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祭りだ!大騒ぎだ

ミュージアム コネコの怪作

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 リコリスさんとパッション君は着替え中。
僕らはすぐに着替えられるけど、彼女たちのはゴテゴテしているせいでは時間が掛かる。
メービ君は着替えの手伝いをしてくれている。
 その間にカジノについてアローさんと相談しておく。

「クエストクリアにならないね」
「うん。条件が違ったのかな」

 予想に反し、デバイスにクエストクリアの知らせは届いてなかった。
カジノのクエストはギャンブルじゃないのかな。
 勝ち金額じゃないとすると負けた金額の方なのかも。
デバイスから呼び出し音が鳴った。

「ちょっとごめん」

 表示を見るとコネコだ。

「もしもし。何?」
『作品の展示方法が決まったんだ。ぜひ見に来てくれ』
「あとで行くよ。今は忙しいんだ」
『馬鹿者。今この瞬間の芸術を味わなくてどうする。光の当て方やポーズで……』
「分かったから。行くよ」

 こういう時のコネコの話は長い。さっさと切り上げるに限る。


「ごめん。少し抜ける」
「どうしたの?」
「仲間がデザインコンクールで出品しているから、それを観に行くんだ」
「じゃあ私も行こうかな」
「やめといた方が」
「お待たせ!待った?」
「今からミュージアムにあるスワロの仲間の作品を観に行こうと話をしてたんだ」
「いいじゃん!行こう!」
「ちょっと待って」

 僕の静止を聞かず、リコリスさんたちはミュージアムエリアへと歩き出してしまった。
ごめん。パッション君。君はこれから悪夢を見ることになる。


 ミュージアムエリアは作品を展示するための美術館があるだけだ。
カジノと違い、ドレスコードがなかったからこのまま格好でも入ることができた。
コネコを探すついでに、他のプレイヤーの出展物を見て回ることにした。

「うーん」
「微妙じゃない?」
「ただの色違いだよね」
「これなら俺でもできる」
「これを出す勇気を称えましょうよ」

 上から、僕、アローさん、リコリスさん、パッション君、メービ君の感想だ。
出展作の多くはただの色違いとか角を付けただけだったのだ。
 これでよく出展できたもんだ。
デザインコンクールなんだから、もっと凄いのが見れると思ったんだけど、完全な期待外れだった。


 中にはちゃんとした物もある。
外装の一部を独自の物に変えており、こだわりが見て取れる。
デザインコンクールなんだから、これぐらいはしてほしい。
 コンクールの審査は完全に運営サイドが独断と偏見で決める。
理由は組織票対策らしい。
大手クランの身内に投票をして、受賞作を独占することを避けるためだ。


「スワロくんの友達の作品はどこ?」
「こんなに広いと見つけるのに苦労しそうだけど」
「大丈夫だよ。あいつの作品がどこにあるかなんてすぐに分かる」

 方法は簡単。耳を澄ませばいいだけ。


「きゃあああああああ!」
「ぬぉ!」

 遠方から老若男女の悲鳴が聞こえてきた。

「何かな?」
「僕の仲間の作品を観たんだと思うよ」

 悲鳴が聞こえてきた方向に向かう。すれ違う人の多くは青い顔をしていた。
コネコの作品を観たんだろう。
しょうがない。あれを観たらそうなる。


「おお!来たか!」

 悲鳴の発生源にコネコがいた。
そして、その傍に問題の作品があった。

「刮目せよ。これが我が傑作『桜』だ」
「作るの手伝ったんだから、何度も見たよ」

 作品名、桜
日本人の心の原風景を表現したらしい。断じてこれは桜ではないし、こんな原風景を持っている人は存在しない。
 言葉に表すなら桜の人面樹。
機体の頭部は桜の花びらが広がっており、ここだけ見るならとても美しい。
作るのは本当に大変だった。コネコが花びら一枚一枚の配置にまでこだわったからだ。


 問題はその下。
機体の胴部、幹には人間の顔が複数浮かんでおり、そのどれもが悲鳴を上げているかのように顔を歪ませている。
その幹も木ではなく、人間の腕が絡み合った物で、目を背けたくなるほどのグロテスクさだ。


 根に当たる部分にも人間がいる。
根が人間の腹部を串刺しにしており、その顔は苦悶の表情を浮かべていた。
 この表情を作るのに、コネコは時間を掛けていた。
桜の木の下には死体があるという都市伝説があるのは知っているけど、これはない。


 ボーズや光の当たり方で以前観た時よりもグロテスクさが増している。
 僕はとっくの昔にコネコの作品に慣れているけど、初めて観たメービ君は青ざめて、僕の背に隠れていた。意外なことにアローさんも。
こういうのが好きなリコリスさんは気に入ったみたいで、何枚も写真を撮っていた。


 意外なことにパッション君は先ほどから直立不動で微動だにしていない。苦手だと聞いていたから悲鳴を上げると思っていた。
あまりに不自然だったので目の前で手を振ってみると反応がなかった。

「……気絶している」
「我が芸術の衝撃に耐えられなかったようだな」
「単純に怖かったからだと思うよ」

 たぶんパッション君はしばらく悪夢を見ると思う。
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