備の連中、サボりやがったな！」

　不具合の原因を確認しようと、コンピューターに手を伸ばす。


　その時、コックピット内の雰囲気が変化した。
コックピット内に満ちているのは殺意。全身の震えを押さえることができない。
　突如、ハッチが開き、外に投げ出された。
体が地面に強く叩きつけられる。


　立ち上がろうとしたが、下半身が押さえつけられた。
押さえつけているのは先ほどまで搭乗していたマルチラプターだ。
　拘束具で押さえつけているはずなのに、勝手に動いている。

「まさか、酉が近くにいるのか！？」

　十二邪将の酉の劣化種。
オリジナルと同じくあいつも拘束具無効化能力を所持している。暴竜の天敵とも呼べるモンスターだ。
　だけど、鳴き声は聞こえなかったし、索敵も怠っていない。
この近くにいるはずがなかった。


「……まさか、あいつが」

　奴は空中で静止し、こちらを冷たく見下ろしていた。

「……悪鬼」

あの機体のデザインは鬼をモチーフにしている。自然とその言葉が頭に浮かんできた。


　マルチラプターによって、下半身は完全に踏み潰されてしまった。
まだ生きているのはイド人の強靭な肉体のせいだ。
普段は有り難いが、今は邪魔でしかない。

　
　上半身を何とか起こし、周囲の状況を確認する。
俺だけではなく、仲間たちも同じような目に合っていた。
特に酷いのは俺と同じくマルチラプターに搭乗していた者だ。
すぐに殺さず、傷みつけられている。
トライクスにはマルチラプターのような気質がないらしく、そのパイロットは嬲り殺しに合うことなく踏み殺されていた。


　俺は正気を保てているけど、仲間の中には恐怖で発狂している者もいた。羨ましい。
正気を保てているせいで、自身や仲間に襲い掛かる惨劇を目撃する羽目になっている。
　上半身を俺のマルチラプターに、下半身を別のマルチラプターに咥えられた。
上下に引っ張られ、体は真っ二つに裂けていく。

「夢に出なきゃいいけど」

　そうは言ったが、多分出る。しばらく安眠はできないかも。


【キャラクターdead】


◆視点終了

◇スワロ視点

「こりゃ酷い」

　地上は人間への復讐に燃える機獣によって、地獄絵図の様相を呈していた。
普段は全力で否定しているけど、今の僕は悪鬼以外の何者でもない。
この光景を作り出したのは僕なのだ。


　クラックテリトリーとはシュライスト最大の能力である。
簡単に説明すると、敵機のコンピューターにクラッキングを仕掛ける能力だ。
　クラックテリトリーの展開にはシーカーズとの連携が必須となる。
一機だけにクラッキングを仕掛けるならシーカーズなしでもどうにかなる。
だけど、複数機に仕掛ける場合、シーカーズの助けがいるのだ。