コスモス・リバイブ・オンライン

霧の魔

空を駆り、あの子へ

　今日、八雲さんがコスモス・リバイブを始める。
しかもヴィンディススタートで。
　松葉さんらがいるイドで始めると思っていた。
僕が知ったのは昨日。


　八雲さんはだいぶ前に伝えていたそうだけど、認識してなかった。
八雲さんの勘違いじゃない。その時、一緒にいた松葉さんたちの証言もあるし。
　多分、僕が聞き流していたんだと思う。
あの頃はサカパラのことで頭が一杯だったから、しょうがないでしょ。


　その際、初期位置まで迎えに行く約束やパーティを組む約束もしていたらしい。
で、問題が発生した。僕はエンジ島にいる。
エンジ島からプレイヤーの初期開始位置は遠いのだ。
　通常の方法では間に合わないし、エンジ島から直通の船もない。
行くには隣島のナートリ島を経由しなければならず、その船の出発も明後日になる。


　なので、ウェンディーＦＡ３改めウェンディーＦＡ４を使い、自力で向かうことにした。
　ＦＡ４はＦＡ３を修理改修した機体で、ＦＡ３より一mほど小さい。
小さくなっても、パワーは低下しておらず、そのままだ。小さくなったことで軽量化にも成功している。
　装甲はネオアイアン単一ではなく、セラミックを内部に使用した複合装甲に変更、これによりさらに軽量化。
総重量はＦＡ３と比べると、一割ほど軽くなっている。軽量化でＦＡ３の最大の弱点だった稼働時間も少し改善した。あと腹部に付けた脱出装置兼大砲は外してある。


　ＦＡ４を全速力で飛ばしても間に合わないので、大気圏脱出用に開発した試作型ブースターを取り付けてある。
このブースターはもう使わないから、ちょうど良かった。
　宇宙船の推進器の損傷が想定より下回っていたため、これは不要になってしまったのだ。
新規で研究するより、大気圏脱出の実績がある方を研究した方が有意義なのだ。


　不採用にしたけど、ＦＡ４の推進器と比べるとその推進力は段違い。
無補給でも飛び続けられるように、ブースターの推進剤のタンクを増設しておいた。
無理矢理増設したせいで戦闘は不可能だけど、飛行自体は問題ない。
これを使えば、今日中に着くはずだ。


　オートパイロットを使うので、操作は不要。
予め入力しておいた航路通り飛んでくれる。
　エンジ島から初期位置への航路は直線ではない。
迂回している箇所がある。
　真っ直ぐ行けば、時間の短縮は可能だけど、それはできない。
航路は絶対に守らないと。


　理由は空には恐ろしいモンスターがいるからだ。
エンジ島でゴブリンを倒すために使われた巨大なバリスタもそれ用の兵器で、あのレベルじゃないと、対応できないそうだ。
ただし、バリスタを使用しても追い払うのが限界らしい。


　空魔は縄張り意識がとんでもなく強く、自身の縄張りに人間が侵入したら、怒り狂ってしまう。
一種の災害だ。
　振り切れるとは思うけど、彼らを刺激するのは危険。
怒り狂って近くの町を襲いに行くかもしれない。


　プレイヤーが空魔を刺激し、被害が出たこともあったし。
あるクランが討伐を試み、大失敗。
　激怒した空魔に近くの町々が襲われてしまった。
追い払うことは成功したそうだけど、かなりの被害が出たらしい。
　ヴィンディスのプレイヤーへの風当たりが強いのは革命だけじゃなく、そういうのの積み重ね。
完全に払拭できるときは来るのだろうか？
　

　島から飛び立ち、空を超高速で進む。
体に掛かる負担が大会の時とは桁違いだった。
　耐えられないほどじゃないけど、結構きつい。
Ｄクロスがなかったら失神していただろう。


　飛び続けること三時間。
目的の場所、始まりの都市ルドフィーに到着した。
　時計を見ると約束の時間にはまだなっていない。良かった、間に合った。
有料の発着所にＦＡ４を止める。
無料の所もあるけど、サービスが悪いらしいからやめておいた。


　開始位置に向かう前に、発着所のスタッフにエアロダイト結晶の交換を頼んでおいた。
彼らはそれだけでなく、物資の補給も手伝ってくれるらしい。ついでにエンジ島で手に入りにくい物を色々と注文しておく。
有料だけあってサービスがいい。


「もう来てるかな？」

　ヴィンディスの開始位置はルドフィーの大公園。
その中央にある櫓だ。
　結構人が多い。
新規プレイヤーとそれを自身のクランやパーティーに勧誘する古参プレイヤーたちだろう。
この中から彼女を探すのは難しそうだ。


　そういえば、彼女のアバターの詳しい容姿は不明。
金髪のポニーテールにしているとだけ聞いていた。
　周囲を見回し、らしき人物を探す。
金髪ツインテールや黒髪ポニーテールはいるけど、金髪ポニーテールは見当たらない。
まだ来てないのかな？