上 下
364 / 816
風吹く星よ

体内潜行

しおりを挟む
◇ 巫女と空の王

 双子とモンスターの子供は友達になりましたが、出会いには別れが付き物です。
それに人とモンスター。同じ生き物ですが、ずっと一緒にはいることはできません。
 双子はモンスターの子供を大人たちに隠していましたが、いつまでも隠し通せるものではありません。
ある日、納屋をお片付けしていたお母さんにバレてしまいました。


 双子は必死に庇いますが、モンスターは危険な存在です。
いつ二人を襲うか分からないのです。
 大人たちは村から追い出そうとしました。
ですが、二人の熱意に負けて、様子を見守ることになりました。
モンスターの子供はとても大人しく、あっという間に村の一員として受け入れられました。


 そんなある日のことです。
二人と一匹が仲良く遊んでいると、村に日の光が降り注がなくなりました。
空に日の光を遮る者が現れたからです。
 それは空の王でした。
空の王はヴィンディスで最も偉大な存在です。


 モンスターですが、決して人を傷つけたりはしません。
それに空の王は人間が住んでいる場所に近づいたりはしませんでした。
 彼は迎えに来たのです。
モンスターの子供は空の王の子供でした。


 別れの時が訪れたのです。
二人と一匹は別れを惜しみ、泣きわめき、抱き合ったまま離れようとはしませんでした。
 それを不憫に思った空の王は双子に贈り物を与えました。
自分の子供を助けたお礼でもあったのでしょう。
それはとてもとても素晴らしい贈り物でした。


 空の王の子は親の背中に乗り、村から飛び去って行きました。
 二人と一匹はさよならは言いません。
再会を約束したからです。


 この時は誰も気づいてはいませんでした。
この日、二人の巫女が誕生したのです。


◇スワロ視点

 穴の半分程度まで進むと、かまいたち攻撃が飛んでこなくなった。
どうやら、この深さまで攻撃することはできないらしい。
次の手を警戒していたけど、妨害に遭うことなく、無事に穴の底まで辿り着くことができた。


「侵入に成功しました。行動を開始します」
『了解。健闘を……』

 侵入成功をヴェルウィドウさんに報告していると、通信が途切れた。
見上げると、入ってきた穴がなくなっている。
やはり穴が閉じると外部と通信ができなくなるみたいだ。


『もう引き返せないね』

 外部との通信はできないが、紅霞との通信は可能だった。
妨害電波などが出ているんじゃなくて、密閉された空間にいるせいで、通信が届かないだけのようだ。
 他にも異常はないか確認する。
一番に確認したのはインベントリだけど、問題なく使えた。


 問題が出ているのは通信だけのようで、その他の機能に異常は見られない。
まだインベントリに異常は出ていないが、先に進むとそれも使用できなくなるかもしれない。
武装は仕舞わずに、そのままにしておく。


 次は機体のチェック。
 降下中にエネルギーシールドを展開したため、エネルギーを消費してしまったが、増設バッテリーのおかげでまだまだ余裕がある。
紅霞の機体ステータスもチェックしたが、こちらも問題ない。
これからの行動に支障はないだろう。


 ステータスをチェックしていると、現在進行形で攻撃を受けていることに気付いた。
 肉壁から液体が染み出ており、鑑定してみると、強い酸性を持つ液体だった。
 鉄ぐらいなら容易に溶かせるぐらいの強さがある。
おそらく侵入させたシーカーズが壊れたのはこれのせいだろう。


 シーカーズは壊せるが、ジルコニアと紅霞には通用しない。
こういった事態になることはユラさんが想定していた。
 どちらも彼女が酸対策の塗装を施している。
この塗装に使われた特殊塗料は酸への強い耐性があり、ちょっとやそっとの酸では溶かすことは不可能だ。


「で、どっちに進もうか?」

 僕らの前には二つの道がある。
一つは狭い通路だ。
高さは3m程度しかなく、ジルコニアなら通れるが、紅霞は不可能。


 もう一つは広い通路だ。
こっちは天井が高く、紅霞でも進むことができる。
 狭い道を使う場合、二手に分かれることになる。
広い道を使えば、二人で進めるが、このルートが外れだった場合、大きく時間をロスしてしまう。


 他のルートはない。
肉壁を破壊しようとしたが、すぐに再生されてしまう。
 二人で話し合った結果、二手に分かれることに決めた。
戦力の分散は避けたいが、時間のロスのデメリットの方が重い。 


 近衛隊といえども、そう長く持つとは思えない。
一つずつ確かめている暇なんてない。
 僕らが成功しても、外にいる人たちが全滅していれば意味などないのだ。
近衛隊が壊滅する前に、止めなければならない。
 

「気を付けてね」
『スワロ君こそ。油断しちゃ駄目よ』

 こちらにはユラさんが来れないが、僕は向こうに行くことができる。
ユラさんのルートが正解だった場合はすぐにそちらに向かうつもりだ。
通信が生きていて本当に助かった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ドラフト7位で入団して

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:10

一般人がトップクラスの探索者チームのリーダーをやっている事情

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:768pt お気に入り:88

貴方のために涙は流しません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:37,375pt お気に入り:2,601

短い怖い話 (怖い話、ホラー、短編集)

ホラー / 連載中 24h.ポイント:28,542pt お気に入り:67

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:38,212pt お気に入り:29,970

緑の指を持つ娘

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:70,234pt お気に入り:1,297

婚約破棄ですか。別に構いませんよ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:745pt お気に入り:7,513

処理中です...